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日々のことを徒然と。あと、絵や二次小説も掲載しています。主にリリカルなのは中心です。
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東方現想禄 二 「落とされて幻想郷」

前回のあらすじ
・頼られやすい男
・どうやら能力持ちだった男
加齢臭……アッー!







 ――ずっ……ズズッ……。

 何かが俺の背後から這い寄ってくる。液体がこぼれるような、ゼリー状の何かを引きずるような気色の悪い音。真っ暗闇の中、俺の後ろから響く、奇妙な音。

 ズズ、ズズズ……。

 俺の知識にはない。こんな音を出して動くものは。這い寄るのはいったい何者なのか。俺に確認するすべはない。なぜなら、俺の首は全く動くことはなく、振り返ることもできないからだ。

 ズズッ、ズズ……ズ……。

 這い寄るのは何なのだ。なぜ俺に近づいてくる。確認しようにも首は動かない。まるで万力で押さえつけられているかのように、動く気配はない。たとえ動いても、この暗闇の中では何も見えなかっただろう。つまり、すべては無駄なことだった。

 ズズ、ズズズ。

 音は近づいてくる。確実に俺の後ろに。もはや目を開くこともかなわない。俺にできることは、これからの運命に幸福があることを神に祈ることだけだ。もっとも、そのご加護が届くはずもないことは、背後に迫った状況を察すればすぐに想像がつくのだが。

 ズ。

 俺の後ろに迫るこれは何なのか。ひたり、とそれが俺に触れる。俺は何かに急かされるように、喉の奥から声を張り上げて、叫んだ。

「し――、」




















 

「少女臭だっつってんだろおおぉおぉおお――ッ!!」

 叫ぶ。と同時に、身体にかけられていた布団をふっ飛ばす勢いで上半身を起こした。

「はぁ……はぁ……。……ゆ、夢、か……?」

 俺はどこか現実感がないまま呟き、額に浮かんだ汗を手の甲で拭う。

 お、恐ろしい夢だった……。いや、詳しく内容は覚えていないんだが、何かとてつもなく恐ろしいものだったということは覚えている。起きぬけにあんなことを叫んだのがいい証拠だ。

 ……あれ? 俺、さっき何を叫んだんだっけ? つい数秒前のことなのに、とんと思い出せない。記憶を手繰るが、やはりその記憶が手繰り寄せられることはない。いったい俺は何を叫んでいたのだろう。

 うーん、と納得いかない状況に唸っていると、不意にすっと何か物音がした。音源に顔を向けると、それは障子が開かれる音。そして、障子を開いたのは紅白のツートンカラーに身を包んだ少女。ぶっちゃけ巫女がそこにいた。

「ずいぶん大きな声だったわね。ま、それだけ元気があれば大丈夫かしら」

 若干呆れたような声音で言うのは、くだんの巫女。黒髪は背中の中ほどまで伸び、赤い大きなリボンが特徴的だ。あと、肩から分離した袂の長い袖も。つまるところ、腋が丸見えな巫女服。ようするに、博麗霊夢がそこにいた。

 思わぬ霊夢の登場に、ついつい彼女を凝視してしまう俺。うーん……本当に腋が出ている。今はお茶や水などを乗せたお盆を持っていることで腋を締めているから腋自体は見えないが、手を挙げれば確実に腋が見える。なるほど、確かに腋巫女だ。

 ……腋腋連呼してると、なんか危ない奴みたいだな。心の中だけとはいえ。

「……ちょっと。なんか腋のあたりに視線を感じるんだけど?」

 しっかりバレてました。口はしっかり俺の意志に従って閉じていてくれたようだが、視線は自重しなかったらしい。

「いや、なんていうか奇抜な……うん、あまり見ない巫女服だったから。ちょっと」

「そう? 守矢の巫女も同じようなものだけどね」

 そういえば確かに。なんなんだ幻想郷の巫女は。腋を出すのは規則なのか? いや、確か守矢神社の早苗は外から来ていたはず。……まさか、外でも腋巫女はいるのか? それはけしからん。帰ったら調べてみよう。

 妙な思考を始める俺。そんなことはお構いなしに、霊夢は俺が体を横たえている布団のそばに座り、畳の上にお盆を置く。

「まあ、それは置いておいて。身体の調子はどう? あなた、境内に行き倒れてたんだけど」

「境内に?」

 霊夢に言われ、身体をほぐして調子を確認しながら疑問符で返す。霊夢はそれに、そう、と答えるだけだ。そのまま、問いかけるような目でこちらを見ている。

 察するに、どうしてそんなところに倒れていたのかの説明をしろ、というところだろう。じっとこちらを見ている霊夢に相対しながら、俺はとりあえずそう結論付ける。

「そうなのか。まぁ、俺があそこで行き倒れていた理由は次の一言で理解できると思うけど」

「たった一言? 行き倒れる経緯にしてはみじか」

「紫」

「……理解したわ」

 またあのスキマか……、とため息とともに呟く霊夢は一気に疲労感が増したように見える。紫は一応霊夢と同じくこの幻想郷を守護してもいるのだが……、霊夢のことをからかったりすることもしばしばみたいだからなぁ。

「まあ、とりあえずここに来た手段はわかったわ。あとは、どうして紫に連れてこられたかよ。まさか遊びにきたってわけでもないでしょう」

 お茶を啜りつつ、俺に水を差しだしながら言う霊夢。水をありがたく受け取り、乾いていた喉を潤す。

 俺を連れてきた理由。それは、一つしかあるまい。紫が言っていた俺の能力が原因だ。つーか、あいつ制御法を教えるって言っていた割に、いないじゃないか。巫女――つまり霊夢を頼れということだったが、まさか霊夢がなんとかしてくれるのだろうか。

「ああ、そういえば忘れてた」

 俺が頭の中でこれまでの経緯をまとめているところに、霊夢の突然の声が届く。何事かと顔をあげると、霊夢はちょっとバツが悪そうに笑みを浮かべていた。

「私は博麗霊夢。この博麗神社の巫女よ。それで、あなたの名前は?」

 そういえば、お互いの名前も知らなかったんだっけ。俺は知ってたけど。

「俺は各務恭司。恭司って呼んでくれればいいよ」

「そ。じゃ、私も霊夢でいいわ。……それで恭司さん、理由はわかった?」

「ああ、まあ……」

 なんともはっきりしない理由ではあるが、一応はある。本当に俺に能力があるかどうかも怪しいところではあるので、確定事項とはいえない。まあ、紫がそんなミスをするとも思えないけど。

 とりあえず、巫女を頼れ、と言っていたことだし。まずは霊夢に話すこと、かな。俺は紫が言っていたことを自分なりにまとめて話す。

「まず、俺はそもそも幻想郷の人間じゃない。元は外の世界にいた、ちょっと人に頼られまくる以外は普通の人間だった。……と自分では思ってたんだけど、紫が言うには俺が人に頼られるのは俺の能力で、制御ができていないかららしい。それで、それを学ばせるために俺をこっちに連れてきた、とか」

「それだけ? 理由としてはちょっと弱い気もするけど……」

 訝しげな霊夢に、まだ終わりじゃないと言葉を口添える。

「なんでも、俺のその能力は紫の能力の下位に属するもので、制御せずに成長すれば幻想郷に悪影響を与える可能性がある……って、紫は言ってた」

 結局、その能力が何であるかは聞いてないんだけどね。最後にそう付け加えて、話を終える。

 聞き終えた霊夢は、やはり訝しげな顔のまま。半信半疑といったところか。それが俺が説明した俺の能力のためか、紫の行動の不審さゆえかはわからないが。

「へぇ、紫の能力に属するものなんだ。ずいぶんと面白い人間がきたもんだねー」

「うわっ!?」

 突然俺の横から響いた声に、俺は思わずのけぞって布団から飛び出してしまった。

 横を見やれば、長い二本の角と瓢箪を持った幼女が一人。

「萃香。まだいたの?」

 忘れられし鬼こと伊吹萃香。彼女の姿を確認した霊夢は、何の気もなしにそう口にする。それに対して萃香はわずかに口を尖らせて見せた。

「こいつをここまで運んでやったのは私なんだよ? 気になるのは当たり前じゃん」

「あんたがそんなに人間思いだとは知らなかったわ。まあ、私だけじゃ運べなかったから感謝はしてるわよ」

 言うと、霊夢はお盆の上に置いてあった煎餅をもちだして、はい、と萃香に手渡す。萃香はそれを受け取ると、嬉しそうに煎餅を食べ始めた。……うーん……餌付け、なのだろうか。というか、俺の価値は煎餅一枚と同等なのか。そう考えると少し悲しくなる俺である。

「それにしても、紫の下位属性にあたる能力ねぇ。悪いけど、私にはよくわからないわね」

 ……あれ? 霊夢にもわからないのか?

 おかしいな。紫は霊夢を頼るように、と言っていたのにその霊夢が何も知らないなんて。

「紫は巫女を頼るようにって最後に言っていたんだけど。ホントに思い当たらない?」

 俺が改めてそう問うと、霊夢は大きなため息をついた。え、俺なにかしちゃったのか?

 思わず心配になっておろおろしていると、霊夢は、ああ違うわよ、と俺が何かをしたわけではないと手を振った。

「あのねぇ。それ、たぶん私が知っているだろうから頼れって言ったわけじゃないわ。紫は基本的に夜か興味が刺激される時しか動かないのよ。で、今は夜じゃない。きっと、紫は寝たかったのね。それでその間は、ある意味の安全地帯であるこの神社にいろって意味だったんだと思うわよ」

 な、なんだってー!?

 自分の欲望優先で、俺のことは放ったらかしかよ!

 てっきり紫には何か考えがあって俺を神社に落としたのだと思っていた俺は、がっくりと膝をついた。体勢としては四つん這い。あの有名な落ち込み時の格好だ。

「まあ、あいつは人に合わせるような性格してないからねー。それでも、たぶん夜になれば来てくれるんじゃないかな? 紫に関係する能力なら、あいつしかわからないこともあるだろうし」

 ぽんぽんと俺の肩に手を置いて慰めてくれる萃香。片手には酒の入った瓢箪を持ち、それを口元で傾けている幼女は、そう言って次の瞬間には、にぱっと可愛く笑った。

「ま、行くあてがなくなれば私のところに来てもいいし。非常食ができるのは大歓迎だよ!」

 全力で遠慮します。

 俺は萃香の言葉に戦慄を覚え、すがるような目で霊夢を見た。ここでもし霊夢に見捨てられたら、俺は鬼の非常食行きが高確率で決定だ。そんなことはさすがに御免である。

 そんな俺の捨てられた子犬のような目が効いたのか、霊夢はしょうがない、とばかりに萃香を止めてくれる。

「こら、萃香。私の目の前でそんなことさせるわけないでしょ。まだお賽銭ももらってないのよ?」

「えー。鬼は人を攫うもんなんだぞー」

 ぶーぶー不平を洩らす萃香を、それでもダメだと突っぱねる霊夢はとても頼りになる。たとえ、俺の価値がお賽銭分しかないのだとしても。

 煎餅の次はお賽銭……。いま目から出てきたのは汗なんだと信じたい。

「それに、紫からの頼まれごとみたいだし、一応引き受けとかないと。昼の間だけみたいだしね」

 ありがてえ、ありがてえ。

 昼の間だけとはいえ、置いてもらえるならこんなに嬉しいことはない。神社に落とされた時点で、俺はここに住まわせてもらえないなら死ぬしかないのだ。

神社を出て人里に行くのは論外。途中で絶対に食べられる。能力持ちであるらしいが、使い方どころかどんな能力かすら分かっていないのだからどうしようもない。あとは、さっき言ったように居合わせていた萃香に頼る。これも論外。こっちも食べられる。

 要するに、神社の中から出たら俺は一瞬でただの食料になり替わるのだ。普通、こういうのは連れてきた紫がフォローするものだと思うんだが。アフターサービスの悪い運送屋だこと。

「ありがとう、霊夢。助かるよ」

 俺、居住まいを正して土下座。食べられなくて済みそうなことに感謝します。

 突然の俺の行動に霊夢は驚いたようで、ちょっと慌てているようだった。

「そ、そんな、いいわよ。そのかわり、掃除と炊事と自分の分のお洗濯とお茶くみとお賽銭と宴会の準備とか色々お願いね」

 あ、お掃除は私も手伝うけど。

 最後にそこだけちょっと訂正を入れる霊夢は、どこからどう見ても真剣だった。……ちょっと、守りたくなくなったよ最低限の礼儀。

 まあ、それでも一人暮らしの少女の家に転がり込むことになるのだから、それぐらいは当然か。俺は自分をそう納得させて、ずいぶんと忙しくなりそうな日常に、これまでの生活とを比較してみる。

 家へ帰って、ゲーム。マンガ、アニメ。あとはバイト。たまに友達とゲーセン。……見事に自堕落だったな、俺。この機に生活を見直すのもいいかもしれない。そんなことまで思う。

「……まあ、とりあえずは昼は霊夢のところでお手伝い。夜は紫に能力について教えてもらうってことでいいか?」

「ええ、そうね。たぶんそうなると思うわ」

 ふむ。なんとか当座は生きていけそうだ。よかった、いきなり外に放り出されてみすちーやルーミアに食べられて、ジ・エンドだけは避けたかったから。

 ありがとう腋巫女霊夢。あとでお賽銭を入れさせていただくよ。

「ふーん、面白いことになってきたなぁ。ねぇ霊夢、私もしばらく居ついていい?」

 こちらを見て楽しげに言う萃香に、霊夢は呆れたような顔を向けた。

「いっつも気づけばいるくせに。いいわ、好きなだけいなさい。その代わり、ちゃんと萃香も手伝ってよ。あと、宴会ばっかりするのは禁止ね」

「りょうかい、りょうかーい」

 にこにこと笑う萃香。本当に手伝う気があるのかは微妙な感じだ。なんとなく、結局俺が全部やることになる気がするぜ……。お願いしますよ萃香さん。

「さて、と。それじゃあ霊夢」

「ん、なに?」

 さすがにもう土下座はしないが、それでも正座をして居住まいは正す。

「住まわせてくれて、ありがとう。これからよろしく頼むよ」

 感謝と挨拶は済まさなければ。ということで、俺は頭を下げた。やっぱり、お世話になるわけだから、けじめはつけとかないと。さっきの土下座は冗談交じりでもあったし。

 そうして顔を上げれば、霊夢は少しだけ微笑んでいた。やっぱり元が美少女なので、笑うと可愛いです、はい。そんなずれた思考をしている俺に、霊夢は答える。

「ま、それも巫女の仕事よ。よろしくね、恭司さん」

「あ、私もね。私も」

 霊夢に続いて、萃香も声を上げる。それに霊夢ははいはいと答えて、萃香の頭に手を置いてぐりぐり。

 うーん、非常に和む光景だ。美少女と美幼女の戯れというか……。なんかこう、背徳的でなんとなくそそられる魅力という――かぁ!?

「うーん……いま何か邪な気配がしたんだけど」

 変ね、なんて言いながらちょこんと小首を傾げる霊夢。しかしながら、俺の目は横に突き刺さった玉串に一点集中である。

 あ、あぶねぇ。さすがは巫女さん。穢れた思考を察知されたらしい。あるいは、霊夢の異常な勘ゆえか。これからは下手なことを考えるのはよそう。そう誓う俺であった。

「あ、そこの空いた穴は恭司さん直しておいてね。あと、お賽銭箱は表にあるから」

「り、了解です!」

 俺は告げられた言葉に敬礼をして答えた。怪訝な表情を見せる霊夢だが、それは置いておいて俺は布団から離れて外に向かう。大工道具もどうせ外の物置とかにあるんだろうし、とってこよう。物置があるのかは知らないけど。

 けどまあ、とりあえず。

「お賽銭は真っ先に入れておこう……」

 そう呟くと、最優先でお賽銭箱を探す俺だった。









■■

あとがき
 あらすじをつけてみました。これでちょっとは前回のことも振り返っていただければ、と思います。
 さて、今回は霊夢の神社に住むことになるお話。なぜか萃香もいますけど。
 これから昼は霊夢を手伝ったり、いろいろ。夜は紫と能力のお勉強、という形にしたいと思います。ちなみに主人公の能力は夜にちゃんと紫が教えてくれますので、あしからずー。

 

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Comment
無題
・・・これはゲームのストーリー通りに話が展開していくのかな!?

と、とりあえず 更新お疲れ様です。
チーズ 2008/07/31(Thu)12:45:59 編集
RES
>チーズさん
一応、もう風神録は終わっている設定なので、地霊殿クリアしてからじゃないとゲームには繋げられないと思います。
ほら、早苗の名前出てきてますしね。
また次回、読んでもらえれば幸いですー^^
雪乃こう 2008/07/31(Thu)19:24:07 編集
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