2-12
□ 5 years ago――
「――え、クロノに合ったスタイル?」
若干驚いたような顔で言うアリアに、俺はこくりと頷いた。
まだ五歳になったばかりの俺だが、ロッテとは格闘訓練を始めている。当然、基礎訓練としての意味が多くを占めている。そこから少しずつ、どういったスタイルにするかを絞って訓練していくことになるらしい。
だがしかし、戦闘スタイルと言われても俺にはよく分からないのが現状だ。精神のほうはすでに大人な俺だが、大人だからと言って五歳の身体能力を把握しているわけじゃない。自分が五歳のころと比べれば分かりやすいんだろうが……自分が五歳だった時に身体能力なんて気にしてなかったからな。何がどう自分の身体に合ってるのかなんて、結局わからん。
それよりも第三者の目のほうがきっといい。……というわけで、現在俺はアリアに俺の身体能力その他を基にしたスタイルとして何が合っているのかを訊いているのだ。
ちなみにロッテは却下。あいつはこういう分析は苦手っぽい。戦術の分析とかはできるくせになぁ。対人分析はアリアのほうが出来るので、とりあえずアリアなのだ。
「そうね……まずはクロノの性格も考慮しないと……」
とりあえず総合型には向いてないわね、と呟くアリア。
……おい。とりあえずの段階ですでに俺は原作のクロノと戦闘スタイルが違うのか? なんてこった。そんなに俺は原作クロノとは違うのか。まあ、あんなふうに杓子定規に仕事が出来る男とは俺自身も思わないけど。
「うーん……まあ、クロノのレアスキルも考慮すればやっぱり近接戦かしら。あなた、あれの形とか色々変えられるんでしょ? 奇襲とかするには最適だし。まあ、遠距離でも使えることは使えるけど……」
ちらり、とアリアは俺を見る。なんだ、と思っていると、アリアはため息をついた。
「ま……あなたは遠くから攻撃しよう、なんて性格はしてないみたいだし。たぶん接近戦にしぼったほうが無難ね」
おい、なんだそのこれだから単純バカは……。みたいな諦めの色は! まさか俺は強化系なのか? 単純バカなのか!?
い、否。断じて否だ! 俺はもっと頭のまわる男だ。やればできる子なんだよ! どこぞの親父探して三千里のジャン拳少年とは違うんだ!
そんな俺の心のうちとは別に、アリアは話を進めていく。
「というわけで、実際の戦闘能力に関しては私よりもロッテに聞いたほうがいいわね。たぶん、ロッテならあなたに合ったスタイルを見つけてくれると思うわよ」
私は魔法専門だから。とはアリアの談。
ということで、身体的な鍛錬は今まで通りロッテに。ただしより近接戦闘よりの内容にするそうだ。そして魔法関係はアリアに。という訓練がスタートすることになった。それらが決まったところで、早速とばかりにロッテのもとへ行こうとする俺。
だが、
「あ、待ってクロノ」
そこで、アリアに唐突に呼び止められてしまった。
「なに?」
「いや、あなたのレアスキル“魔力遮断”って……確か、自分の魔力は消せないって特性があったわよね?」
「ああ、まあ」
そう、俺にレアスキルがあるとわかった時に、リーゼの二人が色々試した結果。ATFにはどうにもちょっとした特性があるらしかったのだ。
まずは一番大きな特性として、魔力を完全にシャットアウトするというもの。まあ、魔力の大きさによっては出来ないという特徴もあるが。次に自分の魔力は消せないということ。つまり、俺が作った魔力弾を打ち返されたら、それはATFでは防げないということである。
これら諸々の特性を、リーゼの二人は確認していた。しかし、それが今更なんだというのだろう。俺は訝しみながら、アリアの顔を見た。
「――だとすると、将来的には面白いことができるようになるかもしれないわね」
「面白いこと?」
俺が問うと、アリアは楽しそうに笑みを浮かべた。
「いい、クロノ。あなたのその能力の特性を使えば、きっともっと強くなるわ。それこそ、魔導師にとっては天敵となるほどの、ね」
おお、魔術師殺しですか。どこの正義の味方だろう、と思ってしまった俺は相変わらず駄目な奴だ。
しかし、そうまで言われては興味がわく。俺はがぜん聞く気になって、アリアの言葉に耳を傾けた。
「まあ、まだあなたにはそれが出来る技術はないでしょうけど。もし、出来ると思ったなら、その時にやってみるといいわ」
アリアはそう前置きした上で、自分の考えを俺に話してくれた。その内容に驚きながらも、真剣に俺は聞いた。アリアはそんな俺を見て、まるで弟に言い聞かせるかのように話していく。
陽気あふれる暖かな光景。それは、まだ俺がなんの力もなかった頃に聞いた、俺だけの力のお話だった。
■
空気を切り裂く音が俺の耳朶を打つ。
「くっ……そ……!」
風を切りつつ進み俺たちに迫るナイフを、何とかかわしながら俺たちは部屋の中を逃げ回る。今までは俺だけだったから身軽だったが、今はランドが一緒にいる。かわすのが精いっぱいで、反撃なんて夢のまた夢だった。
頭から出ていた血は、ランドの持っていた大きめのハンカチをバンダナみたいにしてなんとかこらえている。目に入り込んでいたから、凄く助かった。
「は、はぁっ、ご、ごめん……クロノ君っ……はっ、ぼ、僕がどんくさいから……」
「……気にするなよ。むしろ助かってるくらいだ」
息を切らしながら言うランドに、俺は笑って答えてやる。頭から血を流しながらだったから、微妙にかっこ悪いとは思うが。
本当はランドをまた遠ざければこいつだけは安全になるんだろうが……、今はそうもいかない。俺はお荷物になってしまった自分を思って、内心で盛大に舌打ちをするのだった。
――あのあとすぐにナイフをセットし始めたチンクを見て、俺はすぐさま回避行動をとろうとした。まずはランドから離れること。目標を俺だけにしなければならなかったからだ。
だが、その時問題が起こった。立ち上がった途端、胸のあたりから激痛がしてまた転倒してしまったのだ。その痛みには覚えがあった。ロッテに似たような痛みを味あわされた記憶がある。それよりも数倍の痛みではあったが。
つまり、肋骨が折れていたのだ。
背中から壁にはぶつかったはずだが、その前の爆発の衝撃を受けた時に折れていたのかもしれない。うめき声を上げながら、俺はそんなことを考えていた。
ランドはいち早くそんな俺の状況を察した。そして俺の肩に手をまわして立ち上がらせると、すぐさま飛行魔法での逃走を開始したのだ。走るとその時の振動で俺の身体に痛みを与えると思ったのだろう。ランドはひたすら空を飛んだ。
お前は逃げろ、と言ってやりたかったが、せめて痛みが落ち着くまでは俺は何も行動できない。それがわかっているからこそ、俺は内心で忸怩たる思いを抱えながらもランドに頼って逃げているのだった。
とりあえず俺のハイアームーブで補助はしている。そのおかげか今のところチンクの攻撃が致命打になったことはない。時間がたつごとにあの激痛はただの痛みへと変わりつつあるが、それでも結構きつい。もう少しは時間が欲しいところだった。
「……くそ……っ。一応、魔力の強化で痛み誤魔化してるんだけどな。それでも、結構痛ぇもんだな……」
人間の脳なんて単純なもので、「この物体は熱い物体だ」といったん認識してしまえばただの鉛筆でだって火傷するのだ。今は魔力を用いてそれの逆を行っている状態だ。すなわち、「この怪我は痛くない」と神経あたりをいじって思い込んでいるのだ。魔力で肋骨付近を補強もしつつ騙し騙しだが。結局トラックに跳ねられた痛みがワゴンに思いっきり跳ねられた程度になっただけだ。あんまり大きな違いはなかった。
しかし、それを聞いたランドはかなり驚いたようで、こんな最中にもかかわらず感心したように頬を紅潮させていた。……単に運動したからかもしれないが。
「そ、そんなことも、できるんだね……。魔力の強化を、そんなことに使うなんて、初めて知ったよっ……」
息を切らしてるなら喋らなきゃいいのに。そうは思うが、これもランドなりの気の紛らわし方なのかもしれない。命の危機を前に、これだけ気丈にできているのだから、大したものだと思う。
「ああ、まあな。俺の師匠の一人がよくやってくれてたんだよ。このほうが傷の治りも良くなるとかでな」
「へぇ……。他人の身体、なんて、細かい作業を、よく、できるね、その、ひと……」
「いや、もうお前無理にしゃべるなよ」
さすがに見ていられなくなって俺は声をかける。しかし、ランドは平気だと言って取り合わない。
まだ会って一日もたっていないが、こいつの気が小さいことはすぐにわかった。今だって、震えているぐらいだ。怖いに違いないのだろう。
しかし、そんな気の小さいランドが、こうして気張っている。それはなぜか。ひとえに、俺のせいに他ならない。
さっきのS2Uが破壊された時の俺の様子。それを知っているから、ランドはことさらいつも通りにであろうと、いや……より明るくなろうとしているのだろう。デバイスの喪失、そこにさらに大怪我まで負って、俺が不安になっているかもしれないと考えたのかも。
どちらにせよ、情けないことだ。俺よりずっと年下の奴に気を遣わせるとは。年上もくそもあったもんじゃない。すっかり俺のほうが足手まといじゃないか。
自嘲気味な笑みを浮かべながら、俺はチンクへと目を向ける。
――『ランブルデトネイター』。金属に爆発機能を付与する能力。さらに厄介なのはそれが遠隔操作可能だという点だ。近接魔導師には致命的である。相手の攻撃をかわし、時には捌いて接近するのが俺たちの常道だ。その動作の内のひとつ、捌くができなくなるのは相当きつい。触れれば爆発するのだから、捌いた瞬間俺のS2Uみたく武器破壊されるのがオチである。
ゆえに、チンクは近接魔導師には天敵たりえる。意のままに飛来するナイフのせいでかわすにしてもタイミングがとりづらく、下手に触れて捌くことも出来ない。天敵とはよく言ったものだ。
だが、勘違いをしてもらっては困る。俺は薄く笑う。天敵ではあるかもしれない。だが、何も攻略法がないわけではない。だからこそ、念のために俺は戦闘開始からずっと使わなかった能力があるのだ。奥の手は、隠しておくからこそ、奥の手なのだから。
ひゅっ、
飛来するナイフを根性で身体をひねってかわす。ズキリ、と身体が痛むが、さっきよりは痛まなくなっている。これなら。俺はそう判断した。
「……おいランド。耳かせ」
「え、な、なに、クロ、ノ、くん」
……こいつ、本当に大丈夫か? 俺はランドの身体が本当に心配になりつつ、ランドの耳に口を寄せた。
「いいか。俺が今から土煙を上げる。その間にお前はデバイスを起動しておけ」
「デ、バイ、ス、を……? な、なんで……?」
「いいから」
俺が強く言うと、ランドは頷いた。それに俺は頷きを返し、タイミングを図る。次々に来るナイフの群れをかわしつつ、チンクの位置も把握。土煙が確実にチンクの目をごまかすと判断できる瞬間を待つ。
ドン!
ナイフが突き刺さり、さっき俺がいた隣の地面が爆発する。その爆発に合わせるように、俺は決断した。
(今だ!)
すぐさま右拳の先に小さなスフィアを一つ形成し、それを地面に向かって思い切り振りおろす。魔力と物理的衝撃が重なって、地面から大きな土煙が上がる。それはすっぽり俺たちの姿を隠し、チンクの目をごまかしてくれる。
「む……」
鬱陶しそうな声を出すチンク。それはつまり、俺たちの姿が補足出来ていないということだろう。そう思いたい。どちらにせよ、ここまできた以上、一気に行くしかない。でなければ、ここで死ぬだけである。
俺はすぐさまランドに向きなおる。ランドは既にデバイスを起動させており、標準規格の一般的な杖型デバイスを右手に握っていた。
俺は短くランドに告げる。
「魔力を移せ!」
G-1のコア部分を指しながら俺が小声で言うと、ランドははっとしてすぐにその言葉を実行してくれた。ランドの赤褐色の魔力がG-1に流れ込み、G-1の中に魔力が蓄えられる。
それを見て、俺はよし、と気合を入れた。
「ね、ねえ、クロノ君。ど、どう、するの?」
まだ少し息切れを起こしているランドがそう聞いてくる。答えてやろうとしたところで、煙越しにナイフが飛んでくる。慌ててかわしながら、移動。やはり、目で見えてはいなく絵も煙の向こうに俺たちがいるとわかっている以上、攻撃はしてくるか。
二人で移動しながらそう思う。
「手は、ある」
言いつつ、俺の目線はさっき壊されたS2Uのほうに向いている。さっきから何度も移動している間に、比較的近くにS2Uの残骸が散らばっている。土煙の中で移動しながら、それらを一つ一つ拾い上げて、服の中にしまっていく。
その作業を続けながら、俺はさっきのランドの問いに答えた。
「AMFも、あいつの能力も関係なくなる。そんな手が、俺にはある」
「ど、どんな?」
ランドがさらに聞いてくる。俺はそれに苦笑を添えてこう答えた。
「麗しき魔法担当の師匠からの課題だよ」
■
□ Side Cinque
土煙の向こうを狙って放ったナイフはなにも貫くことはなく、私の手元に帰ってきていた。血は一滴もついていない。予想通りだが、かわされたようだ。
「……やはり、惜しい」
煙の向こうにいる少年のことを思って、ぽつりと呟く。惜しい、と。
いま私は惜しいと言ったが、それは別にさっき少年を誘った理由からではなかった。組織に有益な能力を持っている。または将来的にそれを持ち得る。その点でも確かに惜しいとは思う。
しかし、私が思っているのは、どちらかといえばひどく私的なことであった。
(――自分の意志。他人任せ、か。言い得て妙だな)
思う。
自身は戦闘機人である。つまりは生み出された生命であり、戦うことを人生として定められた存在である。
いや、果たして生命と言えるのだろうか? それすら私の中では確定事項ではない。確かに生体組織を人工的に備え、細胞すら培養されて自分たちは存在している。飲むことも食べることもできるし、排泄も可能だ。寝ることもできる。何かがしたいという欲求もある。
――だがはたして、我々はそれだけで生きていると言えるのだろうか。
トーレは言った。
『我々が戦機であることに疑いはない。だが、我々には脳があることを忘れるな』と。
それはつまり、考える力があるからこそ生きているということなのだろうか。いや、そうではない。
トーレは我々が戦機であると認識したうえで、どう行動していくべきかを語ったにすぎない。それは前提として使われる立場であると認識しているし、決して生命云々に言及したわけではない。
では、私のこの疑問は何なのか。我々は生命なのか、それとも違う何かなのか。ロボットであることに疑いようはない。しかし、命令を聞くだけではなく私は自分で考えることもできる。ただの機械ではない。我々は、いったい何なのか。
『ロボットでもなく、人間でもない。それが私たち、戦闘機人。ドクターのために働いて生きることは命令されたことじゃないわ。でも、私はそうしたいからそうしているだけ。ドゥーエも、トーレもね』
ウーノはそう言った。では、私はどうなのだろう。この妙な疑問を抱いた私は。
ドクターの為に動くことは嫌いではない。だがしかし、それが私自身の望みかと問われれば……正直、わからない。
ウーノも、ドゥーエも、トーレも。私と同じでありながらもどこか違うように思う。それはやはり、自分の意志でドクターの為になろうとしているところだと思う。
私の中にもドクターへの思慕はある。それに、姉への親愛もあれば、これから生まれ来る妹たちへの愛しさもある。
ドクターに従うことに否はない。だが、それが惰性である気がしてならない。別に裏切るとかそういったことではない。ただ、どうにも自分の中で折り合いが付いていないだけだった。
思慕も、親愛も、愛しさもある。だが、どうにも違和感がある。私自身、この任務がしたいわけではない。ただ、ドクターに言われたから来たまでのこと。ドクターの為に、と思って来たわけではない。もちろん、ドクターの為になれば嬉しいが、言われなければ行こうとも思わなかっただろう。
どうにも、曖昧なのだ。私は。そこらへんの自意識がひどくぼやけている。
ドクターは私のことを新しい試みだと言っていた。君はより自由度が高く造られている、と。それはつまりこの思考と関係があるんだろうと思うのだが、どうにも判断がつきづらい。
姉たちは私のことを『より人間をコンセプトにしている。我々も見習わねば』と言っている。人間らしさ、という曖昧なコンセプトで造られたのが私らしい。だとすると、この思考は人間らしいのだろうか。
思考する自分。思考、つまりは自意識。すなわち、私自身の意志。
いったい私の意志はどこにあり、そして何がしたいのか。
そんな疑問が、私の中にはある。
いったい何をすれば、私はこの疑問に答えを出してすっきり出来るのだろうか。
こんな疑問を抱えたままでは、これから生まれてくる妹たちに示しがつかない。そのことに密かに焦っている私は、しかしここで一つの糸口を見た。
クロノ・ハラオウンと名乗った少年だ。
あの少年は随分と自我が強いように思う。最初の時、どこか不安そうにしながらも、決して退こうとしていなかった姿勢はその自我の強さを感じさせた。
しかし、その時点ではまだただの子供でしかなかった。士官学生と分かった時点で、排除すべき敵になったが。
評価が変わったのは、そのあとだ。
『俺の力はすなわち俺の意志だ。絶対叶えるっていう俺の意志の力なんだよ』
それは強い主張だった。私が今まで触れたことのないものであり、同時に私が抱いていた疑問でもあった。
『自分の意志で俺を倒そうとしていない奴なんかに、この俺が負けるわけないんだよ! 他人の意志に依存して俺の前に立つような! そんな奴に負けるわけがない!』
それを聞いた時、思わず笑いそうになった。根拠なんて何もないのに、負けるわけがないという結果を嘯いている。原因よりも先に、負けるわけがないという結果を持ってきている。論理的に破綻している。だというのに、私はそれを聞いて面白いと思った。
聞いたことのない、触れたことのない強い意志。私がついぞ持っていなかったそれは、情熱とも呼べるものだった。
何かに己の意志を捧げることができるこの少年。彼と接触できれば、何かが分かるかもしれない。それゆえ、私はあの少年を誘ったのだ。幸いにも彼の力は我々としても有効に使用可能なものだった。それに、人間の協力者がいれば何かと便利である。私情と、打算が働いた末の勧誘だった。
……まあ、断られてしまったわけだが。
ドクターのために、と言うわけでもなく。ただ惰性で働いている私だが、それでもこの戦闘には意味があるように思えた。クロノと名乗った彼と相対することで、きっと得られるものがある。そう思えるのだ。
彼を殺したとしても、きっと今日のことは良い経験になる。生きてこちら側に来てくれればベストだが、最後まで抵抗した場合は仕方がない。殺す。
これまでの彼の言動や行動から見ても、今の私の戦闘力でも何とかなるだろう。私はそう結論付けて、戦っている。
土煙の向こうで息をひそめているだろうクロノ少年にとって、私は天敵だ。倒されるとは考えられない。たとえ彼がAランク上位と言っても、子どもゆえに膂力は十分でなく、使ってきた魔法も学生らしく基本的なものだけ。頭は回るようだが、それだけだ。
隠し玉があるか、と警戒もしているが恐らくは問題ない。AMFもあれば、私のこの能力もある。油断は禁物だが、負ける要素が圧倒的に少ないことも事実だった。
それは向こうも分かっているはず。それでも、なお立ち向かってくるのは彼の言う意志ゆえなのか。それとも、何かあるのか。
私は、それを見定めたいのかもしれないな。そう思う。
人間の意志とは、何なのか。私はいったい何を求めてこうしているのか。意思を持つ機械である我々の中でも、特に人間を意識して造られた私。だからこそ、興味は尽きない。強い意志を持った存在であるクロノ・ハラオウンに。
彼は、そうして私に一種の活路ともいえる新しい認識を与えてくれた存在である。惜しいが、できるならばぜめて、楽に死なせてやりたいものだ。
私はそう思いつつ、晴れていく土煙を見据えた。
煙の先には徐々に見え始める黒髪と血を吸ったバンダナに、ところどころが破れた黒いバリアジャケット。右手の白いアームドデバイスと銀色に輝くドリルが妙に眩しく映る。
土煙が晴れきったところで、クロノともう一人の少年の姿がさらされる。そこでふと、私は疑問に思った。
「そっちの奴も戦うのか?」
クロノの後ろにいる太っている少年はいつの間にかデバイスを握っていた。負傷した彼に助太刀するつもりなのか、と思ったのだが、それはクロノ自らが否定する。
「ちげぇよ。こいつはあくまで見学。さすがに技術士官じゃお前の相手は出来ないだろ」
「技術士官か……。そうだな、それはそうだ」
戦闘屋ではないなら、確かにそれは不可能だろう。とはいっても、サポートとしては十分役立つはず。よほど自分の力に自信があるのか、それともこれもまたこの少年の意志なのか。
やはり面白い、と改めて思う。
だがしかし、私も任務でここにいる身。たとえ意志が定まらずとも、やることはやらなければいけない。
ゆえに、
「さて、クロノ・ハラオウン。怪我を負い、愛用のデバイスも壊されては負けも必至。簡易デバイスだけでどうにかなるわけでもない」
最後通牒を突きつける。もし、呑まれなかった場合は、
「決めつけんなっつーんだよ、チンク。俺はここで立ち止まれない。やりたいこともあるし、やるべきこともあるしな。それに……母さんが泣くのはもう勘弁なんだ。俺がいなくなったら、母さんたぶんやばいしな。負けられないし、諦めない」
――殺すしかないだろう。
「……そうか。……ならば、これで終わりだ。お前には感謝しているよクロノ」
「何のことだかわからんが。……とりあえず、大人しく死んでやるわけないだろうが!」
力強く叫んだその瞳には、何か光が宿っているような錯覚さえ覚える。意志の力とは、どんなものなのか。せめて最後に、それを見せてほしいものだ。
私はそう思いながら、ナイフを両手の指の間に挟んで握り込んだ。
「――終わりだ」
「は、上等だ! てめぇごとき、俺の拳で突き破ってやる!」
拳を覆うデバイスに魔力を纏わせながら、クロノが突進してくる。私はそこに狙いを定める。
――死、だ。
明確な殺意を持ってナイフを放つ。ここに、最後の戦いが始まった。
続
==========
あとがき
なんとか八月中に上げられたか…。
いやぁ、間に合わないかと思ったっす。新しい漫画にハマると二次創作にもハマっちゃうから困ったもんだよね。
……さて、チンク戦第二。今回はたぶん初めてになると思われる他人視点を入れてみました。ちなみにCinqueはチンクと読みます。日本人には読みづらいですね。
次のお話はついにクロノ少年に新たな力が! ってな感じのお話にしたいと思ってます。なるたけ早く上げたいものです。
それではまた次回。
ATFがフィールド以下で自分以外の魔力の完全遮断ということは
相手の周りにスフィアプロテクションぽくフィールド張って閉じ込めて
大量のスティンガースナイプぶち込むとかいうハメ技が使えそうだ。
でもATFって物理攻撃に対してはどうだったっけ?戦闘機人は基本は魔力使いませんよね。
自身の魔力は消されない……ATFでコーティングしたバインドで動きを封じる?
S4Uの破片に小型ハイアームーブくっつけて撃ち出す?
う~ん、降参です(汗)
次会楽しみにしております。
ATFは物理攻撃に関しては防げませんです。戦闘機人は基本物理攻撃だと言われていますが、個人的な見解ではそれはないだろう、と思っているんですよね。
だからATFでも対抗可能だと思っています。
これからどう展開するかは次回以降をお楽しみに!
>狐猫さん
どう使うのかは次回以降でご確認を。
ただ、合ってるものもありますw
>NONAMEさん
クロスシフトでしたっけ? ああいうのも確かにいいかもしれませんね。
真実は次回で^^
>tomoさん
ATFが関係しているのは絶対ですけどね。そこは示唆されてますし。
ただ、誰でも考えつくことだとは言っておきます^^
>万々。さん
次回とその次ぐらいで決着の予定です。
どうかお楽しみに~w
>名無しさん
ステルスは浪漫ですね!
次回で明らかにしますので、どうかお待ちください^^
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