2-10
「うー、トイレトイレ!」
いまトイレを求めて全力疾走している俺は、ごく普通の士官学校生。強いて違うところをあげるとすれば、実はただのオタクだってことかな。名前はクロノ・ハラオウン。
そんなわけで、校舎ビルの中にある男子トイレにやってきたのだ。
「ん?」
中に入ってふと見ると、洗面台の前に一人の同級生が立っていた。
クソッ! いい男……。
そう思っていると、突然その同級生は俺の見ている目の前で、別に学校から支給されているわけでもない完全に私物であろうツナギのホックを外し始めたのだ……!
「 や ら な い か 」
「死ね害虫!」
俺の拳は勢い良く振りぬかれ、目の前の同級生の顔面は見るも無残に陥没した。緑色の長髪を振り乱しながら倒れる同級生。やはり、イケメンは許しがたいものなのだ。
「悪は滅びた……」
俺は静かに呟くと、すっと小便器の前に立つのだった……。
「ち、ちょっとクロノ君! なにぼーっとしてるんだよ! あ、あの人ずっとこっち見てるよ!?」
はっと気がつけば、がくがくと俺の後ろから肩をつかんで揺するランドがいた。
……ど、どうやら俺はあまりに突然の事態に思考をどこかにやっちゃっていたらしい。うーん……何かひどく不快なイメージが頭に残っているような。ロッサが目の前にいたら、つい殴ってしまいそうだ。なぜだかはわからんが。
とりあえず我を取り戻した俺は後ろのランドを一瞥して、次に件の少女を見やる。って、やっぱりどこからどう見てもチンクじゃないかよぉおッ!
お、落ち着け。落ち着くんだ俺。そうだ、こういう時は素数を数えるんだ。素数は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字。俺に勇気を与えてくれる。
「そう、落ち着け。素数だ、素数……。1、2、3、5、7、11……」
「そ、素数? クロノ君……それなら1は素数に入らないよ?」
「な、なんだとぉ!?」
初っ端から失態を演じるとは! 全然落ちつけてないじゃないか神父ぅ!
ちくしょう、とりあえず何でもいいからまずは冷静になるんだ俺! 混乱しきった思考ではこの場は絶対に脱することはできない。なにしろチンクは戦闘機人。Aランクの俺ならそれなりの勝負ができるとは思うが、基本スペックは圧倒的にあちらが上。目の前の少女がチンクだとすれば、落ち着かなければいけない。
おそらく、たぶん、きっと、目の前の少女とは戦闘になるに違いないのだから。
「――なぜこんなところに? 人が来るような場所ではないはずだが……」
そう言って眉をひそめるチンク(と思われる少女)。
……おや? チンクのようすが……。なんだか意外と理性的なご様子。ひょっとしたら上手くすれば戦闘回避できるかも?
楽観はできないが、争うことがないならそれに越したことはない。俺はなんとか冷静さを取り戻すと、ひとまず友好的に接するように心がける。まずは笑顔だ。そう、警戒心を抱かせない笑顔を浮かべるんだ。邪気のないスマイルを。そう、いつぞやの食堂のウェイトレスの子のようなイノセンス・スマイルを!
俺は渾身の気持ちをこめてクロノ・スマイルを浮かべ、彼女の言葉に答えた。
「はっはっは。いや~、実はですね。ちょっとした事故でこの洞窟に落ちてしまったんですよ。いや~、参った参った。まいっちんぐっすよ!」
朗らかに笑って言う俺。ツカミはオーケーだと確信する。そしてあとはとどめの一言。某海鳴市在住のオハナ・シ・キカセーテさん(9)のように「お話聞かせて!」でシメだ! これでいける!
そんな確かな実感を抱いて、俺はチンク(と思われる少女)を見る。
彼女はまるで、珍妙不可思議にて胡散臭いものを見たような顔をしていた。
「き、気持ち悪い奴だな……」
ちょ、ひでえ。
さすがの俺でもガラスハートがブロークンですよ? 戦闘機人とはいえ美少女にそう言われるのはちょっと凹むんですけど、チンク(と思われる少女)さん。
何気に傷ついた俺は、思わずorz。リアルに落ち込みましたが何か?
しかしながら、そんなことをやっていたために、俺は止められなかった。あとで考えれば本当に後悔するような失敗である。ひょっとしたら、回避できたかもしれない戦闘だったのだ。彼女との戦いは。
そう、彼女の存在を知っている俺こそが異端だということ。それを、俺はすっかり忘れてしまっていたのだ――。
「あ、あの……ちょっといいですか!?」
声を上げたのはランドだ。俺の後ろにいたはずだが、気がつけば隣に立っていて、チンク(と思われる少女)に声をかけていた。
俺ははっとして、立ち上がる。俺は彼女という存在がどういうものなのかを知っている。危険性、強さ、その裏に潜む人物も。だからこそ、戦闘は回避しようとするし、レリック一個見逃すだけでそれが成立するなら喜んで差し出す。命をなくす危険を冒したくはないからだ。
だが、ランドはそれを知らない。そして、こいつはデブでメガネでどんくさい奴だが、真っ当な士官学校生。管理局員を目指す人間だ。目の前にある明らかにロストロギアだと思われるもの。それを前に、どう行動するのか。俺は見通しが甘かったのだ。
待て!
咄嗟に呼び止めようとする。が、喉元まで迫っていたその言葉が発されることはなかった。ランドの言葉はすんでで止められず、先に出てしまった。
「僕たちは士官学校生です! あなたの後ろにあるもの……ロストロギアですよね!?」
……言ってしまった。
俺は思わず天を仰いだ。無機質でこれまた人の手でならされた天井が目に映る。
これでもう戦うしか道はなくなった。もしこの後で俺がそれを差し出すと言っても、管理局の下位組織である士官学校の生徒が相手なら、あとで報告される危険性がある。その可能性がある以上、彼女が俺たちを逃がすことはないだろう。
何も言わなければ、ただ迷い込んだ子供だとして、ひょっとしたら見逃されたかもしれないのに。脅迫はされたかもしれないが。それでも、殺されない可能性もわずかだがあった。これは相手がチンクだからこそだが。ゆえに、万が一を考えるならまずは様子を見るべきだった。
しかし、それは俺が彼女のことを知っているから言えること。ランドはそんなことは知らない。だから、こうなってしまった。
結果として、とるべき道は決まってしまったのだ。
「……だとすれば、どうするんだ?」
表情を真剣なものにして問いかける目の前の少女。
ここまで来てしまってはもう仕方がないだろう。なんとかやるしかない。俺は今の状況を作ってしまった自分の甘さに舌打ちをして、ランドの前に出る。そして、背後のランドに小声で話しかけた。
「おいランド……。おまえは下がってろ。そして何があっても出てくるな。いいな。ここからは技術士官のお前にはちょっとキツイぜ」
「え、クロノ君?」
なにを、とでも言いたげに困惑した視線を俺に向けてくるが、俺はもうそれに応えない。ぐいっと腕を後ろに押しつけるようにしてランドの身体を押してやれば、ランドは納得いかなさそうにしながらも後ろに下がった。それを確認した後、俺は本格的に意識を切り替えて目の前の少女に目を向ける。
――集中しなければならない。相手の目線、瞳の動き、手足の動作、指先の揺らぎに至るまで。それらすべてを判断材料にしなければならない。
でなければ――……死ぬ。
「俺らの立場を聞いたからには……逃がすつもりはないんだろ?」
俺は挑むようでさえある目つきを見せて、彼女を見る。さっきの俺の姿を見ているからか、俺の変化に彼女は驚いたようだった。そして、感心するような息を漏らした。
「……驚いた。意外と賢いみたいじゃないか。私としたことが、見誤っていた」
「まあ、さっきの俺を見たらな。……それで、俺の問いに答えはもらえないのか?」
言いつつ、左手でポケットに入っているカードを取り出す。S2Uを待機状態にしたものだ。同じように、右手で胸から下げた宝石を握る。シャッハさんからもらったもう一つのデバイス。ガントレット型デバイスG-1を。
そんな俺のしぐさを見て、彼女はわずかにこちらに対して申し訳ないような、憐れむような目を向けた気がした。
しかし、それも一瞬のこと。彼女は眉を引き締め、毅然とした顔つきで口を開く。
「お前にはわかっているだろう? 答えは……イエス、だ」
「はっ、やっぱりな!」
俺は一息でS2U、G-1の両デバイスを待機状態から稼働モードに移行。デバイス状態に持っていくと、右手にG-1を装備、左手にS2Uを持って構えた。腰は低く、重心は足の親指に。いつでもすぐに動けるように。
彼女もわずかに姿勢を低くする。向かい合う俺達は、そのまま会話を続ける。
「ホントは、ロストロギアのこと報告する気はさらさらないから、引いてほしいんだけどな。そう言っても、信用しないんだろ?」
「まあな。管理局が信じられない組織だというのは私がよく知っている」
「違いない」
俺は軽く笑ってその言葉に同意する。まさか同意を得られるとは思っていなかったのか、少女の顔が驚愕に染まり、背後からもランドの俺の名を困惑気に呼ぶ声が聞こえてくる。
二人の気持ちもわかる。本来管理局側にある俺が、管理局の批判をしているようなものだからな。ランドなんかは俺と立場が同じ士官学校生なだけに信じられないのだろう。まあ、管理局の一面だけしか知らないんだからそれも仕方がない。
俺の場合は状況が特殊だ。父さんは管理局の思惑の中で殺されたようなものだし、第三期を見ていればその腐敗具合は良く分かる。だからこそ、心情的にはこいつの言っていること寄りになるし、その言葉が正しいことも分かるのだ。
「……お前は本当に子供なのか? 賢い……いや、物事の本質を見る目がある。得難いものだな」
「そんな褒められてもな……。そっちだって、年齢的には俺より少し上ぐらいだろうが。体型的に」
ぴきん。
瞬間、空気が固まった。
………………あれ? なに、これ。俺、ひょっとしてひょっとすると、地雷踏んだ?
妙に重たい空気が俺の周囲を満たしていく。思わず、ごくり、と俺の喉が動いた。
「あー……もしかして……ですね? その……気に、してました?」
恐る恐る俺が聞くと、彼女は若干顔を俯かせて、ぽつりと口を開く。
「……チンク」
「へ?」
「チンク。私の名前だ」
「あ、はぁ、そ、そうっすか」
「お前の名は?」
「は?」
「お前の名は何だと聞いている」
え……なにこの問答。
相変わらずチンクの顔は俯いたままで、正直さっきまでとは別の意味で死の恐怖を感じるんですが。
とはいえ、黙ったままにもいかないので、言われたとおりに答える。
「クロノ。クロノ・ハラオウンだ」
「クロノ……か」
噛みしめるように口から出す俺の名前。なんか、変に俺の名前刻みこんでません? 主に記憶とか、死のノート的な何かに。
「い、いったい急に何なんだよ」
いい加減わけのわからない空気に耐えかねて俺が言うと、チンクは顔をあげた。
――それはもう、綺麗な。美しいとしか表現できないような、素敵に獰猛な笑みを浮かべて。
「なに、自分を殺す相手の名前ぐらい知りたいだろう。大丈夫だ、お前が死んでもせめて私が覚えておいてやろう」
全然うれしくねぇ!?
美少女に名前を覚えられるのは非常に光栄だが、そういう理由で覚えられたくはねえよ!
「だから――、」
すっとチンクの顔つきが変わる。一転して真剣なそれは、まさに戦闘者のそれだ。自らに油断を許さず、他者に妥協を許さず。そういった覚悟を決めた、戦う者の顔。
お遊びは終わり、ということらしい。彼女は懐からナイフを取り出し、それを両手の指の間に挟み込む。それを見ながら、俺もすぐに行動に移れるようにいくつかの魔法を待機状態でストックしておく。こちらも油断は許されない。妥協なんてしていたら死んでしまう。
チンクはナンバーズの中では異常ともいえるほどの常識人だが、それでもナンバーズの一員だ。スカリエッティのためなら、俺ぐらい何の抵抗を感じることなく殺してみせるだろう。
ましてや後ろにレリックがある。ここで彼女が引く理由は、ない。
「安心して、死んで欲しい」
チンクが一直線に駆けだす。それはこれ以上ないほどに明確な戦闘開始の合図だった。
■
リンディ・ハラオウンは自らの執務室で書類整理に勤しんでいた。提督といえば艦船に乗って後方指揮を任されたいかにも高級軍人というイメージが非常に強い。しかし、どれだけ指揮能力に優れ、戦闘能力を持った人間でも、船から降りて戦闘が終わればただの軍人。給料をもらうサラリーマンと化す。
リンディもまたその例にもれず、本局にいる間はただのOLである。なにしろ書類を見てペンでサインをする、の繰り返しである。管理職についたキャリアウーマンの典型のようなことをやり続けるリンディは不意に、はぁ、と悩ましげなため息をついた。
「……ねぇ、レティ。どう思う?」
『どう、って……何が?』
話しかける先には、宙に浮かぶウインドウ。そして映るのはリンディの長年の親友であるレティ・ロウランであった。ともに提督という職に就くものであるが、リンディと彼女では大きく仕事が異なる。どちらかというとレティは事務というか……内務的な仕事が主だからである。
だが、この日は二人とも仕事が共通していた。ウインドウの先でレティもペンを片手にさらさらと紙に名前を書き続けている。もちろん、話している間もリンディの手が止まることはない。
マルチタスクを修めた魔導師にとって、二つの行為の同時進行ぐらいお茶の子さいさいである。まあ、ここまで淀みなく出来るにはそれ相応の熟練度が必要であろうが。
リンディはその磨かれた技術によって、ため息をつきながらもペンを動かすという器用なことをしながら、レティに話しかける。
「だから、クロノのことよ。あの子、昔から大人びた子だったけど、これはひどいと思わない?」
『親離れしたい年頃なんじゃないの? もう十一歳になるんでしょ?』
言いつつレティは最後に会った時のクロノを思い出す。確かに子供らしく騒がしいところもあったが、考え方がとても大人っぽい子だとレティは思った。しかし、それで別段なにか問題があるようには思えなかった。むしろ、いい人間に成長していると思う。兄から伝わってくる情報を考えれば、それは事実であるように思えた。
「だからって……。入学以降、送られてきた手紙は二回だけよ? それも、Aランク試験に受かりました、っていうのと、今回の地上本部の演習企画のお話だけ! 通信だって片手で足りちゃうし……。もっと、友達関係とか、仲がいい女の子のこととか、お母さんに会えなくて寂しい、とか。あってもいいと思わない!?」
『あの子、そういうキャラじゃないと思うんだけど』
少なくとも、「お母さん、ぼく寂しいよ……」なんて言う人間ではないだろう。レティは本人が聞いたら、奇声を上げながら延々と地面を転げまわりそうなことを考える。やはり、想像できない。
さらさらとペンを紙に滑らせながら、二人の提督の会話は続く。
「それは私もわかってるわよぉ。ただ……なんて言うの? それでも頼ってきてほしい親の心というか、私が寂しいというか……」
『それが本音ね』
要するにリンディのほうが構ってほしいのだとレティは判断する。これではどっちが子供なのか分からないではないか。はぁ、とため息をつく。
しかしながら、そういった気持ちが分かるの事実。彼女自身の息子であるグリフィスはどちらかというと、クロノとは反対で親にはよく甘えてきてくれる。だからこそ、もしグリフィスが急に離れていったら、と想像すればリンディの気持ちも分からなくはない。
もしいつか本当にそんなことになったら、レティだって息子が恋しくなるに違いないのだから。
『とりあえず、あなたのほうから連絡をしてみたら? あの子、それなりにマザコンだからたぶんすぐに返してくれるわよ?』
とりあえず以前会った時にクロノはかなりのマザコンだったとレティは記憶している。今はたぶん、聞く限りでは友人関係が充実している上に自分の力の向上に夢中なのだろう。いま彼が行っているはずの地上本部での企画がそれを証明している。
なにやら新しいデバイスも手に入れたらしいし、それの慣熟に時間がかかっているのかもしれないし。
レティは兄から得た情報を基に色々と思考を巡らせてみる。しかし、考え出せばきりがない。なら、リンディから動けば確実だろうとレティは思うのだった。
「うーん……それはそうなんだけど……ほら、ねぇ? やっぱりクロノのほうから連絡がほしいのよ」
どうしろと。
レティは照れくさげに笑う親友を見ながら、そう思ってため息をついた。
『そんなふうにこだわっているから進展しないんでしょう? 彼が帰ってきたら、あなたのほうから連絡しなさいよ。「演習はどうだった?」って。ちょうどいい話題じゃない』
レティがそう提案すると、リンディは細い眉を寄せてうーんと考え込む。その間もペンを操る手が止まることはない。
レティにしてみれば、悩むところだろうか、といった感じなのだが、それを口に出すことはさすがにしない。彼女にしてみれば真剣なのだろう。それに、こういった小さなこと(レティから見てだが)でも真剣に臨む彼女の姿は、少女のように可愛らしい。
相手の連絡を心待ちにしていたり、そのわりに自分から連絡するのは憚られる、なんて遠慮する姿は、まるで恋する乙女のようだ。もっとも、その相手は実の息子で、向けられる感情は恋愛感情ではなく親の愛なのだが。
二人のペンは滞りなく進んでいる。
リンディはレティの言葉を受けて、うーんうーんと唸っている。いったい何をそんなに悩むことがあるのか、さすがにレティも少し呆れが入ってくる。
そうしてたっぷり悩むこと二分間。ようやく何がしかの結論を得たのか、リンディはついに顔を上げた。
「――……うん、そうね! レティの言う通りだわ。あの子が参加してる演習が終わったら、早速連絡をとることにするわ」
妙に晴れ晴れとした顔で言ったリンディは、演習が終わるのはいつだったかしらー、なんてカレンダーを見ている。
さっきまでの悩んでいた状態とはまるで違う、明るい雰囲気。こうした切り替えの早さは見習うべきところだとレティも思う。とはいえ、相談に乗っていた人間からすれば、さっきまでの空気はどこへ? といった感じで気が抜けてしまうのだが。
『確か五日間の日程だったはずだから……三日後。いいえ、四日後かしらね』
「四日後か。あの子ももっと頻繁に連絡をくれればいいのに……」
はぁ、と息をつくリンディ。
確かに傍から見てもリンディのことを大切に思っていたことが分かるほどだったあの子が、連絡をよこさないというのも珍しい。クロノを知る者ならちょっとした驚きを感じざるを得ないぐらいには。
しかし、それだけ学校生活が充実しているというのならそれに越したことはないとも思う。母親とはいつでも会える。これからずっと、家族として付き合っていくのだから。
だが、友達はそうもいかない。今の間だけしか交流を得られない人もいるだろう。同年代や年上の者が集まる学校では、そういった交流をする機会は多い。
聞けば、クロノは仲のいい二人といつもつるんで一緒にいるようだ。そのうちの一人はレティも知っている。ベルカから来た特殊な立場の子だから、彼に関する書類にも目を通したことがあるからだ。
そんな彼とクロノと、もう一人は女の子らしいが、仲良く過ごしているというのなら微笑ましい。多少リンディに我慢してもらってでも、今は今しかできない青春を送るべきだとレティは思うのだった。
(青春、か……。自然にそういう言葉が出るなんて……、年とったわね、私も)
軽く落ち込む。気づかなければよかった、そんなこと。
かりかり。ペンは紙の上を走る。
(……とりあえず、リンディに連絡があまりないっていうのは確かにちょっと可哀想だしね。たまには連絡を取り合うのもいいでしょう)
そう思うからこその今回の相談である。リンディもどうやら自分から連絡を取る気になったようで、一件落着といったところか。
さて、最後に一つだけ注意しておこう。今のテンションのままだとするなら、三日後の帰ってきたばかりのところに連絡を入れそうだ。そう思って、レティは口を開いた。
『くれぐれも、三日後はダメよリンディ。まだ帰ってきたばかりの子に連絡をいれな――』
しかし、レティの声は途中で途切れる。原因は、リンディの部屋に鳴り響いた通信の呼び出し音だった。
ピー、ピー、ピー。
機械的な電子音が甲高く響く。
「はいはい。ごめんね、ちょっと待っててレティ」
『了解』
しょうがない、とばかりにレティは苦笑してリンディの言葉にうなずく。
それを見届けると、リンディは通信をオンにして回線をつないだ。
右手はさらさらとサインを続けている。
「はい、こちらリンディ・ハラオウンです」
会話を始めるリンディ。それをぼーっと見ながら、レティは時間を潰す。レティの視線ははじめリンディの顔を見ていたが、ふいにそれが下に下がっていく。ゆっくりと下がっていった視線は、リンディの右手で止まった。
かりかり。ペンを動かし続ける右手。
「――え?」
リンディの声が聞こえて、レティは顔を上げた。それはまるで、空気が自然と抜けた時のような、リンディらしからぬ声だった。
「崩落……クロノが、行方不明……?」
呆然とした様子でつぶやかれた言葉。レティもあまりの内容の言葉に一瞬なんのことかと自失するが、すぐに顔色を変えて脇にあったコンピュータを叩き始める。
現在行われている地上本部の企画。その参加者。日程。企画内容。行われる任務。現在の状況。めまぐるしく動く手は、いまだに呆然としているリンディとは対照的だった。
連絡を受けたリンディは、どこか機械的な応答を繰り返し続ける。しばらくすると、通信は終え、部屋に響く音は何もなくなっていた。リンディは通信を受けた体勢のまま、動かない。
右手のペンは、サインの途中で止まっていた。
続
==========
あとがき
ネタ解説は今回からなくします。ネタ的なセリフが多くて、クロス作品みたいだ、と意見を受けたので。まあ、セリフ云々は私の好きなままにやってることですので、それ自体をやめるつもりはないです。ただ、解説だけはやめておこうと思います。そこまでは行きすぎなのかなーと思いましたので。
さて! 話が進んでいない!
チンクは出てきましたが、後半はほとんどママさんズで終了。しかし、これもまた必要であると思いましたので入れました。こうしてどんどん長くなってくんだよなぁ。
対チンク戦も相当長期化しそうです。それでも、この戦闘が終わればほぼ第二部は終了となる予定です。どうか楽しみにしていてほしいと思います。
それでは、この辺で。また感想などよろしくお願いしますー^^
なんてジャンプ展開だw
次回楽しみにしてます。
>チンクの眼帯
ゼスト戦のときに怪我して、自分の意思で治してなかっただけみたいですよ。
詳しくはココに載ってました。
//NanohaWiki
http://nanoha.julynet.jp
//チンクの項目
http://nanoha.julynet.jp/?%C5%D0%BE%EC%BF%CD%CA%AA%2FStrikerS%2F%A5%CA%A5%F3%A5%D0%A1%BC%A5%BA#p1efac8f
時系列(考察ですが)も載っているので、参考になるのではないかと思います。
またもや「福笑い」が凹られてますか
つい笑っちゃったじゃないですか。
後、チンク、幼児体型気にしてたのね。
でもそれがいい(前田慶次AA省略(w )という
大きなお友達もいるから挫けるな(w
つーかヴェロッサの扱いひでぇっすよ・・・・。
クロノは・・・確かに美少女(見た目)から気持ち悪いとか言われたら凹むよね。
その後の失敗もしょうがないと思う。うん。
あ~女性に体型に関しての言葉は基本NGだな。
他のナンバーズと比べても明らかに見劣りするし。
だからこそっていう人も少なくはないんだろうけどw
男性的に不利な状況で(失言的な意味で)戦闘準備!
拳対ナイフってスクライドっぽく聞こえたり。
うわ~リンディさんが可愛すぎるすよ~。
つーか会話内容がとらハの桃子さんとそっくりです。GJ!
あれ?そういえばチンクの名前つぶやいてたのに、そこらへん突っ込まれない?運よく聞かれなかった?
十年以上経過しても結局体型は変わらないのですが・・・
現在稼動している姉たちは、ナイスバディ。以降稼動する妹たちもオットーを除けばやはりナイスバディ。チンク切ないですねぇ。
戦闘機人の稼動年数の話ですが、上の方が紹介しているとおりNanohaWikiでの情報になります。
せっかく死亡フラグが回避できそうだったのに自ら死亡回避フラグを折ってしまうとは・・・・・・・・
状況を読めないと一気にピンチになってしまうんですね。
ですけどクロノがこの状況からどうやって死亡フラグを回避するかが見物ですね。
(個人的には敵でありクロノを殺そうとするチンクにどうやってヒロインフラグを立ててくれるかが楽しみですね。ああ、どうかチンクをヒロインに!!)
次話は遅れるかとー。
コミケ行ってくるので書く時間ないですしね。それでも楽しみにしてもらっている以上、できるだけ早く上げたいですね。
その時はどうぞよろしくです^^
>melさん
次回からチンク戦が開始します。さてさて、どうなるものやら……。
NanohaWikiは利用していたのですが……細かいところまで読みこんだわけではなかったですからねー。
読み漏らし、ってとこでしょうか。今度からちゃんと読むことにします^^;
>犬吉さん
オハナ・シ・キカセーテ(9)
「お話聞かせて!」が合言葉の肉体言語使い。そう言い放った直後に攻撃するのが常套手段である。ひどく矛盾している。
……ネタ解説的に言うとこんな感じでしょうか。
ちなみにチンクが体型を気にしているのはNanohaWikiにも書いてあるというw
>打刀さん
チンクがクロノを勧誘ですか。
それもいいかもですね。実際、クロノくんは管理局あんま好きくないですし。
これからの展開をお待ちくださいw
>hanaさん
もはや私の中でロッサはそういう役回りになってしまった……。すまんロッサ。
チンクさんの体型については仕方なし。そう、むしろそれg(ウワナニスルヤメ
>フツノさん
初っ端からやってしまいました。
そしてロッサがこの作品内でかなりアレな立場に……。ロッサファンの方には本当申し訳ないロッサですね^^;
女性に体型はいかんですよね~。思わず、やっちまったZE☆なクロノに献杯w
ちなみにチンクの名前を呟いたのは聞こえてません。ほら、一応「小声で」ってなってますしね?
>トライアさん
一歳ぐらいなんですが……成長しないから変わらないんですよねw
姉も妹もナイスバディなら、チンクが気にするのも無理はない……。スカリエッティも酷なことをしやがるぜ。
NanohaWiki……稼働年数までは見てなかったっす。基本、時系列を中心に見てたからなぁ。ありがとうございます。
>tomoさん
事情を知らないと、やっぱり正義感あふれる妄信的な管理局員ってああだと思うんですよね。
例えるなら、ネギまのネギみたいな。自分の正義だけで突き進んで状況悪くしちゃう、みたいな。
実際、チンクだったらひょっとすれば死なないんじゃないかと思うんですよね。基本、子供好きそうですし。チンクも子供ですけど。
チンクとの戦闘、お楽しみに。とはいっても、私は戦闘書くのが苦手なのですが^^;
ヒロイン……それについてはだいぶ構想がまとまってきた今日この頃。
「ちんくしゃ」は可哀相すぎるwww
ちゃんと五番目の意味で呼んであげましょうw
>SaDさん
ハーレムだけはないですねー。
私がハーレムは苦手なので。人数的には最大でも二人まで。それ以上は受け付けない人ですから^^
良作なら読むんですけどね。自分にそれができるとは思えない……;;
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