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日々のことを徒然と。あと、絵や二次小説も掲載しています。主にリリカルなのは中心です。
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まつろわぬ日々(リリカルなのは・クロノ憑依)

2-1


 ――時空管理局直下管理局士官教導センター。通称士官学校。

 時空管理局設立より一年後に設立が唱えられたそれは、今年でもう創立六十年近くになる伝統校である。かつての世界で生きた俺としては創立六十年の学校なんて短いとしか感じられないが、質量兵器禁止、そして時空管理局設立が歴史の始まりのようになっているこの世界では、それ以降ずっと続いているこの学校も伝統の中に数えられるらしい。

 ちなみに管理局設立よりわずか一年後に必要性が提唱された背景としては、魔導師の人手不足が原因である。質量兵器を禁じてクリーンな戦力である魔導師を導入したはいいが、魔法の才を持った者が思ったほど集まらなかったのである。それで急遽、一般から広く魔導師を募ることを提案。大した反対もなくあっさり可決され、この学校がつくられたということだ。

 正直、それぐらい対策を考えてから始めろよってな感じだが、当初はそれだけ早く質量兵器に変わる抑止力を実用化にこぎつけたかったということなのだろう。だから準備不十分でも管理局設立に踏み切ったのだと思う。まあ、現在の結果を見るにそれはそれなりの英断だったんだろう。実際に次元犯罪は管理局設立以降減少しているのだから。

 そして俺は今、その士官学校に入学を果たしたわけだ。いやあ、こうして新入生一同講堂に集められて校長の訓示を聞いていると、感動もひとしおだ。なにしろ何ヶ月も勉強漬けの日々が続いたからなぁ。しかも何気に母さんの存在がきつかった。こう、ビシバシやる感じではないんだが、少しでもサボろうものなら母さんはひどくがっかりしたような、悲しげな顔を見せるのだ。もし「お前には失望した」なんて母さんに言われた日には立ち直れないだろう俺としては、真面目にやるしかなかったのである。

 まあその結果ここにこうしていられるのだから、それでよかったんだろうけども。

 さて、いま俺は新入生として講堂にいるわけだが、この中に入る前に新入生はそれぞれの専攻コースに分けて入場させられた。

 俺が入った『普通士官コース』、通信などを学ぶ『情報士官コース』、テクノロジーを学ぶ『技術士官コース』の三つである。

 後者ふたつは一回聞けばどんなものか想像がつくと思うが、普通士官ってのは抽象的すぎてよくわからないと思う。つまるところ、普通士官コースは執務官も含めて捜査官や監査官に陸海空の尉官などなどそれらをひっくるめて学ばせるらしい。とはいえ、さすがにそれだけ一緒にやると講義が複雑になりすぎるので、普通士官コースの中でさらに『特殊士官クラス』と『陸海空士官クラス』にクラス分けされるようだ。当然俺は前者である。普通なのに特殊なのかと思うかもしれないが、そこらへんは俺だって知ったことじゃない。ただそういうものだと思っておくのが正しい対応である。

 とまあ、そんな感じで入場前にそれら計四つの集団に俺たちは分けられ、今は同じクラスやコース同士で固まっているわけだ。

『――以上をもって、入学の祝辞と代えさせていただく』

 マイクを通して講堂中に響き渡っていた校長の声が途切れる。そして次に司会進行を担当している教官の声が響く。

『敬礼!』

 ザッ、と靴がこすれる音が大きく聞こえる。

 この時の入学生の敬礼なんてみんなてんでなっていないものらしい。ただ、これが卒業の時となると全員がぴしっと揃っているのを見るのがやりがいなんだ、とグレアムおじさんは言っていた。なんと短い間とはいえ校長を担当したことがあったという。まさかの裏設定に驚いた記憶がある。

 それ以降は簡単な連絡事項を受け、俺たちはクラスごとに教室へと移動することになった。十歳の俺は、十四、五歳にも見える明らかに年上な人たちに囲まれてほとんど埋もれながら移動する。やはり難関なだけあって、十歳という最低年齢で入ってくる人間は少ないようだ。

 俺は微妙に居心地の悪い思いをしながら、人の波に逆らわずについていった。















 そんなこんなで移動してきた俺たちは、現在特殊士官クラスの教室で待機している。というのも、なぜか先導してきた担当教官が俺たちに待機を言い渡してどこかに言ってしまったからだ。最初こそ疑問を覚えてざわついていた教室だったが、しばらくするとそれも収まった。そこらへんはさすがに就業年齢が低いこの世界らしい。これが俺のもとの世界だったなら教師がいなくなった瞬間もっと騒ぐだろう。各自の自律心が子供の頃からしっかりしている証拠だった。

 そうして待つこと数分、ようやく教官が帰ってきた。その隣に、緑の長い髪を持った子供をつれて。


 ガタガタンッ!


 俺は思わず机を巻き込んで激しくすっ転んだ。


「……ん? お前は……ほお、ハラオウンか。何をしているんだ?」

「い、いえ別に……」

 ははは、と愛想笑いを浮かべて誤魔化しを試みるが、そのじつ俺の頭の中は衝撃と驚愕で混乱しっぱなしだ。なんでこいつがこの時期にこんなところにいるんだ!?

 教官は俺のことは気にしないことにしたのか、訝しげに眉を寄せた後、何事もなかったかのように教壇に立った。隣の子供もその隣に立つ。ちくしょう涼しい顔してやがる。いきなりまっがーれ↓とか言い出さないだろうな。もし本当にやりやがったらかなりのダメージを受けてしまうだろう。主に俺の腹筋が。

 そんなくだらないことを考えている俺だが、そんなことは関係なく状況は進む。壇上で教官は厳かに口を開き、隣の奴に視線を向けた。

「――さて、諸君に知識を授ける前に私にはしなければならないことがある。この彼の紹介だ。彼はザンクト・ヒルデ魔法学院の初等部を今年で卒業したんだが、中等部には進まずこちらで交換留学生という形をとって学ぶこととなった。彼も士官を目指しているようだから、同輩として仲良くしてやってくれ。……それじゃあ、自己紹介を頼む」

 教官がそう言って一歩下がると、隣のそいつは頷いて気持ち前に出た。


「紹介に預かりました、ヴェロッサ・アコースです。まだ十になったばかりの若輩ですが、ともに学ぶ仲間として、また互いを高めあう競争相手としてどうぞよろしくお願いします」


 ああやっぱりヴェロッサだったんですね、わかります。

 ――ってわかるわけがあるか! 確かに原作ではクロノの親友として三期に出ていたが、こんな早くから知り合っていたなんて聞いてないぞ! おかげでいらぬ恥をかいたじゃないか。一応ハラオウン家は名門らしいのだから、できるだけ大人しくしておこうと思っていたのに、早速頓挫だよコノヤロウ!

 完全に八つ当たりを俺が決め込んでいると、一瞬ヴェロッサと目が合った。その瞬間、唐突に俺の頭に恐ろしい想像が浮かんではっとする。

 あ、ありのまま今思い当たったことを話すぜ……。

 奴がまっがーれ↓だということは、もしや俺の立場はキョンになるのでは?

 な……何を言ってるのかわからねーと思うが、俺も何があったのかわからなかった。

 というかわかりたくなかった。

 まさか……あいつリアルにガチホモだったりしないよな? そこかしこの設定でクロノとヴェロッサってそうなんじゃない的な話はあったんだが。現在その当人になっている俺にとってはシャレにならんぞ! い、いやだ後ろの関係なんて! 俺は普通に女の子が好きなんだ!

「……さて、これでこのクラスに十歳は二人か。慣れないところだし、年の近い奴がいたほうがいいだろう。ハラオウン――あの黒髪の奴の隣に座りなさい」

 ほわっつ!? あ、あんたどこの手先だ、俺に何の恨みがある!? 情け容赦ない教官の采配に俺はまさに身も凍る思いだ。

 万が一俺が想像してしまった事態になっちゃったとしたら俺は世を儚んで自殺するかもしれない。くそっ、そうなったらあんたの名前を真っ先に書いてやるからな! 犯人をあなたです!

 ぐるぐるといい感じにテンパってきた俺に、件のそいつが近づいてくる。一歩……また一歩と、着実に奴はここに来る。

 そしてついに俺の隣に並ぶと、そいつは無駄に爽やかな笑顔を見せて、きらりと歯を光らせた……ような気がした。ひいいぃぃ!

「よろしく、ハラオウンくん。僕はヴェロッサ。これからよろしく頼むよ」

「お、お……」

「お?」

 ヴェロッサが口をパクパクさせて言葉にならない声でうめく俺の顔を覗き込む。そしてそれが、俺にとっての限界だった。


「……俺はお前と違ってノーマルでガチホモじゃないんだぁ――ッ!!」


「は、はあ!? い、いきなり何を言い出すんだ君は?」

 俺の絶叫にワンテンポ遅れて反応した奴は、真剣にわけがわからないといった顔で訝しげに俺のほうを見た。その顔はなんというか、ちょっとアレな人を見るような哀れみさえこもっていたので、若干俺も傷ついた。だが、きっとこのあと俺以上にこいつは苦しむだろう。

 なぜなら……。俺は奴の背後に目を向けた。


 ひそひそ……。ざわ……ざわ……。

 ホモなんですってあの子……。じゃああの黒髪の子が被害に……? おいおい、ガチはまずいだろガチは……、アベさん的な意味で。なるほど、やらないか、か……。


 クラスメイトたちの怪しい視線と囁かれる根も葉もない言葉たち。ようやく今の自分の状況がかなりマズイ位置にいるのがわかったのか、ヴェロッサは顔を青くさせて必死で弁解を始める。

「ち、ちょって待ったみんな! こ、この彼とはいま会ったばかりなんだから、彼が僕のことを知っているわけないだろう!? 口からでまかせだ、大それた大嘘だよ!」

「うわあああああぁぁあッ! 俺はガチホモじゃねぇぇぇえぇええぇッ!!」

「君はもう黙っててくれぇっ!!」

「がふぅっ!」

 ほら、もうあんなに激しい……。最近の子供は本当に……。

 また何か囁く声が聞こえる。そしてそれに向かって大きく誤解だと呼びかけるヴェロッサ。教官は……教壇に肘をついて本を読んでいた。あんたホントに教官かよ。

 完全なるカオス空間となった中心で、俺はそんな光景を最後に気を失った。意識を刈り取るためとはいえ、迷わず首筋に手刀か……。頼もしい奴だ。

 これが俺の入学初日。エリート管理局員養成コースとも言われる士官学校での第一日目。その始まりの出来事であった……。

















「はっはっは! いやあ、あの時は悪かったよロッサ」

「悪かったではすまないよ! 僕があのあと誤解を解くのにどれほど苦労したか……」

 肩を落として一週間前の異様な空間のことを思い出しているのか、ロッサはひどく憔悴した様子でぶつぶつと呟いている。

 俺は誤魔化すようにもう一度高笑い。そうしたら今度は殺されそうなぐらい鋭い視線を向けられた。いや、ホントごめん。もうしない。許してくれ。

 誠心誠意精一杯の気持ちをこめて九十度に身体を折ると、ロッサはため息をついて、もういいよと言って許してくれた。なんて心の広い奴だ。その心の広さで、今度俺のお願いを聞いてもらおう。いつかその声でぜひ、まっがーれ↓と言ってほしい。くだらない願いでサーセン。

 とまあ、そんなことはさておき、なぜ俺とロッサがあんなことがあったのに一緒に行動しているかだが。結局のところ、同い年ということが大きかったということである。周りは俺たちより体格がいい奴らばかりだし、女子だって俺たちより年上がほとんどだ。話すたびにどこか子供扱いされていれば、自然な態度でいられるところに来るのは当然の流れだ。俺がちゃんと謝罪したこともあって、俺たちはあの教官の思惑通りに一緒にいるようになったということだ。

 ちなみにあの誤解はちゃんと解けた。周りの皆も冗談で付き合っていたところが多くあったみたいで、逆に緊張がほぐれたと言って感謝する奴もいたぐらいだ。そんなわけで、早速クラスでの俺たちの評判も悪くない。まあ、怪我の功名というか結果オーライだな。

「次は模擬戦だったか?」

「そうだね。担当教官は……クレスタ・ブレイド一等陸尉? うわ、AAAランクだよこの人」

「相手にとって不足なしじゃないか」

 にやりと笑って俺が言うと、ロッサはやれやれと肩をすくめる。

「クロノって意外というかそのまんまというか……とにかく、バトルジャンキーだよね」

「おいおい、俺なんてまだまだだよ。ま、師匠がそんな感じだったから移ったのかもな」

「なるほど。……それにしても君も珍しいよね。近接戦闘が主なのに持っているランクがミッド式の空戦Bとはね」

「……俺だって最初は普通に総合狙いだったんだよ」

 そう、俺はCランクまでは原作のクロノと同じように総合でとっていたんだが、Bからは空戦ランクに宗旨替えしたのだ。

 その理由はごく簡単。俺はあのクロノみたいに細かい計算とか緻密な戦術とかを頭の中で進めていくのが苦手だったのだ。ぱっと思い浮かんだアイデアを発展させていくことは得意なんだが、どうにも与えられた命題から演繹しなければいけないようなことができない。数学自体は成績が悪いわけではなかったんだけどなぁ。まあステレオタイプに縛られない自由な発想と言えば聞こえはいいが、ようするに原作のクロノとは明らかにタイプが違う存在だったのだ俺は。よって、様々な種類の魔法を精密に駆使して戦うオールラウンダーの代名詞ともいえる総合ランクは断念したのである。

 さらに俺が特にロッテとの訓練に力を入れていたせいもあって、得意な範囲が近接になっていたことも大きな理由だ。俺の基本的な攻撃は殴る蹴るの暴行である。杖型のデバイスであるS2Uは遠距離に敵が逃れた時の要、もしくは打撃の武器。そして魔法行使時のサポートの意味合いが多くを占めている。正直S2Uのデバイスとしての価値は当初に比べてかなり下がってきている。これは俺の得意分野に気づいた時以来頭を悩ませている問題である。今はとりあえずバリアジャケットを改造して両手にメリケンサックみたいなものをつけるようにしている。当分はそれで凌ぐしかないだろう。デバイスはなにしろ高いのだ。

 そして近接戦闘と言えば花形はスバル・ナカジマを見ればわかるように陸戦魔導師だが、俺の場合は陸戦適性はそれほど高くはなかった。魔導師イコール空を飛ぶという公式が頭の中で成立していた俺は、ずっと昔から空を飛ぶことを続けてきて、陸での戦闘はほとんどやっていない。ロッテとの訓練は陸上も多くあったが、模擬戦が始まると俺はいつも空に上がっていた。そんなわけで、俺にはもう完全に空戦適性しかなかったのだ。

 という諸々の要素が重なり合って、俺は魔法はミッド式でありながらも近接戦闘(それも拳を使う超接近戦)主体の空戦魔導師という世にも珍しいタイプの魔導師となっていたのだった。実際、近接オンリーといっても過言ではないベルカ式魔導師でも空戦高ランクの魔導師はいないと言ってもいい。

 俺がミッド式でしかも、近接型空戦魔導師というのはかなり珍しい部類に入るだろう。まあ、一応長距離の攻撃方法とかもあるんだけどね。

「僕ら担当のロウラン教官も君のことは珍しいって言ってたからね」

「教官がねぇ……」

 ロッサの言うロウラン教官とは、初日でいきなり生徒の騒ぎの傍らで本を読んでいたあの教官のことである。

 セドリック・ロウラン三等陸佐。この一週間で得た彼の情報によると、現場で仕事をしたいがために昇進を蹴り続けている元エリートの変わり者、という評価がされているらしい。その話と階級を裏付けるように、彼が指揮を執った部隊は常に任務成功を達成しているという話だ。眉唾ものの話だが、まあそんな変なうわさが流れるほど謎な人物ということでもある。講義態度については自由奔放で個性的という意見が多数だった。ちなみに魔導師ランクはS+である。

 だがそれよりも、俺が驚いたのは教官のファミリーネームだった。ちょ、ロウランて。絶対にお酒好きな妹がいて本局で提督やってるだろ、と内心で突っ込んだものだ。

 そんなことを考えている時、教官に呼ばれたので行ってみれば母さんの様子はどうかと聞かれた。クエスチョンマークを頭に浮かべる俺に気づいたのか、教官は失念していたとばかりに眉を寄せると、俺にちゃんと説明してくれた。

 曰く、自分の妹が君のお母さんの親友で、お母さんともお父さんとも面識があった。葬式の時には顔を見に行ったが、君もお母さんも非常に憔悴していたので声をかけることが躊躇われた。後日、と思っているうちに結局行けなくなってしまったが、妹を通じて様子は知っていた。五年がたち、君が入学してきたので、もう大丈夫だろうが一応聞いておこうと思って呼び止めた、と。

 ……一応、本局に提督を務める妹がいるらしいという噂話もあったんだが、やはり真実だったらしい。確認のために聞いてみたところ、妹さんの名前はレティだった。レティさんは母さんの親友ということで俺とも親交があるんだが……あの人、兄貴がいたのか。なんとなく意外だ。

 そうして教官と話して以降、俺と教官はそれなりに親しくやっている。とはいっても話しかければ答え、道で会えば挨拶を交わす程度ではあるが。まあ、教官と教え子であるから、あまり親しい態度を前面に出すのも問題なのだろう。そこらへんは俺も賛成なので、お互い適当にやっているのだった。

「まあ、俺の場合はそこにさらにレアスキル持ちっていうのも付くからな。教官が思わずそう言いたくなるのもわかるよ、我ながら」

 俺が苦笑まじりにそう言うと、ロッサも確かにと頷く。

「その点僕はレアスキルは持っていても、なんの変哲もない近代ベルカ式だからね。レアスキル持ちっていうのはちょっと気にしてたんだけど……クロノがいてくれたおかげで目立たずに済んだよ」

 そう言って笑うロッサ。ベルカ地区からの留学生という形でこちらに来ているロッサならではの悩みといえる。

 こいつは現在、世話役の騎士を一人連れて士官学校傍のマンションに居を構えている。ちなみにその世話役の人の名前を聞いたらシャッハ・ヌエラと答えた。このころから一緒に行動していたのかと思うと驚きもあるが、確かカリムとロッサの護衛兼ロッサの教育係でもあったと記憶しているから違和感はないかもしれない。そうなるとカリムのほう護衛どうするの、って話になるわけだが。これまた今の俺がカリムを知っているわけがないので、何も聞いていない。

「まあ、とりあえずは目下の模擬戦が問題だな。これで五日間連続で模擬戦が行われているわけだが……エリート士官学校の名に違わずといったところか?」

「そうだね。講義のあとの模擬戦、反省会を含めてまた講義だからね。今日の模擬戦の内容いかんによっては、その後の反省会に響くんじゃないかな?」

「それは勘弁してほしいなぁ」

 貴重な授業後の時間を削られるのは非常に困る。執務官の勉強はもう二年ほど前から手をつけているが、なかなかに成果が上がっていないのが現状なのだ。勉強する時間は多いに越したことはない。

「前回は二人一組、その前は五人グループに分かれての団体戦、そのさらに前は一対一のトーナメント。……さて、今日はどうなるのかな?」

「さあな。それこそ神のみぞ知る、だろ」

「違いないね」

 ロッサは俺の言葉にくっ、と小さく笑う。こいつとのこういった掛け合いもすっかり板についてきた。出会って一週間、ほとんど一緒に行動しているのだからさもありなんといったところだが。

 士官学校で出会うと明言されていたエイミィにはまだ会っていないというのに、先にヴェロッサと会うことになるとは予想外だった。そもそもこいつがここにいること自体まったく知らなかったわけだから当然なのだが、原作のクロノもここでヴェロッサと出会ったのだろうか。

 あのクロノと俺が違うということはわかっているが、ふとした時についこうして比較してしまう。悪い癖だと思うんだが、なかなか治らない。それこそ生まれた時からそうだったのだから今さらといえばそれまでなのだが。いずれにせよ俺が俺らしくすることに変わりはないので、一種のカンニング程度に思っておけばいいとは思う。そもそも俺が空戦ランクだったりレアスキル持ちだったりする時点であのクロノとは違っているのだから、気にしても意味がないことだろうし。

 そんなことを考えながらロッサと歩き、集合場所となっている訓練場へとたどり着いていた。俺はほっと一息吐く。

「……やれやれ、今日は遅刻しなかったか」

「さすがに二日連続はまずいからね」

 いけしゃあしゃあと言う隣の男を、俺はぎろりと睨みつける。それというのもこいつがいつもいつも遅刻ギリギリの時間に狙ったかのように来るのが悪いのだ。何となく行動を共にするようになって以来、互いに待ち合わせをして動くことが多くなったが、いつも待つのは俺の方だ。こいつの遅刻癖は相当なものなのだ。昨日も遅刻して怒られたばかりである。ちなみにこの一週間で遅刻は三回。すべてロッサを待っていたせいである。

「お前のせいだってわかってるのか?」

「以後気をつけるよ」

 自重する気まったくないなコイツ。

 俺は意に介していない様子のロッサに軽くため息をつき、扉の前に立つ。スライドドアが開いて、俺たちは訓練場に足を踏み入れた。

 中に入れば、そこにはもうよく知る俺たちと同じクラスの連中の顔。時間五分前だから余裕を持ってきたつもりだったが、皆のほうが一枚上手だったようだ。まあ全員がそろっているわけではないようだが。

 ――と、訓練場の端。そこに見慣れない一団が固まっていた。思わず目をそちらに向けると、それは士官学校の制服に身を包む多くは女性で構成された集団だった。制服は俺たちも来ているが、どうにも装いが違う。

 俺たちの制服が薄手の動きやすいものであるのに対し、あちらはスーツのような姿にタイまで絞めている。はっきり言って訓練場に似合わないタイプの人間ばかりだった。なぜこの場所にいるのだろう。

 隣のロッサに視線で問いかけると、疑問顔で首を振った。やはり知らないということなのだろう。これは教官が来た時に聞くしかなさそうだ。


「――よし、全員揃っているな。早速始めるぞ」

 開口一番、いきなりの発言と共に入ってきたのは筋骨隆々、ムキムキの全体的に大きな大柄の男だった。なんとなく高校の体育教師を連想する。俺が通っていたトコの先生は確かこんなコテコテの体育会系だった記憶がある。

 しかしながらこのブレイド一等陸尉だったか。名前とまったく合っていない外見だと思う。こんなゴリラなみの体格でクレスタ・ブレイドって。名前だけ聞いたらものすごいイケメンかと思ってしまう。実際そう思っていた人間もいたのか、女子の中で肩を落とす生徒の姿が見受けられた。

「ブレイド教官、早速始めるとおっしゃいましたが……あちらの方々は何か関係があるのでしょうか?」

 ロッサが手を上げて教官に物申す。そのことは全員が気になっていることであったので、すべての瞳がブレイド教官に集中した。

「ん、ああそうか。まだ言ってなかったな。今日の訓練は特殊士官クラスと情報士官コースの共同訓練とする」

 特殊士官と情報士官が一緒に? そんな俺たちの疑問が顔に出ていたのだろう。教官はひとつ頷き、説明を始めた。

「まず今回想定するのは実際に君等が士官となった場合の時だ。情報士官は主に執務官や査察官などとは特に任務を共にすることもあるだろうし、逆もしかりだ。きちんと情報士官は彼らから得られた情報をもとに状況を分析できるか、特殊士官連中はその情報をもとに適切な行動がとれるか。そのコンビネーションを見させてもらう。即席でコンビを作って今回の訓練は行う。突然だ、というのは言い訳にならないぞ」

 まあ今さらそんなことで文句を言う奴はいないだろうけど。

 それにしても、こんな訓練もあるんだなぁ。士官学校ならではと言うべきなのか? 確かに情報・通信士官と行動する機会は今後確実に増えるだろう。だとすればこうした機会に慣らしておくのは理解できることだ。

 その連絡がなかったのは……まあ、突然のことにも動揺せずに対応するためだと思っておこう。

「それでは今からランダムに名前を呼ぶ。続けて呼ばれた者同士がコンビとなり、あちらで待機だ。ヴェロッサ・アコースとリオ・クリッパー」

「あれ、いきなり僕か」

 しょっぱなから名前を呼ばれたロッサは、俺に一言断りを入れると同じく呼ばれた少女と共に今さっき教官が示した組分け済みの者が待機する場所に歩いて行く。付け加えるとなかなか可愛い子だった。……う、うらやましくなんかないんだからねっ!

 そうして続々と名前が呼ばれていく中、俺の名前はまだ呼ばれない。やはりファミリーネーム順なんだろうか。ハラオウンだから遅いとか。いや、あいうえお順がここで通じるわけないか。偶然だな。


「次、クロノ・ハラオウンとエイミィ・リミエッタ」

 お、きたきた……――って、え?

「はい」


 高い女性の声が近くで聞こえ、俺は振り向いてその顔を確認する。俺の背中と向かい合う形で、茶色い髪を短くカットした活発そうな少女が俺に向かってにっこり微笑んだ。

「君がクロノくん? エイミィ・リミエッタです。今日はよろしくね」

「あ、あぁ……」

 俺が条件反射的に答えると、目の前の彼女は笑って、待機組のほうへと移動していく。俺もはっと我を取り戻すとその後に続いた。

 ってゆーかそうだそうだよ。エイミィの仕事はアースラでは通信担当だったのだ。そして俺とは士官学校で知り合う予定の仲。だとするなら今日のこの訓練に情報士官として参加しているのも自明の理だ。どうして教官の話を聞いた時に思い至らなかったんだろう。ぬかったぜ。

 しかしロッサと違ってこの学校で会うということは知っていたものの、こういった形で会うことになるとはなぁ。この学校に来てから妙に原作関係者と顔を合わせたり、話を聞いたりするようになった気がする。

 ロッサ、シャッハさん、ロウラン教官、エイミィ。まあロウラン教官は原作には出てこない人だけど。それでも、よくもこの一週間でこれだけの人間に関わりを持ったものだ。

「クロノくん? どうしたの?」

 待機場所についてからもずっと喋らない俺を体調が悪いとでも思ったのか、エイミィの表情は心配げだ。俺はつとめて明るく笑うと、そんなことはないとアピールする。

「いや、何でもない。それよりえーっと……エイミィでいいか?」

 最初なのだしリミエッタさんと言おうとしたが、なんというか違和感がありすぎてどうにも舌が慣れない。結局俺はエイミィには悪いが名前で呼ぶことにした。もちろん許可が得られればだが。

「うーん、まあいいよ。そのかわり私はクロノくんね。さっきから呼んでるけど」

「オーケー。ま、よろしく頼むよエイミィ」

「こちらこそ」

 互いに笑い、握手を交わす。これで即席とはいえコンビ成立だ。エイミィの通信技術の腕が凄いということはわかっているので、ここでは存分に頼りにさせてもらうことにしようか。

「――さて、全員組分けされたな。それではこれより今日の訓練を行う場所に移動する。全員私についてこい」

 どうやらこの訓練場は二クラス分の人数を問題なく収容するためだけに用意されていただけらしい。さっさと歩きだす教官について、俺たちも訓練場から出ていく。さて、いったいどんな訓練をするのやら。俺はエイミィの隣で少しだけ期待を抱きながら、これからのことに思いを馳せるのだった。



















※「お前には失望した」
エヴァより、碇ゲンドウのセリフ。傷心の息子にかける言葉とは思えないほど、外道な言葉。だがしかし、本心ではゲンドウもシンジを愛しているらしい。重度のツンデレだといえる。
※まっがーれ↓
「涼宮ハルヒの憂鬱」より、古泉一樹の代名詞的言葉。13話の次回予告にしか出ていないくせに、超能力者っぽい感じがするので、いつしか彼を表す言葉に。キャラクターソングの題名にも入っている。追記として、古泉はガチホモである。
※犯人をあなたです。
「月姫」。翡翠さんの言葉。ぐーるぐーる。
※アベ(阿部)さん・やらないか
ツナギが似合う、ダンディーな男。公園のベンチで会ったら、うほっやらないか、と言ってみよう。







あとがき
第二部・士官学校編スタートです。
とはいっても、やることやったらすぐに終わらせる気満々です。やはり原作にいってみたい。
まあ、それでも一部よりは確実に長くなりますけどね。
そんなわけで、また感想など頂ければ。
では~。

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Comment
う~ん
お初でございます。

>ミッド式でしかも、近接型空戦魔導師
しかも、フロントアタッカー向きの稀少技能付き
フェイト以上になのはと組ませるとベストマッチングしそうなクロノですね。
hana 2008/06/01(Sun)04:25:07 編集
無題
クロノって確か執務官経験は3年だから、今10歳ってことは2年で卒業ってことか・・・しかも執務官試験1回落ちてるから実質1年。
原作通りに行くにはあまりにも過酷な道。
ガンバレクロノ!
ラインゴッド 2008/06/01(Sun)07:01:52 編集
RES
>hanaさん
はじめましてです^^
近接といっても拳なんで超接近戦ですけどね、クロノの場合は。
でも、確かに長距離砲撃の専門家であるなのはと組めば、ハマりそうではありますね~。

>ラインゴッドさん
えっと、現在十歳で原作開始時は十四歳なので、三年の執務官経験を鑑みると、学校は一年で卒業となります。スバルやティアも陸士訓練校をそれぐらいで卒業していますし、まあそんなものかと。
執務官試験……このクロノは果たして一発合格できるのか、そもそも受かることができるのか。はたまた一回落ちるのか?
そこらへんも楽しみにしていてください~^^
雪乃こう 2008/06/01(Sun)09:54:09 編集
無題
はじめまして、koujiと申します。
クロノに憑依してから、しっかりとクロノの成長具合、そして原作との違いが顕著に書かれているので楽しく拝見しております。
最近、更新を心待ちにしている作品の一つです。
今後、原作のキャラ達との関わりあいを見るのがとても楽しみです。
今後も楽しみにしております。
でわでわ。
kouji 2008/06/01(Sun)14:12:08 編集
あっれ~
この段階でロッサが出て来るとは思いませんでした。シャッハも居る見たいだし、クロノが何時カリムと会うのか楽しみです。

そして、やっと出ましたエイミィ。今後クロノとどんな関係を築くのか楽しみにしています。
2008/06/01(Sun)15:59:48 編集
お疲れ様
クロノカッコイイよクロノ(二回目

ガチホモ疑惑のヴェロッサに盛大に吹いたwww
東月 2008/06/01(Sun)23:34:49 編集
RES
>koujiさん
はじめまして~^^
いやあ、拙作ながらそこまで楽しんでもらえると私としても嬉しいですねw
不定期なので次の更新がいつというのは分かりませんが、更新したらまた読んでやってください。
原作キャラも第二部では出てきますのでw

>俊さん
いやあ、クロノが学校で行動を共にするキャラを考えた時に、エイミィは決定として男も欲しいなあと思いまして。
オリキャラでもよかったんですが、どうせならってことでロッサを持ってきましたw
意表をつけたなら大成功ですね^^
これからの彼らの関係も楽しみにしてください~。

>東月さん
クロノ君は今日も頑張っているのですよw
ロッサのあれは中の人が一緒ですから、ネタにさせてもらいましたw
ロッサと古泉の中の人が小野Dというのは有名ですからね~。
雪乃こう 2008/06/02(Mon)11:34:58 編集
無題
「○○ですか? わかります」というのも実はアイマスのネタだったりします。
あえて表記すべきかと聞かれれば必要ないかも知れませんが、一応指摘してみました。

どうも「こうですかわかりません><」の派生と思ってらっしゃる方が多いようですし。
通りすがり 2008/06/02(Mon)19:19:56 編集
RES
>通りすがりさん
アイマスのネタだということは知らなかったです。
通りすがりさんありがとうございます。
…ちなみに「あ、ありのまま~」ののくだりはJOJOネタです。ですが、長くなるのであえて載せてません。
まあ、たまにはそうやって載せないネタもあると思うので、そういったネタを探すのも面白いかもですよw(ぉ
雪乃こう 2008/06/02(Mon)19:33:51 編集
無題
jojoネタが出てポルナレフっ?と驚き、
まっがーれ……を見てプッ!と噴出し、
やらないかを見て腹を抱え、
ゲンドウの本心……を見て爆笑しました!
ネタのチョイスが逝かしています!
あと、あの愚者が今日更新されましたよ?
あと凡才ナノハも
フェイク 2008/06/02(Mon)20:07:30 編集
RES
>フェイクさん
ネタだらけでサーセンwww
愚者と凡才見てきましたよ!
もうやっべぇですね、あれは。なんていうか、もうやっべぇですよあれは。
いやいや両方とも本当に面白い作品です。続きが気になりますねー。愚者のほうはもうラストですけどねw
雪乃こう 2008/06/02(Mon)23:34:28 編集
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