2-3
俺が士官学校に入学して早いものでもう三ヶ月になる。ヴェロッサと出会い、エイミィと出会い、俺は順調にリリカルマジカルな世界を日々生きている。
そんな中でつい三日ほど前。俺はAランク試験に挑戦し、見事に一発合格と相成った。リーゼの二人からはあと五年はBだと言われていたので、喜びもひとしおだった。しかしながらかつてロッテに言われたとおり、俺の成長は著しく遅い。まあ、そうはいえどもこの学校に来てからというもの自分でも自分が成長していっているのはよくわかるので、このままいくと恐らく卒業後しばらくすればAAに挑戦できるぐらいにはなるだろうと思う。もちろん俺が努力を怠らなければという条件付きではあるが。
だがしかし、それは俺が十二歳か十三歳の頃になるだろう。そこから原作の時間前にAAA+に持って行くのはたぶん無理だ。Aランクを越えると、そこから先はかなりの狭き門となり、そのぶん必要になる技術や知識も多くなる。現況を鑑みるに、原作開始時にAA+まで持っていければ恩の字といったところか。まあ執務官資格を取る分には問題はない。そんなわけで、できるだけの努力は続けているが半ばそれについては諦め気味となっている俺である。
さて、三日前に俺がAランクに合格したということは当然クラスの皆や親しい人たちにも知られることとなった。母さんやグレアムおじさんからはすでにお祝いの連絡をもらっている。母さんからは何か欲しいものはないかと聞かれたので、心苦しくはあったが近いうちにデバイスを変えようと思っていることを告げた。母さんからもらったものだっただけに後ろめたかったのだが、母さんは笑って気にしなくてもいいと言ってくれた。もし変える時には今度は俺の要望のものを作るのに協力すると言ってくれたのも嬉しかった。
ロッテとアリアからもおじさんとは別口で手紙を貰い、直々に祝ってもらった。やはり形に残るものというのは嬉しいもので、細かいことに気が付くアリアの提案だろうそれに俺は大いに喜んだものだった。ちなみに五年はBのままと言われたのに四年でAを取ったぞと自慢げに連絡をしたら、そんな昔のことを気にするなんて小さい奴だと笑われた。……ロッテ、お前マジ俺にひどくない?
それからクラスの皆にも祝ってもらった。といっても、食堂で集まり俺の分だけ奢ってもらって騒ぐ程度のささやかなものだったが。それでも、そうして仲間たちと喜びを共にするのはとても気分がいいものだった。それにロウラン教官まで参加してきたのには少々驚かされたが。
そして親しい人たち――ヴェロッサとエイミィのことだが、この二人も我がことのように俺の合格を喜んでくれた。二人の口からも祝いの言葉をもらい、俺は非常に満足だった。思わず調子に乗って某気弱アメフト少年にやるようにエイミィをパシろうとしたら、彼女はにっこり微笑んでイヤと即答。俺とロッサはちょっと迫力に押されて引いた。ここ最近で、エイミィも随分と俺たちに慣れてきたようだ。
エイミィとはあの時の合同訓練以降よくつるむようになった。授業や実技訓練自体はかぶることがなければ一緒にはならないが、それ以外の時間――例えば昼食時や授業後には一緒にいることが多い。きっかけはやはり俺が奢らせたことだろう。翌日に一緒に昼飯を食っているところにロッサが来て、三人で昼飯を食って以来それが定着したのだ。
話を聞けば、エイミィは俺たちよりも二つ年上であるらしいことがわかった。まあ俺は知っていたわけだが。そして年齢は違えども俺たちとは同期になる。この学校が基本的に一年制である以上それは当たり前っちゃ当たり前である。とはいえ中には留年したり、上級キャリア試験を目指しているなどの理由からもう一年特別カリキュラムを受講するという場合もあるので一概には言えない。エイミィは後者の稀有な例ではないようなので、卒業は俺たちと同じになるらしい。
そんなわけで、エイミィには俺たちも遠慮なく普通にタメ口で接している。エイミィ自身もそれを望んでいたし、同期なのにかしこまるのもおかしいと三人ともが思ったからだった。
そして今、俺たちはいつものように昼食を同じくしている。場所は勿論この学校内の食堂だ。この食堂、あなどれないことにメニューになぜかラーメンがあり、醤油と味噌と塩の三種類の味があった。俺は懐かしさも手伝ってよくここのラーメンを食べている。基本的にミッドチルダには地球産の料理なんてなかったからなぁ。ここでは第97管理外世界だったか。
「クロノくんってホントにそれ好きだよね」
「いいだろ別に。実際美味いんだから」
エイミィが呆れたように俺の手元を覗いてそう言う。まあ三日に一回はラーメン食ってるんだからそう言いたくなる気持ちも分からんではないけども。
ちなみに今日はオーソドックスに醤油ラーメンだ。味噌と塩も捨てがたいが、個人的には醤油こそがラーメンの真髄だと思うね。店に行って醤油ラーメンを食べればその店の味が大まかにわかるってぐらいに基本だと思う。これでこのラーメンを作っている人間や業者の名前が一楽だったら笑うんだがな。美味かったってばよ! とか元気よく言ってやるんだが。
「いかん、ナルトを見ていたらつい……」
「え、この渦巻きがなに?」
「いや、なんでも」
エイミィの疑問には答えず、俺はずぞぞと音を立てて麺をすする。ちなみに、その音を聞いて最初は二人とも眉をしかめていた。さすがは純粋ミッドチルダ人である。しかし、俺がこういった汁物の麺類を食べる際は基本的にすするのが礼儀なのだと教えると、最初こそ納得していなかったものの、いつしか何も言わなくなった。理解してくれたのか、俺が言ってもやめないので諦めたのかは微妙なところだ。
だが実際に蕎麦なんかはすすって食べるのがマナーだ。正確には「音を立ててすすっていい」であって「音を立てなければならない」わけではないが。そしてラーメンとは別名中華“そば”である。ならすすって食べるのが正しい。完璧な理論だ。屁理屈って言うな。
「あ、そういえばクロノ」
「ん?」
ずるずると麺を気持ちよくすすっていた俺に、ロッサが話しかける。ランチを食べ終えてコーヒーを片手に足を組むその様は、見た目美形な外見とあいまって喧嘩を売っているようにしか見えない。
これだからイケメンは困る。意識しないそんな動作で君の後ろの女子が君をちらちらと気にしていますよ。俺にしてみれば羨ましい限りだ。だからこそ許せん。イケメンよくない。ダメ、ゼッタイ。
「……なんで君は僕を睨んでいるんだい?」
「男の価値とは心の中にある。今は、それでいい」
「は?」
ロッサは無視して俺は残されたつゆを一滴残らず飲みつくす。そうしてダンッと空になった器をテーブルに置くと、水の入ったコップを手に取ってそれを一気に傾ける。そして最後に満足感たっぷりの吐息を吐いてから、俺はロッサに視線を向けた。
「それで、なんだって?」
「……相変わらず君は捉えどころがないね。まあ、いまさらか」
ふぅ、とため息をつくロッサに、エイミィがあははと苦笑い。失礼な奴らだな。
「この間クロノはAランク試験に受かっただろう? それを話したら、うちのシャッハがぜひ僕の友達のお祝いをしたいと言ってきてね。迷惑じゃなければ付き合ってやってくれないかな?」
シスター・シャッハが? そういえば世話役として一緒に来ているって言ってたっけか。というか、シャッハって確かカリムの護衛も兼ねて秘書をしているって設定があったと思うんだが、そこらへんはどうなっているのだろうか。
まあ祝ってくれるというのにわざわざ断る理由もないから、俺としては何も問題ないけど。
「ああ、オーケー。行かせてもらうよ」
「悪いね」
「よせよ。むしろこっちが感謝する側だろ」
祝ってくれるというのに、こっちがお礼を言われるなんて変な話だ。そう言ってやれば、ロッサも確かにねと頷いて小さく笑う。
「まあ、近しい人だけの小規模な奴だから、あとは……エイミィ。君も来れないか?」
「え、わたしも?」
突然話を振られたエイミィが自分も誘われるのは予想外だったのか、きょとんとした顔をして自らを指さす。
ロッサは当然とばかりに頷いた。
「僕にとって親しい友人といえるのはクロノとエイミィだけだからね。それに、君だってクロノのお祝いには参加したいだろう?」
「それはそうだけど……」
ちらりとエイミィの視線が俺に来る。なんだ?
「わたしも行っていいかな、クロノくん」
「ああ。当たり前だろ」
「律儀だねエイミィは」
ロッサが苦笑するのを見て、俺はさっきまでエイミィが遠慮していたのはそういうことかと納得する。一応は主役という立場にある俺の意思が大事だと思ったのだろう。ともに招かれる立場とは言え、俺とエイミィでは理由がまったく違うからな。しかし、
「そんなの気にするなよなぁ」
「礼儀だよ、礼儀。クロノくんこそ少しは気にした方がいいと思うよ」
たしなめるような口調でエイミィがお姉さん風を吹かす。まったく、いつ俺が礼儀を欠いた行動を取ったというんだか。
「この間、ブレイド教官の前でいきなり、筋肉すごいっすね、とか話しかけてたよね」
「う」
「そういえばロウラン教官にも結構馴れ馴れしく接してるねクロノは」
「いやそれは」
「ラーメンは音を立てるし」
「それは礼儀だ!」
「あとは――」
「だあぁ、もう!」
これ以上話が進んで過去の失敗やらを掘り返されてはたまらない。俺はバンとテーブルを叩いて話を強制的に遮ると、ロッサに視線を向けて口を開く。
「それで、いつなんだよそれ。合格のお祝いってことはすぐなんだろ?」
合格祝いという名目である以上は、近日中にやらなければお祝いとは言いづらくなるだろう。俺がいきりたって口にした言葉に、ロッサはああそれはね、と前置きをしてから答える。
「次の休日。つまり、明日だね」
■
そんなわけで、いま俺はロッサに教えられたマンションの一室の前にいる。
ロッサが暮らしているのは俺を始めとした多く学生たちのように学生寮というわけではない。その理由は、ロッサの立場上学生寮に押し込むのは憚られたというものがある。ロッサ自身は俺たちと同じ立場で扱ってもらうことを望んだらしいが、だからといってはいわかりましたとそれに従っては、ロッサの後ろにいる存在を考えると管理局側としては始末が悪い。そういった理由から、ロッサはわざわざマンションを借りてそこに住んでいるのだった。
留学生という立場ではあるが、ロッサの立場はそれ以上に微妙だ。なにしろロッサの姉は今はまだ学生の身という理由から積極的に活動はしていないが、聖王教会を実質的に束ねることを約束されているカリム・グラシアなのだ。
さらに言えば彼女は稀少技能の中でも特に特殊性が際立っていると言われているレアスキル“預言者の著書”によって、管理局にもたびたび協力をしていたはず。この時分からそれが始まっていたのかは定かではないが、管理局はその能力自体にはとっくに目をつけているだろう。
ベルカ自治領を思想的に支配している聖王教会の重鎮を約束され、さらには管理局にとっても今後おそらくは重要な存在となるだろう少女。それがロッサの姉、カリム・グラシアなのだ。
そんな存在を後ろに抱えるロッサのことを、管理局が無碍に扱うわけにはいかない。おそらく原作で見たカリムの性格ならロッサの言っている方こそを支持しそうだが、それは別の話。カリム側の意見は関係なく、管理局側の立場的にロッサほどの立場の者を粗末にしては、管理局に悪い風評がつきかねない。実際に風評がたつかは別にして、そうしなければ対外的に体裁が悪いのが問題なのだ。だからこそ、管理局はロッサの扱いを変える気は全くなく、仕方なくロッサは別に一室部屋を借りることになったのだった。
義理の弟であるとはいえ、聖王教会支配階層に名を連ねる者であるのだから、それは避けられない現実であるようだ。
と、そんな立場だからこそロッサには護衛としてシャッハさんもついてきているのだろう。第三期で彼女は陸戦AAAだったはずだが、今はどうなのだろう。なのはやフェイトのように才能ある者なら既にAAAを取得していてもおかしくはない。さすがにそれはないかもしれないが、護衛も兼ねて来ていることを考えるとありえなくもない。才能、いいなぁ。羨ましい。
それにしてもシャッハさんも俺たちをこうして招くとは、ロッサの保護者みたいな人だ。教育係でもあったということだが、どう考えても年齢の近いシャッハさんがロッサの教育を行うのは奇妙である。あるいはそこまで聖王教会が人手不足なのか、はたまたロッサの生活態度を改めさせるのに一番適任だと判断されたのか。まあ遅刻をあれだけ繰り返していることから成果が出ているとは言い難いが。
「どうしたのクロノくん、急に黙って」
思索に沈んでいた俺の視界に、横からひょこっと顔を出したエイミィが映る。
俺たち二人は一緒にロッサの住む部屋の前まで来ていたのだ。まあ一緒に誘われた上に住んでいる場所も学生寮で同じなのだから、一緒に来ない理由がない。この部屋の前に来るまではそれなりにお喋りをしながら来たので、急に静かになった俺を不思議に思ったようだった。
「いや、別に何でもない。それより、そろそろお邪魔するか」
「うん」
というわけで俺は備え付けられた呼び鈴を押す。数秒して、本来は映像が出るんだが、それはなく音声だけが返ってくる。とはいっても最初の呼び鈴では音声だけというのは常識ではあるのだが。映像つきなんて高度な呼び鈴がなかった日本出身の俺は、小さい頃にしこたま面白がったものだった。
『はい』
「すみません、クロノ・ハラオウンとエイミィ・リミエッタですけど……」
返ってきた音声に俺たちの名前を告げると、俺たちの前に小さなウインドウが現れる。短く切り揃えられた赤みがかった髪に、優しげな目元。俺の記憶にあるシャッハさんを幼くしたような姿がそこにあった。
『お二人ともお待ちしていました。私がシャッハ・ヌエラと申します。それでは、ご遠慮なくお上がりください』
ウインドウが消え、代わりに俺たちの目の前にあった扉がスライドする。その際に静かな電子音が耳に届くと、俺たちの視界には扉の先の光景が映っていた。
……そう、俺の住んでいる学生寮なんかとは比べるのもおこがましいほどの広い玄関が。
俺たちが一歩足を踏み入れると、玄関より少し先の廊下で待機していたのだろう、さっき映像で見たシャッハさんが俺たちを迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいませ。クロノさん、エイミィさん」
実に礼儀正しく頭を下げた彼女に、俺たちも反射的に頭を下げる。そしてこちらへどうぞと促すシャッハさんについて、俺たちはロッサ宅のリビングへと足を踏み入れた。
――そして、思わず言葉をなくした。
玄関先から予想できていたことだったが、その予想以上に広い室内。明るいベージュ、暖色系の色で統一された床や家具は、まるで木のような印象を感じ、独特の自然感を遺憾なく感じさせてくれる。そして壁は純潔を現すかのように染みひとつない白。大きな二枚窓から差し込まれる陽光により、その白さが一層輝いて見える。
さらには窓から見える光景も絶景だ。ここがマンションの中でも高い場所に位置しているからか、クラナガンの街が一望できるようになっている。視線の先に鎮座する地上本部の五本塔がなんとも雄々しくそびえており、その光景には感嘆するしかない。
本当に今まで見たことがないほど上等な一室だった。うちの学生寮とはマジで月とアリンコだ。まったく何ということでしょう。いったいどんな匠が手掛けたんだこれは。あまり内装なんかにはこだわらない俺でも、つい憧れてしまう。
故に、だからこそ――、
「……お前さ、俺に謝れよ。いや、全世界のいろんな人に謝れ。諸々の理由で」
「なんでさ」
ダイニングでソファーに座ってコーヒー飲んでるこの男が、憎くてたまらない……! 決して羨ましいなんてことはないんだ。ああ、そうだとも。
「くそっ、エイミィ聞いたかおい。こいつは自分の罪を自覚していないようだぞ。これはいかん。けしからんよ。お前も思うだろう、この部屋を見て。学生寮、何それ美味しいの? といわんばかりじゃないか!」
「つまり要約すると学生寮とは比較にならないほどいい部屋だってことだよね? それは私も思うなぁ。ロッサくんが羨ましい。うちの部屋ってあんまり広くないんだよねぇ」
はぁ、とため息をつくエイミィ。その気持ちはよくわかる。
なにしろ学生寮の一室は机と本棚が一つ、テーブル一つ、ベッド一つのメインルームに、トイレや風呂などの水場。そして簡素なキッチンがついただけのものだ。日本のウサギ小屋住宅を知っている俺にとっては十分な広さだと思ったものだが、この部屋を見たらそんな思いは消し飛んだ。やはり人間、欲望って限りないよね。いま心底こんなところに住めたらなぁと思うよ。
「おいおい、二人とも。そりゃ無いものねだりだよ。僕だって学生寮に住んでみたかったんだから」
ロッサが苦笑してそう言う。確かにその通りなのだが、羨ましいと感じるのはどうしようもない。まあロッサが実際、自分の希望が通らず此処にいることは知っているのでこれ以上何を言うこともないんだが。
いいや、今度機会があったら泊めてもらおう。
「ま、それは置いておこう。それより、お邪魔するぞロッサ」
「あ、クロノくんのせいで言い忘れてた。お邪魔しますロッサくん」
「……君たちは見ていてホント飽きないね。いらっしゃい」
やれやれとでも言いたげに肩をすくめるロッサ。それに反論したのはエイミィだった。
「違うよロッサくん。私はクロノくんといるからそう見られるだけで」
「ああ、ごめんそうだったね。クロノのせいだっけ」
そうだよ、そうだね、と納得しあう二人はなんだか目と目で通じあっているようだった。なぜ俺のせいなんだ。納得できかねる俺がそう問うと、二人は顔を見合せて同時に口を開いた。
「「自覚がないの?」」
下手に具体例を挙げられるよりもショックだった。がくりと膝をついた俺を見て、楽しげに笑う二人。くそう、お前らいつか覚えてろよ。
そんなふうにいつものやり取りをしている俺たちの耳に、くすくすと控え目な笑い声が聞こえてきた。俺たちがその音の発生源のほうを見ると、シャッハさんが肩を揺らしていた。なんとなく気恥ずかしくなって、俺らは騒ぐのを止めて彼女を見た。
「ふふ……ああ、すみません。ロッサから聞いていた通りの人たちなんだなぁと思いまして」
言って、もう一度くすりと笑う。
彼女の言葉に、俺は思わずロッサを見やる。どうやらロッサが俺のことを面白おかしく伝えているようだったからだ。エイミィのことをどう言っていたかはわからないが……少なくとも俺よりはマシなんじゃないかと思う。
じっと見つめ続けると、参ったなとロッサは小声で呟いた。
「……まあ、その。クロノっていう変わった奴がいるってなことを言っただけなんだよ」
「もちろん、どんなことをやったのか、何を言ったのかってことも話してくれましたけど」
シャッハさんの補足発言に、ロッサがバツの悪い顔をする。
……ほほう、随分と俺のことを面白く伝えてくれたようだねこの子は。俺が笑顔でロッサを見ると、奴は見るからに口もとをひきつらせ、冷や汗を流した。
「でもよかったです。ロッサは向こうではあまり友達がいませんでしたし。クロノさんのような友達が出来て私も安心しました」
「ほう」
「へぇ」
「ち、ちょっとシャッハ?」
俺だけでなくエイミィも興味深げな返事を返す。ロッサはいきなりの暴露に慌てているようだが、いつも落ち着いているように見える友人の様子はなかなかに面白い。俺はロッサの腕をがっしりと掴んで、シャッハさんに続きを促した。
「ロッサは他の生徒たちとは立場が違っていました。聖王教会にとって、ひいてはベルカ自治領においてもロッサは普通の生徒とは……言い方は悪いですが、価値が違っていたのです。それを気にしない生徒はいませんでした。ある意味でベルカは封建的なところがありますから、みんな余計にそういったものには敏感なんです」
シャッハさんの話を俺たちは黙って聞く。ロッサも抵抗は止めたのか、俺に腕をつかまれたまま大人しくしている。
「ロッサはそれを厭うていましたが……やはりベルカ自治領の中ではどうしようもなかったのです。ロッサが管理局の士官を目指していると聞いて留学を勧めたのは私です。ロッサの教育を任された者として出来る限りのことがしたかったのですが……結果は良好なようで、本当に嬉しく思います」
にっこりと笑って言うシャッハさんは、とても俺たちと二つ三つしか年齢が違うとは思えないほど成熟した優しさを持っていた。俺も思わずその綺麗な笑顔にどきりとしてしまったぐらいだ。これで俺の身体が本来の年齢だったら真剣に交際を申し込んでいたかもしれない。それぐらい、シャッハさんの笑顔は眩しかった。
ロッサは俺の傍で照れ臭そうな顔で拗ねている。やっぱり大人びたところはあっても十歳の子供なのだ。幼いころから一緒にいるシャッハさんに自分の過去を話されることは居心地悪く感じらしい。まあ、それは普通そうか。
それにしても、ロッサさん。顔が赤い気がするんですけど。主にシャッハさんがにっこり微笑んだあたりぐらいから。ひょっとして、君あれだったりします? 小さい頃から一緒にいるお隣のお姉さんに憧れるお年頃ですか? いつも一緒にいる優しい幼なじみのお姉さん……はちょっと違うか。確かシャッハさんは優しいとはいっても武闘派だったはず。だとしたら、むしろネコっぽいお姉さんか。あっちは双剣じゃなくてアイアンクローが武器だったが。
いやあ、それにしても青春だなぁ。この身体での初恋がまだな俺としては、何となく懐かしい感情である。こうして見ると、ロッサも可愛く見えるものだなぁ。
そんなことを考えていると、俺はあることを考え付いた。そして、その思いつきを実行するため、まずは無理やりにロッサと肩を組んだ。
「――ッうわ!? く、クロノ、なにするんだ!」
「はっはっは、まあいいじゃないかロッサくん。僕と君の仲だろう!」
俺が嫌がるロッサと騒ぎながらじゃれていると、エイミィは微妙に溜め息をついているのが見えた。それに対して、目の前のシャッハさんは嬉しそうに微笑んだままだ。ロッサに対する感情が子供に向ける愛なのか、はたまたそうじゃないのかはわからないが、ロッサを想う気持ちは本物だろう。
親友の恋が叶うのかどうか……非常に興味深いことだが、まあそれはひとまず置いておこう。それよりも――。
俺はロッサと戯れつつ、シャッハさんに向かってニッと笑って親指を立てた。俺たち親友っすから、という意味を込めて。それに少し驚いて、けれどすぐに微笑んで小さく頭を下げたシャッハさん。周囲には分からなくとも、俺たちにはわかる言葉のない会話だった。きっと、これでシャッハさんも少しはロッサの学校での生活に安心してくれることだろう。いやいいことをしたな。うん。
……しかし。
何というかまったく話が変わってしまうんだが、こうしてロッサのことを気にするシャッハさんと俺に捕まっているロッサを見比べて、実に思うところがあるな、なんだか。時には厳しく接しながらも、心ではいつも大切に思い、気付かないところで心を配る、お姉さん系美人修道女さんだからなぁ。うーん……。
………………。
「っい、いたたた! い、いたいよクロノ! 首、首入ってる!」
はっはっは。……羨ましくなんかないぞう。全然、まったく、これっぽっちもな。
………………う、嘘じゃないんだよ? ほ、ホントなんだからねっ!
※某気弱アメフト少年
「アイシールド21」の主人公、小早川セナのこと。彼は小さい頃からパシリばかりやらされていて、そのおかげで驚異的な脚力を身につけていた。そして、その脚力をアメフトで開花させ、成功していく……。幼稚園からパシリとか、ただただ同情を禁じ得ない過去である。
※ラーメン、一楽、~ってばよ
言わずとも知れた「NARUTO」より。主人公ナルトは一楽という店のラーメンが大好物。「~ってばよ」は彼の口癖。実際にそんな奴いたら、ちょっと鬱陶しいと思う。
※男の価値とは心の中にある。今は、それでいい
エヴァより墓参りの時のゲンドウのセリフ「思い出は心の中にある。今は、それでいい」より。シンジくん、お母さんの顔も知らないんだから、それでよくはないでしょ。ツンデレもここまでくると病気である。
※何ということでしょう。匠が手掛けた。
「大改造!! 劇的ビフォーアフター」より。匠と呼ばれる建築士の手によって劇的な改装が行われた際に、ナレーションが必ず「何ということでしょう」と言うあれ。番組に出てくる匠の二つ名って、絶対に誰も呼んでないよね。
※ネコっぽいお姉さん、アイアンクロー
「To Heart2」より向坂環。主人公の家の近所に住む年上の幼馴染。曲がったことが嫌いな性格で、軟派な弟の雄二にはいつもアイアンクローで制裁を加えている。髪型も仕草も、どこかネコっぽい。
あとがき
シャッハさんが出てきましたー。
公式設定で何歳かというのは知らないので、暫定的に私の中ではクロノとロッサの三つ上。エイミィの一つ上となっています。公式ではどうなんだろ。気にしないようにしよう。
次回はクロノVSシャッハだヨ。お楽しみにネ!
才能っていいですよね うん がんばれクロノ イツカムクワレルサキット
けどクロノのレアスキルATFはいいなぁ~
男の夢を叶えてますよ
あとTHE FOOLは名作だと僕も思います
ユーファリアルートが見たいです
人間としての斉藤浩二もかっこいですが
ユーファリアのためにエターナルになってほしいなって思います
まつろわぬ日々の更新がんばってください
「ようこそいらっしゃいませ。クロノさん、エイミィさん」だと思うのですが・・・
>ダイニングでテーブルに座ってコーヒー飲んでるこの男が、憎くてたまらない……!
「ダイニングでソファーに座ってコーヒー飲んでるこの男が、憎くてたまらない……!」だと思うのですが・・・
>がくりと膝をついて俺を見て、楽しげに笑う二人。
「がくりと膝をついた俺を見て、楽しげに笑う二人。」だと思うのですが・・・
今回はほのぼのとした日常ですね。此処で登場のシャッハ。彼女が今後クロノとどんな関係を築くのか楽しみです。
そして、クロノの新しいデバイスがどんな物になるのか楽しみです。
拝読ありがとうございます~^^
クロノのATFはもう完全に趣味ですw
でも誰もが一度は夢見たはずです。あれ、俺も使ってみてぇ、と。
『THE FOOL』はホントに面白いですよね!
ついに完結してしまいましたが、私の心に残る名作です!
ぜひユーフィーとの恋愛が見たいなぁ。
>ししさん
最弱には惚れざるを得ない件について(ぇ
クロノとエイミィなのか、それとも他の誰かなのか……いつかクロノにも相手を作らなきゃなぁ
>fontさん
現在、きょう×なの執筆中です。
むしろたぶん次の更新はきょう×なのになると思いますよ。出来具合からいって^^
>俊さん
ありがとうございます。早速修正してきました!
また皆さんミスを発見したらよろしくお願いします^^;
今回はシャッハさんが登場です。今後どうなるのか、またクロノのデバイスもどうなるのか。とりあえず、次話をお待ちくださいw
>かーなさん
はい、落っこちてます^^;
尋ねてみたところ、鯖の復旧はすぐには無理ということ。
しばらくはブログで更新していきますね。
>日向直也さん
申し訳ないです。
しばらく直らないかもしれないので、できればブログのほうを見てください。
次話が出来れば更新するので……。
>フェイクさん
本当に。ついに終わっちゃったんですよねぇ……。
フェイクさんも感想書いてましたね。
私も書いてきましたw
鯖のほうは、管理人様次第ですので私も応援しております^^
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