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日々のことを徒然と。あと、絵や二次小説も掲載しています。主にリリカルなのは中心です。
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まつろわぬ日々(リリカルなのは・クロノ転生)

3-7 後編なのかー 無印編完結!






 さて、とりあえずアースラに戻って俺が真っ先にしたことと言えば、艦長への報告と謝罪だった。

 何と言っても、俺は事件の最重要人物であるプレシアをみすみす逃してしまったのだから。

 聞くと、プレシアは死亡ということで扱われるようだ。虚数空間に落ちて生還した者はこれまでにいないのだから、その判断も当然だろう。

 その報告の際、プレシアの書斎で見つけたディスクを渡し、解析を頼んでおく。今は事後処理で忙しいからそんな作業をする余裕はないだろうが、少なくとも数日中には内容が判明することだろう。

 で、次に向かったのが医務室だ。なのはもそこにいて、ユーノの手で足の怪我を治療されていた。連れ立ってきていたエイミィに頼み、俺も拳と両足を診てもらう。その間になのはにフェイトの処遇についても話しておくことにした。

 そういうわけで、エイミィに包帯を巻かれる傍ら、なのはに今フェイトたちが護送室に隔離されていることを話す。

「そんな……」

 さすがにまだなのはには衝撃が強い話だったようだ。こういう時、なのはが9歳の女の子なんだと実感する。この頃はこんなに純粋な子なのになぁ……。

「まあ、言い方は悪いけどフェイトは実行犯だからな。本人の事情がどうあれ、その扱いには慎重になるのさ」

 これは地球の警察だろうと同じだろう。ほぼ黒の重要参考人をそのまま野放しにするような治安維持組織は存在しないと思う。

 なのはは改めてフェイトがしたことを思い返しているのか、沈痛な表情を浮かべた。

「フェイトちゃん、これからどうなるのかな……」

「次元断層まで起きかねない次元犯罪だからなぁ。普通に考えれば数百年以上の幽閉ってところだろうな」

「そんなッ!」

 あまりに衝撃的な刑罰に、なのはが勢い込んで立ち上がる。しかし、足を怪我しているのを忘れていたのか、すぐに痛みに顔をしかめた。

「なのは、じっとしてないと!」

 治療していたユーノが、突然立ち上がったなのはをゆっくり座らせる。なのはは素直にそれに従って座るが、その顔つきはさっきよりも更に重いものになっていた。

 そんななのはを安心させるように、俺は何でもないように口を開いた。

「ま、そうはならないだろうがな」

「え?」

 顔を上げたなのはに、ちょうど俺の足に包帯を巻き終えたエイミィが立ち上がって答える。

「フェイトちゃんは、お母さんの願いを叶える為に頑張っただけだからね。そんな子をクロノ君が言ったような罪に問うほど、管理局は非道じゃないよ」

「もしそんなことになっても、艦長や俺が色々動き回ってやるさ。あてはあるからな。フェイトがその罪を全部背負うのは俺も納得いかんし、その辺の心配はしなくていいぞ」

 俺も母さんもハラオウン家という名家の出なので、政治的なつながりもそれなりに持っている。そこら辺と個人的な知り合いに働きかければ理不尽な裁判を正すぐらいは出来るだろう。

 まあそんなことまではなのはに言わなかったが、エイミィと俺の言葉で安心することが出来たのだろう。なのははほっとした表情を浮かべて見せた。

 そして俺の顔を見ると、にっこりと笑う。

「クロノくんって、やっぱりすごく優しいね」

 まっすぐ見つめられて言われた一言に、さすがに俺も若干照れてしまう。だって、こんな素直に褒められたことなんてほとんどないんだぜ? そりゃ照れるってなもんだろう。

 だがしかし、そんなふうに照れているだなんて悟らせたくないのが微妙な男心。ゆえに、俺はわざと眉を寄せて押し黙るという態度をとるのだった。

 いきなり気難しげな顔になった俺に、なのはが戸惑いを見せる。どうやら上手く誤魔化せたようだ。俺も胸を撫で下ろす。

「あはは、なのはちゃん。クロノ君がこうして押し黙った時はね、照れてるんだよ」

「オオオンドゥルルラギッタンディスカー!」

 まさかの伏兵。エイミィが早速バラしてくれた。

 実は照れてるんだと暴露されてしまった俺は、思わずオンドゥル語が出るほど動揺してしまう。シット!

≪ダディャーナザァン!≫

 そしてこのネタにもついてこれるまさかのイデア。何者だお前は。ってか半壊してるんだから無理するんじゃありません。

 その後、俺はすっかりいじられキャラとしてエイミィに主導権を握られてしまうこととなった。失態である。

 なのはにも何やら微笑ましい目を向けられたこの切なさ。9歳の幼女に微笑ましげに見られる俺って……。

 そんなふうに何気に凹んだ医務室でのひと時でした。















 そして、いまだ時空間が安定しないということで暫くアースラに留まることとなったなのはたちだが、それなりに楽しくやっているようである。

 時には武装隊の局員たちと話したり(ただ、その話の内容が武装隊員たちの武勇伝だったり有効だった戦術の自慢だったりするもんだから、俺としては魔王化のフラグのような気がして気が気じゃなかった)。

 医療班の女性陣と姦しくだべっていたり(その後に会った時、いきなり顔を赤くされたのには驚いた。後で知ったのだが、ユーノと俺とどっちがいいのかと問われ続けていたらしい。9歳児にコイバナとかどんだけー)。

 エイミィが話す俺の昔話をユーノと一緒に聞いていたり(思わず「何をしているだァーッ!」と叫んで乱入してうやむやにしたのは苦い思い出だ。付き合いの長い友人というのも考えものである)。

 そうそう、この事件に多大な貢献をしたということで艦長直々の表彰もあった。なのはとユーノにそれぞれ賞状が贈られ、今回の功績を皆に称えられたのだ。二人とも少々居心地悪そうにしていたが、それでも嬉しそうに笑っていたからよかったと思う。

 ちなみに壊れていたイデアだが、修復の甲斐あって何とか最低限のデバイスとしての機能は回復している。だが魔力消費が激しい魔法は使えず、加えてカートリッジ機能はおしゃか。それには本格的な修理が必要とのこと。

 まあ暫くはドンパチはなさそうなので、ゆっくりミッドチルダで直してもらおうと思う。















 そんなある日。だらしなく惰眠を貪っていたエイミィを起こして食事をするために食堂を訪れた時だ。ふと見ると、なのはとユーノ、それから母さんが何やら話しているようだった。

 トレイに乗せた食事を確保してから近寄ってみれば、話しているのはアルハザードについてらしかった。

「聞いたことがあります。『アルハザード』……旧暦以前、前世紀に存在した世界で、今はもう存在しない秘術がいくつも眠る土地だって」

 ユノペディアはさすがである。こと遺跡に関する知識ならユーノに敵う者はこの場にいない。

 母さんもユーノが言ったアルハザードの認識を肯定するように頷く。

「けど、もう滅んだって言われてる。次元断層に飲み込まれてな」

 持ってきたパンを千切りながら、俺も会話に加わる。

「そうね。けど、あらゆる魔法の究極――叶わぬ願いはないとまで言われるアルハザードの秘術。時間旅行に死者蘇生の方法。それは、彼女にはとても魅力的なものに見えたんでしょうね」

 母さんの言葉に皆が頷く。というか、ほとんどの人間はそれを知れば求めるだろう。全てが自分の意のままになる世界。大なり小なり、それを妄想しない人間はきっといない。

「彼女ほどの大魔導師があれほどまでに執着したアルハザード……。お伽話だと言われているけど、ひょっとしたら彼女は本当に見つけたのかもしれないわね。アルハザードへの道を」

 母さんはあくまでも予想という形で話すが、俺の中ではアルハザードという世界が実際にあったことは既に確定情報である。なんといっても、そのアルハザードの遺児の娘が俺の友人にいるのだ。戦闘機人だけど。説得力ありまくりである。

 そもそも解析が済んだプレシアの日記に書かれていた『ジャック・スカイライン』って奴。明らかにスカさんだろう。イニシャルまんまJSだし。プレシアの技術研究に一役買ったって書いてあったし。

 まあ、さすがにそんなことは言わないけどね。スカさんのことは管理局でも最高機密に属するような情報だ。言えばどんなことになるか。怖くて言えるわけがない。

「ごめんなさい。食事中に長話になっちゃったわね。冷めないうちに頂きましょ」

 重くなってきた空気を切り替えるように、明るい口調で母さんが食事に戻る。それを見て、皆もそれぞれ食事に口を付け始める。

 なのはたちはこれがアースラで食べる最後の食事となる。そこまでギガうまいわけではないが、ぜひとも味わって行ってほしいものだ。















 そしてついになのはたちが帰る時がきた。

 既になのはは荷物をここに来る時に持ってきたリュックに詰め込んで背負っており、ユーノはフェレットモードになってなのはの肩の上だ。高町家に魔法がバレている以上、変身する必要ないと思うんだが。

 そう言ってやると、ユーノはいきなり人間の姿で行くよりもこっちのほうが向こうの皆は慣れてるんじゃないかと思って、と答える。ユーノなりの気遣いだったようだ。

 二人の見送りには、俺と母さんとエイミィが訪れている。あまり大人数で仰々しくなるのは、なのはも俺たちも望まなかったからだ。

「それじゃ、今回は本当にありがとう」

 母さんのお礼の言葉になのはは笑顔を返し、互いに手を差し出して握手をかわす。

「色々あったけど助かったよ。あと、フェイトについては処遇が決まったら連絡するから安心しろ」

「うん……」

 フェイトのことを出されると、やはり心残りなのかなのはの表情に陰がよぎる。

 俺はなのはのユーノが乗っていない方の肩を軽く叩き、安心させるように言葉を続ける。

「心配するな。悪いようにはしないさ」

≪マスターはこういう時に嘘は言いませんから、大丈夫ですよ≫

 更にイデアまでがそう言えば、不安じゃないと言えば嘘だろうが、それでもなのははやっと笑顔を見せた。

「うん……ありがとう。クロノくん、イデア」

 最後に俺もなのはと握手をかわし、母さんがユーノに帰りたくなったらアースラのゲートを使用してもいいという話を伝えると、いよいよすることがなくなり、あとはなのはたちが帰るだけとなる。

「じゃあ、そろそろいいかな」

 そのタイミングを見計らって、エイミィが声をかける。それに俺達は頷き、俺と母さんはなのはの傍から一歩下がる。

「またね、クロノくん、エイミィさん、リンディさん」

 なのはと肩の上のユーノも手を振り、俺達もなのはたちに手を振り返す。最後まで笑顔のまま、なのはたちは地球へと帰っていったのだった。




















 で、なのはたちが帰ってからが大変だった。

 まずはエイミィと俺が作ったこの事件の報告書と、それを読んだ上での母さんの上層部への報告。それらが済んだら、証拠物品や映像・音声、参考人の証言などを吟味した上での事実調査の開始。そして事件が実際に起こった事実だという確認がとれれば、今度はさらに詳しい経緯を参考人と当事者である俺たちが話し、それらの情報全てを揃えて更に云々。

 とまあ色々と時間がかかる手続きやら何やらを済ませたところで、ようやく裁判が始まるところまで辿り着いた。

 しかしそうなるとフェイトたちの身柄は本局へと一時預けなければならない。もちろん俺達はそれについていくのだが、なのはたちはそうはいかない。というわけで、裁判までの時間になのはとフェイトが会えるように母さんが取り計らった。

 それを聞いた時のフェイトの嬉しそうな顔ったらなかったね。同時に不安そうな空気も醸し出してたけど。

 けど、なのはなら上手くやるだろう。あれだけ純粋かつ真っ直ぐなのはもはや才能だ。原作と同じようにフェイトのいい友達になってくれるに違いない。

 なんとなく俺の視点がフェイトの保護者的位置になっているが、気にしないでほしい。それもこれも母さんがフェイトを家族として迎え入れるのをどう思うかと聞いてくるからだ。


 ……まあ、俺も母さんもフェイトが俺達の家族になってくれるとは思ってないけどな。


 プレシアの日記を見た今だから、そう言える。フェイトもこれを知れば、俺たちの家族になろうとは思わないだろう。いや、家族になることは嫌がらないだろうが、それでもハラオウン家に入ることはないと思う。

 プレシアの日記はまだフェイトには見せていない。それはここのところずっと忙しかったからでもあるし、まだフェイトがどこか危ういように思えたからだ。そこにこの日記を見せるのは若干の懸念があった。

 だから、なのはと本当に友達となった後。その後に見せようと思っている。なのはという絶対の友達が出来た時なら、フェイトは安易にこの日記に縋ることはないと思えるからだ。

 なのはとの出会いは、フェイトにとってそれだけの価値があるように思う。だから、この日記を見せるのは、その時だ。フェイトにとって、この日記の存在がプラスに働くことを願いたい。

 なのはに連絡を取り、裁判まで時間があるので明日フェイトと会えることを伝える。返ってきた答えは、当然ながらイエス。こうして、明日になのはとフェイトが会う段取りが出来たのだった。




















 約束の時間。海鳴公園にアルフとフェイトを連れてやって来ると、近くに見える橋の上まで行く。そして、そこに人払いの簡単な結界を作っておく。二人の再会を無粋な闖入者で邪魔しないためだ。

 そうしてしばらく待っていると、茶色いツインテールを揺らしながら走って来る人影が見えた。向こうからもこっちが見えたのだろう。少しだけスピードが上がった気がする。

「フェイトちゃーん!」

 走りながら声を張り上げて大きく手を振る姿からは、隠しきれない喜びの感情が窺える。しかし、その肩に乗っているユーノは振り落とされないように必死でしがみついて、ユーノには喜びを感じる余裕はないようだった。

 対してフェイトもなのはの姿が見えると、その表情をほころばせて笑みを浮かべた。その様子を見て、俺はアルフに目で合図を送る。アルフはわかっているとばかりに首肯を返した。

 やがてなのはがフェイトの前まで辿り着くと、なのはは乱れた息を整えようとしばしその場で深呼吸を繰り返す。その間にユーノがなのはの肩から降りてアルフの肩へと移る。どうやらユーノのほうも考えていることは同じだったらしい。

 なのはの呼吸がだいぶ整った時を見計らって、俺は二人に声をかけた。

「それじゃ、俺たちはあっちにいるから、二人でしばらく話すといい。時間はあんまりないけどな」

 言いつつ、アルフを促して少し離れた位置にあるベンチへ向かう。

「……ありがとう」

「ありがとう、クロノくん」

 フェイトとなのはの二人に感謝され、どうにも居心地の悪い思いになる。何と言えばいいのか、こうもはっきりと気持ちを向けられると照れくさいものである。

 照れ隠しに背を向けて手だけを振って返事としておく。そのまま振り返らずにベンチをひたすら目指す。<マスターもちょっとしたツンデレですね>なんて言ってきた存在のことは徹底的に無視しておいた。

 少し遅れてアルフたちもやって来る。俺はベンチに座り、アルフはその横に座り、ユーノはそのアルフの肩に乗り、ぎこちなく交流を始めた二人の少女を見守った。

 見ていると、さすがにここまで声は聞こえてこないが、二人は上手く話しているようだ。橋の欄干に体重をかけながら、海を見ているのだろうか。ここまで二人を包む温かい空気が伝わってきそうなほど、穏やかな雰囲気が周囲を満たしていた。

 俺たちもなぜかあまり会話という会話は出てこなかった。ひょっとすると、この場の空気を壊してしまうことが惜しかったのかもしれない。それほど、この場はとても居心地のいい空間だった。

 ふと見ると、なのはがフェイトに近づき、二人は固く抱擁を交わしていた。そのシーンを見て、ふと思い出した言葉がある。

「“なまえをよんで”、か……」

「え?」

 呟いた俺の言葉に、アルフとユーノが反応する。アルフは微笑むフェイトの姿を見て、既に涙目になっていた。

 俺はいや、と少しだけ前置きをしてから、言葉をつづけた。

「今、なのはが言ってたのが聞こえてきてな。友達になるのはすごく簡単で、なまえをよんだらいいんだとさ」

 名言だと思う。9歳児だからと馬鹿にしたらいけない。子供だからこそ、周りの余計なフィルターを取り外して物事を見れる時もある。

 単純だが、だからこそ真っすぐである。なのはが言った言葉は、いい言葉だと俺は思う。

 アルフもユーノもそう思ったのだろう。感じ入るように二人の姿を見つめ、アルフなんかは今までにないほど幸せそうに笑うフェイトを見て、ついに堪え切れずに泣き出してしまった。

「本当に、あの子……なのははさぁ、いい子、だよねぇっ」

 泣きだしたアルフの頬にユーノが小さな手を置いて慰める。俺もハンカチを取り出して渡すと、アルフは早速それで涙を拭いて鼻をかんだ。……おい。

 アルフの暴挙に見舞われたハンカチのことは仕方がないので忘れることにして、俺は二人へと視線を移す。

 すると、何故か二人はこっちを見て手招いていた。

 なんだ? 一応、俺かと自分を指さしてみれば、こくこくとなのはが頷く。何だというのだろうか。

 時間を見れば、まだ少し余裕がある。本当なら二人だけでぎりぎりまで過ごさせてやりたかったんだが、呼ばれているなら仕方がない。

 俺はベンチから立ち上がると、二人の元へ歩いていった。

「どうした? 時間はまだもう少しあるぞ」

 とりあえず時間が気になったのかと思って言ってみるが、フェイトはぶんぶん首を横に振ってそうじゃないことを示す。

 だとしたら何なんだろうか。首をかしげていると、フェイトがずいっと俺の方に近寄ってきた。思わず身体を引きそうになってしまった俺だが、何やらフェイトの顔が真剣そのものであったので、何とかその場に踏みとどまることに成功した。

 そして何を言うつもりなのかとフェイトの口が開かれるのを待つ。そして、緊張のせいか若干頬が赤いフェイトが、ようやく言葉を発する。

「お……お礼が、言いたくてっ!」

「………………お礼?」

 なぜ、いきなりお礼?

 俺が困惑を隠せずにいると、横からなのはのフォローが入る。

「にゃはは。ほら、フェイトちゃんが倒れちゃった時、クロノくんフェイトちゃんに声をかけてあげてたでしょ? それが、凄く嬉しかったんだって」

 なのはの言葉に頷き、フェイトはようやく落ち着いてきたのか少し離れた。

「そ、その……ずっと言おうと思ってたんだけど、ここのところ忙しくて時間もなくて……。それに、一人でっていうのは心細かったから。だから、この機会にって思って」

 ……なるほど。

 つまり、あの時俺が言葉をかけたことがそんなにフェイトにとっては嬉しかったと。だからお礼がしたかったというわけか。

 嬉しい、ことは嬉しいんだが……。あれ、俺の台詞っていうか、某兄貴の台詞だからなぁ。感謝されても微妙だ。嬉しいと言えばそりゃ嬉しいが。

 イデアはそれをその時に言ったってことが大事だって言ってたけど、もとが俺のものじゃないだけに、素直に受け取っていいものか迷ってしまう。

「私のことを、みんなは信じてくれているんだって、思えたから。それに応えようって思えたから。だから……」

 けれど、俺のそんな内心など知る由もないフェイトは、ただ己の思いをそのまま言葉に変える。

「ありがとう、クロノ」

 にっこり笑って言われた。

 ――…………あー……、まあ、いいか。

 俺がどう思ってどう感じようと、それを言われたフェイトがこんなに喜んで、笑ってくれているんだ。なら、もうそれでいいか。

 俺がどう思ってるかなんて、それこそフェイトがどう思っているかには関係ないわけだし。フェイトが、俺がそれを言ったことで笑っている。なら、まあ、それでいい、かな。

「あー、うん。どういたしまして?」

 とりあえず無難に返しておく。最後が疑問形になったのは許してほしい。あんまり感謝の言葉に返事を返すなんて慣れてないのだ。

 その曖昧な返事を聞いて、なのはとフェイトが笑う。馬鹿にしたようなものではなく、もっと温かみのあるものだ。それにつられて、俺もやれやれとばかりに笑いだす。何が可笑しいというわけでもないが、今こうして一緒に笑いあえるということ。それは、結構大事なことなんじゃないかと思えた。

 そうしてひとしきり笑いあった後、時計を見ればそろそろ時間が迫ってきていることに気づく。アルフとユーノを念話で呼びつけ、なのはとフェイトの二人にも時間がないことを伝えた。

 これで暫く会えなくなる。

 そのことを実感したのか、二人の目には光るものが見えた。

「そうだ!」

 突然なのはが大声を上げる。それに驚く俺たちを尻目に、なのはは自分の髪を結っているリボンを外し、フェイトにそれを見せる。

「思い出に出来るもの、これぐらいしかないけど……」

 照れ笑いと共に差し出されたリボンに、なのはが言いたいことをフェイトも悟る。

 フェイトも同じように髪を縛っているリボンを解くと、それをなのはのほうに差し出した。

「……会いたくなったら、名前を呼ぶね。きっと、それだけで大丈夫だと思える。もし、今度なのはが――みんなが危ない時は、私が助けに行くから……」

 そう言って、フェイトは差し出されたなのはのリボンに手を添える。

「うん、うんっ。わたしも、呼ぶよ。フェイトちゃんの名前を。そしたら、絶対にまた会えるから」

 なのははそう答え、フェイトのリボンに手を添える。

 そして同時に二人はお互いのリボンを交換し、そのまま一歩ずつ下がる。

 その儀式を見守っていた俺達も、フェイトの傍に集まって魔法陣の効果範囲に入るようにする。アルフの肩に乗っていたユーノは、既になのはの肩に移っていた。

「時間だ」

 時計を見ながら俺が言った瞬間、足元に転移魔法陣が描かれる。魔法陣の中は無色の光に包まれ、その外にいるなのはとの間を隔絶する。それでも、なのはとフェイトは目を逸らすことなくお互いを見つめていた。

 しかし、二人とも見つめ合うだけで何もする様子がない。こういう時にすることは決まっているものだ。そして、決まっているということは、昔からそうすれば気持ちよく別れられるということである。

 とん、とフェイトを肘でつつく。驚いてこっちを見るフェイトだが、俺が目でなのはを示す。何なのかとわずかに首を傾げたフェイトだが、すぐに何が言いたいのかを察してくれたらしい。

 はっとしたフェイトは小さく手を上げると、それを横に振った。

 それを見たなのはもフェイトに応えるように大きく手を振り、フェイトとの別れを惜しむ。

 いや、ちゃんと俺とアルフにも顔を向けるところを見ると、あれは俺たち全員に対して手を振ってくれているようだ。その律儀さに笑みさえ浮かぶ。

 しかし次第に大きくなっていく光は、少しずつなのはの姿を見えなくさせていった。そしてそれが完全に見えなくなった時。


 ――次に俺たちの目に映ったのは、アースラの艦内の転送室の中だった。


 振っていた手を、どこか寂しそうにフェイトは下ろす。

 なのはと暫く会えなくなることは、ようやく友達になれたフェイトには辛く寂しいことだ。また、なのはも同じように感じるに違いない。

 けれど、この二人ならば大丈夫だろうと思える。フェイトもなのはも、それに耐えられないほど弱い子ではないし、二人の絆はそれほどヤワなものではないからだ。

 二人は今はお互いにやるべきことがあるから別れただけだ。それが終わればすぐに会える。それがわかっているなら、きっと大丈夫だ。

 そう、なのはが自らの日常へと帰っていったように。フェイトにはフェイトの、進むべき道がある。


「いこうか、フェイト」


 肩を叩いてそう促す。

 すると、フェイトは振り返って笑みを見せた。


「うん」


 明るい笑顔でフェイトは歩きだす。なのはが自分の世界で頑張っているように、彼女も自分の世界で頑張るために。

 そうして、これまでとは違う、彼女自身の生活がこれから始まっていくのだ。










第三部・無印編完結  続

==========
あとがき

 やったー! やっと無印編が終わったぜぇえ―――ッ! つーか、疲れた……orz

 いやぁ、長かったなぁ。そもそも原作に入るまでが長かった。入ってからも長かったけど。
 ちなみに私、Wordを使って書いているんですが、今の時点で「文字数:30万オーバー、ページ数:300ページオーバー、サイズ:915KB」と、結構な量になっています。
 うーん、時間使ってるなーと実感しますね。

 てゆーか、まさかの二回に分けての投稿。文字数制限に引っ掛かるとか、ビックリしました。
 Novelのほうに上げる時は、まとめて上げますから、その時にまた読んでみてやってください。

 さて、プレシアの日記はまた次回ということにしておいて、またしばらく幕間か何かを書いたら次はA's編です。
 無印は途中参加という事情により完全原作準拠でしたが、A'sではちょっとは違った展開を作りたいなーと思っています。
 思うだけにならないか自分でも心配です。
 まあ、出来るようならということで……(ぇ

 というわけで、めでたく無印編完結です。
 これからも「まつろわ」ともどもよろしくお願いします。
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Comment
オメデトウゴザイマス
一番貰ったぁぁぁあ!!

というわけで無印完結おめでとう御座います。

A'sも楽しみにしていますが無理はなさらないように~。
B,S. 2009/02/17(Tue)03:16:06 編集
スッキリシター!
無印編完結おめでとうございます。
最近ペース速かったですね、お疲れ様です。
今後もめっちゃ楽しみに待ってます

フラグがたったように感じるのは私の気のせい?ww
asuka_sf 2009/02/17(Tue)06:37:29 編集
お疲れ様です
無印完結おめでとうございます。

なんかホントにフェイトフラグがまた一つ立ったみたいですね。次回は幕間と言うかプレシアの日記をフェイトとアルフに見せるんでしょうけど、一体何が書かれてるのか楽しみです。

クロノは時々海鳴に来て高町家で体術を習ってそうですけどね。
2009/02/17(Tue)14:09:23 編集
無題
無印編完結おめでとうございます。

そして次はA'sですか。フフッ期待してます。

プレシアの日記やっぱりフェイトの育児記録ですよね。

自分の中では彼女はかなりのツンデレですので。


さて、そろそろチンクの出番が・・・
レネス 2009/02/18(Wed)01:39:54 編集
日記というと
まずは無印編完結おめでとうございます。
ごくごく希に感想を書いていた者です。

次回以降への引き・伏線も残しつつ、綺麗に纏まっていて、やはり楽しかったです。いやあ、読んで良かった。



ところで、プレシアの日記というと、理想郷の某ロリコンを……

おや? 誰か来たようだ……
きゃゆ 2009/02/18(Wed)21:04:26 編集
RES
>B,S.さん
一番の感想ありがとうございます。
いやー、ようやく無印が終わりました。気づけば三十話になろうという話数ですよ。
A'sは少しずつ書いていこうと思います。楽しみにしていただければ幸いです^^

>asuka_sfさん
ありがとうございます。
もう一気に書いて、キリがいいところまでいっちゃおうと思いまして^^
とりあえずちゃんと終われてよかったです。
フラグが立ったのは気のせいですよ、たぶん。話の関係上ああなっただけ…です。たぶん……^^;

>俊さん
ありがとうございます。
なんだか気づけばここまで書いてたって感じですね。キリがいいところまで書けてよかったです。
フェイトフラグは……気にせず書いていたんですが、改めて読むと確かにそれっぽいw
プレシアの日記についてはお楽しみに!
クロノについては、さすがに本局にいるので高町家にはなかなか行けないかと思います。色々忙しいですからね。

>レネスさん
ありがとうございます。
A's編も頑張ってやっていこうと思っています。
プレシアの日記の中身については……ヒントは都築さんのブログの返答、ですかね。
それを見てプレシアの日記思いつきましたから。
チンクの出番……私も最近書きたくなってきました。

>きゅゆさん
ありがとうございます。感想嬉しいです^^
読んで良かったなんて…! そう言ってもらえると凄く嬉しいです。ありがとうございます!
プレシアの日記……確かにロリコンにもありましたね。
でも、違いますよ~。あんな親馬鹿日記というわけでは……
ん? なんだか雷雲が家の真上に(ピチューン
雪乃こう 2009/02/18(Wed)21:47:59 編集
無題
無印編完結おめでとうございます。

クロノの半生における心の動きとそれによって積み重ねられ、成長していった彼自身のあり方は、非常にカッコよかったです。

少し残念なことが、その前の話で彼の心の動きをもう少し踏み込んでくれるとより感情移入できたのにと思いました。
なんというか失敗や反省、それに基づく成長を話の外でやられているようで少し主人公の心境の変化などについていけなくなるときがるので。

そして無印とA'sの間でどのようなイベントがあるのか楽しみです。
一応、高町家と縁があるので高町家と組み手をするのもあり、他の女の子とフラグを立てるのもありで本当どんな話が展開するか楽しみです。
特にはやて達に関する仕込みや伏線をどう敷くのかが。
ゼノン 2009/02/19(Thu)20:15:25 編集
RES
>ゼノンさん
ありがとうございます。
ようやく無印も終わりました。これで少しは楽になるかな……。
あと、クロノの成長が話の外で~という話ですが、まさにその通りで、過去のクロノの話は外伝という形で公開する予定です。
ただ……内容が本編に比べて暗い感じっぽいので、あんまり筆が進んでいなかったり^^;
その間に本編のほうが追い越しちゃった感じですね。すみません。
公開したら読んで見てもらえればと思います。
さて、無印とA'sの間ですが、そこまで話数を重ねる気はありません。ただ、色々できたらいいなぁとは思っています。
それも含めてこれからを待っていただければと思います^^
雪乃こう 2009/02/20(Fri)15:44:54 編集
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