3-1
4月27日――。
朝、目を覚ます。自分の体温で温められた布団から出て、地面に足を下ろすと、俺は早速顔を洗い、歯を磨き、といった具合に身支度を整えていく。
最後に着替えも済ませると、俺は自身のデバイスであるイデアフィネスに手を伸ばした。
≪おはようございます、マスター≫
「おはよう、イデア」
朝の挨拶をかわし、イデアの核である宝石部分を手に握る。青く光る宝石が室内の光を反射し、きらりと瞬いた。
「セットアップ」
告げられた言葉によって、新たな衣服が構成されていく。
原作のクロノが着ていたバリアジャケットの上着はほぼそのままに、肩には刺ではなくプロテクター。下のズボンは白一色。そして両脚には、爪先から膝まで届く銀色に輝く金属製のブーツ。
両腕にはイデアの本体が構成される。純白のガントレット。肘までを覆うそれは俺の腕を二まわりはするほど。指一本一本と拳には金属板がつけられている。さらに拳の両隣には筒状の突起がある。まあ、ここからあれが飛びだす仕組みなわけだ。
インテリジェントデバイス・イデアフィネス。もはや形状や機能としてはアームドデバイスに近いそれは、もちろんカートリッジシステムも搭載している。
まあ、カートリッジシステムはまだ管理局ではマイナーなものであり、調整が難しく、デバイスや使用者にも負担がかかるため、よほどのことがない限り使うなと言われている。
つまりほとんど使う機会はないわけだが、A’sに入ったら思う存分使いたいと思う。
バリアジャケットも展開し終え、準備は終えた。俺は、ぐっと拳を握り込む。
≪マスター≫
「ん?」
≪今日ですね≫
「ああ」
そう、今日から始まるのだ。俺の記憶の中の、この世界で言う未来とやらが。
やはり、緊張する。この時までくるのに、十四年。思えば長い道のりだった。
最初は原作を変えることにおびえたり、自分がクロノであることに悩んだりもした。それでも自分を鍛え、ここでまできた。思いもひとしおである。
≪マスターが話してくれた未来、楽しみにしています≫
「ああ。ま、これから退屈しなくなるのは間違いないと思うぞ。良くも悪くも、な」
≪良くなるのかどうかは、ある意味でマスター次第です。頑張ってくださいね≫
「おいコラお前も頑張れ。……まあ、俺としても避けられないところだし。頑張らないとな」
どこか淡白な相棒に苦笑しつつ、俺は自分の意思を自らに浸透させるかのように拳を軽く何度か握る。
原作という未来の知識はいまだに俺の中にあるが、そもそも俺が原作のクロノであることをやめた時点で、この人生は俺のものであり、今を生きるのは俺の権利だ。
だからこそ原作をなぞるなんて真似はしない。俺は俺のやりたいように。これまでもそうしてきたし、これからもそうしていく。
と、いうわけで。まずは今日という日をしっかり過ごさなきゃならん。
「じゃ、いくか」
≪はい、マスター≫
決意を新たにし、俺は自室から外へ出る。
さて、まずは腹ごしらえである。朝食を食べるために食堂へ向かう。
ちなみに展開したバリアジャケットとイデアはスリープモードのようにして消してある。スリープモードは一旦デバイスを起動させてから一時的にそれらの姿を隠すものであり、デバイスを必要とした時に一瞬で再びそれらが構成されるという機能である。
いつ出動が言い渡されるか分からない時には、大抵この機能を使って過ごしている。さすがに展開したままだと邪魔だったりするから。
「さーて、メシだメシだー」
確かなのはたちがぶつかるのって夕方だったはずだから、それまでは確実に時間があるだろう。他の人らはそれを知らないから、即座に対応できるようにいろいろと大変そうだが。
俺もそれまでの時間をどう潰すか。一応執務官としての仕事はもう終わらせてあるので、今日はそのなのはらを止める用事以外は特に何も予定はない。
かといって、アースラの艦内ではやることも限られてくる。
食堂に向かいながら唸り、考えるが、大していい考えは浮かんでこなかった。
「……しゃーない。艦橋でエイミィでも手伝うか」
≪エイミィさんは喜ぶと思いますよ≫
まあ、確かにそうだろうね。あいつはどうにも俺の世話を焼きたがるし。
お姉さんを自称する親友の姿を思い、俺は微苦笑を浮かべながら廊下を歩くのだった。
さて、そうして夕方。
次元間航行船アースラのブリッジにてエイミィらの仕事を手伝いつつ時間は過ぎ、現在俺は万感の思いを以てここにいた。
モニターに見えるのは青く美しい星。こことは別の地球ではあるが、俺が生まれ、生きたところだ。もう既に今はミッドチルダに籍を置く、別の人間だ。しかし、湧き上がる郷愁の念を無視することはできなかった。
自然と唇が震えて、言葉を紡ぐ。
「地球か……、何もかも皆懐かしい……」
「あれ、クロノくん97管理外世界に来たことあったっけ?」
「イスカンダルの向こうから帰ってきたんだな……」
(…………。なんだ、またいつもの病気かぁ)
懐かしき故郷を見たことと共に、まさかあの名台詞を言える時が来るとは……生きていてよかった。今度はぜひアルカンシェルを撃つ時に「エネルギー充填120%!」と言ってみたい。
かの名作の再現に感極まっている俺は、隣の通信席に座るエイミィが非常に失礼なことを考えていたことなんて全く気づきもしないのだった。
「地上の様子、モニターに出ます」
アレックス君の言葉が届き、艦長含め全員がメインモニターに注目する。
パッと映し出されたそれは、なのはとフェイトが巨大な大木の姿をした化け物に戦いを挑んでいる姿であった。
解析班とエイミィが協力して二人の魔力資質やら現地の地形、地質、様々な情報を分析し始める。そうしていること一分。解析班から上げられた情報は、なんとも凄いものだった。
二人とも魔力値がバカ高い。今の俺と同じぐらいとか、どういうことだよ。俺と五歳も違うのに。しかも相手の人面樹もどきのランクはA+。9歳時点で普通は圧倒できるような奴じゃない。
「ぅゎょぅι゛ょっょぃ」
なんか人面樹を相手している二人を見ながら、俺は心底そう思う。
だってあのジュエルシードに憑依された人面樹の奴、ナリもデカい上にランクで言うともう一度言うがA+だぜ? 今の俺なら楽勝だが、9歳当時の俺ならやられはしないが苦戦は必至だ。
それを二人がかりとはいえ一方的にフルボッコにしてるんだからなぁ。魔力以外でも、大きいってのはそれだけで耐久力や攻撃力に影響するってのに、あのチビっ子たちはものともしない。さすがはAAAランクかつ、将来のストライカーってところか。
「二人ともどれぐらいだろ? AA+?」
「いや、AAAいくだろ。俺と同じ」
「うわ、すごい子たちだねー」
まったくもってその通りだと俺も思う。俺はDから九年もかけてAAAになったというのに、あの二人は最初からAAAですか。そうですか。
本当に才能って奴は不平等だよなぁと実感する。しかもあの二人、努力する天才である。もう始末のつけようがない。
きっとA’s編が終わってしばらくすれば、俺を抜かすだろう。今はまだ負けるつもりはない。戦えば勝つ。たぶん、おそらく。……自信を持っていえないのが悲しい。
俺も本格的に鍛えなきゃならんなぁ。
二人の姿を見て、これまで以上に気張らなければならないと思う俺なのだった。
「次元干渉型の禁忌物品……回収を急がないといけないわね」
内心で悶々としつつモニターを見ている俺の後ろ。壇上に設置された艦長席から声が降る。俺は来たか、と思いながら振り返った。
席から立ち上がった母さんは、凛々しく力がこもった瞳はそのままに俺を見下ろしている。
「クロノ・ハラオウン執務官。出られる?」
「はい。言ってもらえればすぐにでも」
母さんは俺の言葉に頷いた。
「それじゃクロノ? これより現地での戦闘行動の停止とロストロギアの回収、両名からの事情聴取を」
「了解です、艦長!」
ついに出動命令が下った。
俺は逸る心を抑えながら、返事を返してテレポーターまで向かう。後ろから頑張ってね、と声をかけるエイミィにはひらひらと手だけ振っておく。
素早く移動し、ちょうど艦長席の後ろに当たる位置にあるテレポーターの上に乗る。振り返れば、自然母さんと向き合う形になる。母さんは厳しい表情を崩し、にこりと笑った。
「気をつけてね~」
わざわざハンカチまで取り出して、それを軽く振る。そのユーモアに苦笑しつつ、俺も仕事モードを崩して素で応える。
「まあ、適当にやってくるんで、あとはよろしく」
「はいはい」
しょうがない子ねぇ、と言わんばかりの生温かい笑顔を向けられた。どうにも精神が肉体に引っ張られているのか、そんな目を向けられても本当は大人なのに、という反発心は湧いてこない。
どちらかと言えば、心配してもらっていることが嬉しかったら気恥ずかしかったり、という感じである。まあ、俺としてももう自分は母さんの子供という意識しかないから、これが自然なんだろう。
母さんの笑顔を見ながら、俺もまた小さく笑う。
さあ、これからついに原作に介入だ。とはいっても、俺は俺の思うようにやる。それがどんな未来を作ろうと、思った通りにやる。
それこそが、俺に出来ることなのだから。
転移魔法の光に包まれる。身体が艦橋から消える瞬間、俺は決意と共に呟いた。
「ジャンプ」
■
目の前に広がる艦橋が消え去り、次に目に飛び込んできたのは夕日が映える緑の公園。その空中で、互いのデバイスを振りかぶる二人の少女の姿だった。
ていうか、アームドデバイスじゃないんだから、打ち合うなよと言いたい。インテリは結構繊細だから、自己修復するにも限度があるんだぞ? レイハさんとかこの調子で酷使し続けたら壊れるんじゃないだろうか。原作でも一回ぶっ壊れてるし。
まあ、それは置いておいて。この場は早々に二人を収めることか。
一瞬で飛び出し、二人の中間点へ移動する。そして振り下ろされる両者のデバイスを左右の拳でしっかり受け止める。
拳の金属プレートがレイハさんとバルディッシュにぶつかり、高い金属音を鳴らす。そして、俺は突然の闖入者と事態に驚愕の表情を浮かべる二人の顔を見やった。
「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。二人とも、とりあえず武器を収めろ。ロストロギアの真ん前でバトるとかなに考えてんだ」
魔力貯蔵型のロストロギアの前で魔法ぶつけあったら、死亡フラグだろjk。ていうか、一回それで次元震起こしかけてんだから自重してもらいたいもんである。
そんなことを考えていると、両拳にかかる負担が減り、二人がデバイスにかけていた力を緩めたことが伝わる。
俺は体勢はそのままに、視線を下に向けた。
「オーケー、そのまま。とりあえず下に降りるぞ」
両者のデバイスを受け止めた状態のまま、ゆっくりと三人で下降していく。ちらりとフェイトの顔を盗み見るが、まだ逃げる気はないようだ。まあ、アルフからの攻撃が発端だったしな。
アルフの位置を確認しつつ、地面に降り立つ。ちなみになのはのほうは頭に疑問符が浮かんでいる状態だった。管理局という存在を知らないせいだろう。
だがしかし、それにしてもこの幼女ら、美少女である。
いきなりなんだと思うかもしれないが、本当にそうなんだもん。
無茶苦茶顔が整ってる。母さんやリーゼらにエイミィやシスターなどなど、どうも原作キャラは本当に美人率が高い。さすがに9歳に欲情するようなことはないが、14歳の俺としては非常に嬉しいような困ったようなって感じである。
おっと話が逸れまくった。とりあえずリリカルな不可思議は置いておこう。
こほん、とひとつ咳払い。
「……さて。とりあえず、事情を聞かせてもらうぞ。あのロストロギアを巡っての争いってのはわかってるんだが、――!」
言葉の途中で飛来してくる魔力弾。方角と魔力光からしてアルフからのものに間違いない。
四五発こちらに打ち込まれたそれに対して、しかし俺は何もせずにただ立ち塞がる。そうしてオレンジ色の魔力光で染め上げられたそれらが俺に接触した瞬間――、
それらは、すべてかき消えた。
「なっ!?」
信じられないとばかりに声をあげるアルフと、今見た光景に目を見張るなのはとフェイト。まあ、普通に考えれば驚くのは当然だと思う。
ただバリアジャケットに魔力遮断の効果を加えただけなんだけどね。
実は、バリアジャケットが展開されると自動的にジャケットをコーティングするようにシステムが組み込んであるのだ。
自動的ゆえに、ある程度の魔法ランクにいくと打ち消せなくなるとか、一度貫かれるともう一度効果をつけ直さなければいけないという欠点はあるが、それを補って余りある利点がある。不意打ちに対する最低限の対処として、任務でも随分と助けてもらっていた。
ちなみに、おおよそCランクまでの魔法ならほぼ打ち消せる。魔法自体がCでも、魔力を多めに込めれば貫かれるのだが、わざわざそんな無駄な魔力の使い方をする奴なんていないし、不意打ち対策としては十分だろう。
それなんてセイバー? とあまりの耐魔力にそう思わなくもなかった俺である。
と、そういうわけで。
「そこな犬! 公務執行妨害ということで、ファイナルアンサー?」
「あたしは狼だ!」
のってはくれなかった。残念。
代わりになのはが何か言いたそうにしているのは、毎週見ているからだろうか。ギネス級な司会者さんは幼女にも人気があるらしい。
まあ地球で人気のクイズ番組は置いといて。
とりあえず、フェイトらはここで確保しないといけない。こちらで保護してしまえば、プレシアはもう手駒となる存在がいなくなり、自分が出張るしかなくなるだろう。それはつまり、病気の身体に無理を打つ必要があるということで、向こうの戦力の大きな減衰に繋がる。
と、自分を納得させる。
いや、もし俺としてはフェイトに逃げてほしいと思っていたとしても、逃がすわけにはいかないんですよ。
執務官っていう役職に就いてるからねー俺。わざと逃がすなんてことは出来ないわけです。
ま、フェイトを捕まえるのは出来たらということで。もしうまく逃げおおせるようなら、それでも全然構わない。そもそもここでフェイト確保しちゃうと、プレシア側の戦力の減衰以前に無茶な手を使って来そうで怖い。
裏にいるのが大魔導師とまで呼ばれた女傑とは知らない母さん達は確保しろと言うが、知っている俺としてはある意味捕まえるなんてトンデモねぇってな感じである。
しかし、確保には全力を尽くさなければいけない悲しい立場の俺。まあいいけどね、どっちだろうと。たぶんどっちでも何とかなるでしょ。
半ばグダグダに覚悟を決めた頃。そうこうしている間にアルフがフェイトに合流しようとしていた。たぶん俺に魔法が効かなかったことから、戦力の分散は危険という判断だろう。
なるほどいい判断だ。しかし、申し訳ないが妨害させてもらおう。
「――イデア!」
≪Accel mode,on≫
俺の声にイデアがすぐさま返事代わりにシステムを起こす。さすがは俺の相棒。わかってらっしゃる。
両足の金属ブーツを魔力が覆う。俺は膝を曲げて力をため、キーワードを口にする。
「Go!」
≪Fire.≫
ドンッ、と地面を蹴ったその瞬間、俺の目の前にはアルフの姿がある。
形としては、合流しようとしていたアルフとフェイトの間に俺が割りこんだ形になる。まさかこんな超高速機動が出来るとは思っていなかったのか、アルフは急制動をかけて空中に留まらざるをえない。
ちなみにこれ、ぶっちゃけ某子供先生の漫画に出てくる瞬動というやつのパクリである。しかも直線移動しかできないという欠点つき。今の状況では複雑な動きはいらないので、見事に決まってくれたが。
間に俺という存在が入り込んだせいでフェイトと合流できず、臍を噛み焦れた様子のアルフ。しかし、ぼそりと何事かを詠唱すると、アルフの姿が消えた。まさかと思って下を見ると、フェイトのそばにその姿がある。
短距離転送か。俺はアルフが取った手段をそう理解する。
だがしかし、まだ終わらんよ!
「なっ!」
「く……」
もう一度アクセルを使用。今度は地面に降り立ち、二人の前に立つ。
驚きと悔しさに満ちた顔をする二人に、俺は口角を上げてにやりと笑った。
「知らなかったのか? 執務官からは逃げられない……!」
目の前の二人の状況を表すとするなら、しかしまわりこまれてしまった! というところか。ボス戦とはどれだけ理不尽だろうとそんなもんである。たとえパーティー編成をミスっていても、やり直しは効かないのだ。
悲しいけど、これ現実なのよね。
「と、いうわけで大人しく投降してくれないか? さすがに女の子に手を上げるのは寝覚めが悪いし、そっちは怪我しなくていいし……ダメ?」
「そんなこと言って……あたしらをどうするつもりだい!」
どうって言われても普通に、
「まあ……とりあえずは事情を聴くだけってところ。俺としては、本当に手荒なことはしたくないんだ。たぶん、何か理由があったりするんだろうし」
俺がそう言えば、フェイトは困惑気に、アルフは鋭い視線を揺るがせることなく俺を見る。まあ、ここで素直に従うとは思っていない。恐らくは抵抗するだろう。
だが、俺も管理局の執務官という人間だ。見逃すわけにもいかないので、やはり捕まえさせてもらう。ある意味ではこの時点でフェイトらをこちらに迎えたほうが、やりやすくはなるのだし。
さあ、どうする。
俺が拳を握り込んで威圧すると、アルフはフェイトを抱えて跳躍した。ジュエルシードには目もくれない。そこまで欲を出せば確実に捕まると思ったのだろう。
だがしかし、その程度で俺が見逃すはずもない。短距離転送をしようとしている二人を見つつ、すぐさま右拳を覆う水色の魔力。それを凝縮、固形化して再びアクセルで突貫しようと地を蹴った瞬間――、
「ダメーッ!」
目の前に白い少女が飛び込んできた。
「ちょっ!?」
飛び出してきたのはもちろんなのはさん。ああ、そういえばなのはが飛びだしたせいで原作でも逃がしたんだっけ!
しかもなのはさん、あなたプロテクションもシールドも張ってないじゃないですか! しかもなに覚悟を決めたみたいに目をつぶっちゃってんの!?
ああああああああ、勢いが止まらん!
「ぅぉおおおりゃあぁあっ!?」
何とか強引に軌道を逸らそうと試みるが、アクセルは一瞬で視認した箇所に直線移動する技術。もうなのはの姿は目の前である。こ、このままでは俺、幼女暴行の犯人に!?
ぎゃあああああ、やばいやばい!
と、そう心の中で絶叫しつつ半ばどうしようもないと諦めかけたその時!
≪Neutral,on! Knuckle Burst Cancel!≫
イデアが咄嗟の判断で攻撃魔法をキャンセル、アクセルからニュートラルにギアを変換してくれる。それによって魔力によって加速していた分の速度が一気に失われる。完全な停止にしなかったのは、それだと激しい反動で身体が壊れるからだろう。ニュートラルでも結構な負担になるのだが。
ちなみにニュートラルとパーキングは混同しがちだが、前者は機械的にロックされていない状態のことで、後者は機械的にロックされている状態を指す。ともに停止状態ではあるが、前者はあくまでそれに近い状態。牽引などをされれば動くのが前者で、動かないのが後者である。
とまあ、そんな車の常識はさておき。つまりニュートラルは停止に近い状態であって、動くことは動くのである。
さてここで問題なのが、高速で動いているのにニュートラルで急制動をかけられればどうなるか、だ。
身体の動きをすべて強制的に止めるパーキングとは異なり、ニュートラルでは魔力分の速度が失われたところで、もともと俺の身体が動いていたのは変わらない。つまり、
異常な速度は失われたが、慣性の法則でそのまま身体は動く←結論。
で、俺の目の前には両手を広げて、来たる衝撃に備えて目をぎゅっと瞑るなのはがいる。こ、この状況は色々と危険では?
ま・ず・い!
「ラブコメなんて認めねぇえぇぇええ!!」
なのはを巻き込んで倒れ込み、押し倒してポッなんて認めてたまるかぁ!
俺は気合を入れて何とか身体を右下に持っていこうと全身全霊の力を込める。うぉおお、はじけろ俺のポテンシャル!
「だぁぁぁあああぁぁっぁあ!!」
次の瞬間、俺は広げられたなのはの腕――の下をくぐって、ごろごろとトラックにはね飛ばされた人間のように地面をものすごい勢いで転がっていく。
ごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろ!
……転がっていく( ´・ω・`)
≪――Round shield.≫
イデアが転がっていく先にラウンドシールドを展開してくれる。俺はそれにドカンとぶつかってようやく止まることができた。身体がめちゃくちゃ痛いけど。
もちろん、フェイトたちは既に逃げている。まあ、当然だよね。……おかしいな……なんで、こうなったんだろう。
「あ、あの……だ、大丈夫ですか……?」
地面に倒れ込んでいる俺に、なのはが恐々と声をかけてくる。どうやら、今俺がこんなになっている原因が自分にあることは理解しているらしい。
俺はゆらりと立ち上がり、とりあえず空中に放置されていたジュエルシードを回収しようと飛びあがり、ジュエルシードの前に立つ。
「……イデア」
≪了解――回収しました≫
うん、これでジュエルシードは確保した。
そのまま俺は地上に降り立ち、なのはのもとへと歩いていく。なにやら一歩進むたびにびくっと震えるのは、失礼じゃないのかな、かな。
「く、くくくく……。ちょっと、お話しようか……」
「ひゃいっ!?」
おや、何をそんなに怯えているのでしょうかね。ははは、俺はただ話をしようかと言っているだけなのに。
まあ、その前に報いは受けてもらいたいなぁ、うん。まさかリアルに人身事故に遭うなんて思わなかったよ。よもやあんな目に遭わされるなんて、いやあ予想GUYです。俺はただ、自分のするべきことをしていただけなんだけどなぁ。
というわけで、俺は拳をボキバキと鳴らしながら更に近づいていく。
「少し、頭冷やそうか……」
「そ、それは何だかどことなくまずい気がするのですが――!?」
涙目になり、本気で怯えが入り始めるなのは。小動物チックに震えるその様は可愛くもあるが、若干哀れである。
それを見て、お仕置きとしてはこのぐらいでいいか、と一つ息をついて怒りを霧散させる。なのはとしてもフェイトらが傷つくのを止めようと必死だったんだろうし、その気持ちは分からなくもないので、ここらへんで妥協してやろう。俺、一応は社会人だしね。大らかに構えないと。
そんな俺の態度に明らかにホッとした様子を見せるなのは。その足元にユーノがやってきて、無印での定番コンビの姿が構成される。
そして、なのはは申し訳なさそうに……かつおっかなびっくりになりながらも、俺の方へと寄ってきた。
「え、えっと……ごめんなさい。その、怪我とかしてないですか……?」
何と言っていいのか、言うべき言葉が定まらない様子は、9歳の子供としては歳相応であった。
この頃のなのははまだ本当に純白そのもののようだ。これが十年後には『これはディバインバスターではない……アクセルシューターだ』とか言うようになるのだから、人間わからないものである。
しかし、こうして不安げに俺の身を案じる姿には毒気を抜かれる。怒る気も失せるというものだ。
俺はやれやれと肩をすくめ、両腕を軽く動かして見せる。わずかに痛みは走るが、一晩過ぎれば問題ないだろう。これまでの経験から俺はそう判断した。
「この通り、何ともない。だけど、ああして飛びだすのはやめてくれ。一歩間違えれば、大参事だったんだ」
「うん……ごめんなさい」
ぺこりと頭を下げる。俺が派手に転がっていく様は、それはもう衝撃だっただろう。もしバリアジャケットとか魔法の恩恵がなかったら、確実に重体コースである。
それがわかるから、なのははこうしてしっかりと受け止めて謝っている。加えて、俺の攻撃をそのまま食らったら、さすがに骨ぐらいはいったかもしれないという危険もあったわけだがね。
「まあ、今回はいいさ。俺の仕事を邪魔したことは執務官として叱責はさせてもらうが、俺個人としては無抵抗の女の子を殴るような真似をしないで済んだことにちょっと安心しているんだ。だから、そんなに気にするなよ」
出来るだけなのはが引き摺ることがないように言葉を選んで言ってみる。まあ、さすがに俺のせいで俺より五つも下の子が落ち込んでるのは後味が悪いし。
そうして俺がそれらしいことを何とか言葉にしてみれば、なのはは顔を上げて俺の顔を見る。そしてなのはにとって何か納得できる点があったらしく、にっこりとなのはは笑って言った。
「ごめんね、ありがとう、えっと……」
「時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。クロノでいい」
「あ、うん! わたしはなのは。高町なのは。なのはって呼んでね」
爽やかに笑いあい、名前を交わす二人の少年少女。これなんて中学生日記? と思わなくもないが、それよりもついに主人公に出会えたことに改めて感激である。
十年以上……なのはが生まれる前からなのはの存在を知っていた俺としては、なんとも感慨深いものがある。
と、俺以外には理解できないだろう気持ちに浸っていると、唐突に空中に魔法陣が展開される。
「通信……? 管理局の?」
「ああ。アースラからだな。えっと、イタチもどき君?」
「ユーノです、ユーノ! ユーノ・スクライア!」
淫獣ですね、わかります。
そんな会話を交わしているうちに、通信が繋がり、母さんの姿がモニター代わりの魔法陣に映し出される。
『クロノ、本当にお疲れ様~』
「バリアジャケットの存在に今日ほど感謝した日はないです」
「ご、ごめんなさ~い」
ああ、いやもういいって。悪い。
『まあ、それはそれとして。……もう一人の子は逃がしちゃったわね。まあ、目当ての物は確保できたようだけど……』
「ええ。すみませんでした」
偶発的な事態に対処できなかった俺の落ち度であることは明白なので、素直に謝る。
母さんはそんな俺に変わらず笑顔で話しかけた。
『まあそれは置いておきましょう。それより、今はそちらのもう一人の方を案内してもらえる?』
「アースラに連れてくってことですね?」
『ええ。事情を聴くにしても、落ち着いた場所がいいと思うもの』
まあ、予想通りの展開か。
俺は了解と答え、母さんはその答えを聞くと通信を切り、これからこちらに転送するという言葉を残した。
なのはとユーノの二人にこれから俺たちの活動拠点であるアースラという次元間航行船に移動するということを告げ、二人からも了解の意の返事をもらった。
そしてすぐに俺たち三人の足元に魔法陣が展開されて、俺たちをアースラへと運ぶ。
ついに始まった原作時間軸。なのだが……どうにも前途は多難そうだと思うスタートであると言わざるを得ない。
まあ、何とか頑張りましょうかねー。初っ端の文字通りの躓きによって、いささかモチベーションが下がる俺なのだった。
続
==========
あとがき
久しぶりに書いたせいか、どうにも文がおかしい気がしてならない…。
でも気にせずにUP! ようやく原作突入です!
とはいっても、まだ一話も進んでませんけど^^; まあ、まずは原作に絡むことが大事だったので、どうかご勘弁。
今回出てきた新しい魔法なんかは、またおいおい。
それと、いつぞや言っていたクロノのイラストですが、それも同時に上げました。良ければ参考までに見てみてください。
それではまた次回!
クロノがアルフなんかと話しているときに、なのはさんはフェイトのかなり近くにいます。
ほら、デバイスがぶつかり合おうって近距離に二人はいたわけですから。
なので、フェイトらが跳躍し、クロノが魔力を練り始めた瞬間に飛び出せたというわけです。
二人の位置についての文は、デバイスで切り合おうとしていた位置関係から類推できると思って削りました。
ちなみに普通に割り込もうとすると運動音痴ななのはは間に合わないので、フィン使ってたりします。どうでもいいので書いてませんけどw
>kkさん
ROMありがとうございます。
ついにコメントまでくださって、嬉しいです。
>Fucking Great
あの作品、この言葉が挨拶ですからねw
もとは2ちゃんの中での言葉なのに、もはやあそこが発祥だと言われても私は信じられますw
それでは、ぅゎょぅι゛ょっょぃ(挨拶
>asuka_sfさん
クロノもここ数年の間にちゃんと成長しているのですよー^^
原作に絡めるといっても、台詞なんかはたぶんほぼオリジナルになると思います。どうか楽しみにしていてください。
心待ちにしてくださるということですが…………………………………正解!(違
>桐さん
これはネタではない……趣味だ。
どう言い繕おうともネタです。趣味というのも間違いじゃないですがw
ご期待に応えられるよう頑張ります~^^
正直期待以上に面白い作品でした
クロノ強いね~~~~~そして才能って残酷だね
あんなに強くなるために苦労したクロノの努力をあざ笑うかのように簡単に強くなるから
第二期が終わった後もなのは達と互角に戦えるように頑張ってほしいですね
追伸
氷結系の魔法・・・・・・第二期では無理でも第三期あたりで自慢の拳と組み合わせて使ってほしいです
デュランダルのパーツをイデアフィネスに流用して強化できないかな?
Dから少しずつ上がっていったクロノとは違って、あの二人はほぼ最初からAAAですからねー。
無印見てた頃は「ふーん」でしたけど、StrikerSまで見て次元世界の魔導師らを見てると、「それなんてチートww」と言わざるを得ない。
氷結系の魔法はいつかやってみたいと思っています。
うーん、楽しみです。どんなのにしようかなぁ。
>俊さん
もはや後半はただのギャグパートと化してしまってサーセンw
きっと、み○さんはどこの地球でも頑張っていると思うんだ。そりゃなのはも見てるって。
なのはとしてはきっと、「ふぁ、ファイナルアンサー!」って言いたかったに違いないよ、うん。
> さん
その通り! 止まれません!
なのはさんには今後に気をつけてもらうとしましょうw
これからも楽しみにしていきます。
ところで、『これはディバインバスターではない……アクセルシューターだ』て、
この二つ全然違うじゃん!!
と、茶々を入れてみたり。
どっちにしろ、物騒ですけどwww
そしてリリカルな不可思議はStSで更に深まりますね。
あと「そこな犬!(以下省略)ファイナルアンサー?」ってアルフに言う場面ありますが、「そこの犬!(以下省略)ファイナルアンサー?」では?多分ですけど。
いやあ、とりあえず両方とも魔力放出型の射撃魔法ということで比較しました。
うん、物騒だねw
StSでは、ナンバーズなどがわんさか出てきますからね。
きっとこの世界の審理なんだよ!
と思う今日この頃です。
>hanaさん
すみません、その魔法両方とも持ってない設定です。
ぶっちゃけクロノさん、これまで犯罪者殴ってバインドで縛って引き渡す、ばっかりだったので、あんまりそういうの持ってないんですよね^^;
いずれ覚えさせるかもしれませんが、今はないんですよ。
>B.S.さん
その通りです、持ってないのですよ。
ちなみに「そこな犬」で合ってます。なんだろう……古文的な表現? みたいな感じです。
でもそんな細かいところまで見てくれてありがとうございます^^
遂に原作本編に入ったわけですが、なのはファイナルアンサーに反応するんだー……
地元だしなー……
氷結系魔法、ここのクロノならハイパーボリア・ゼロドライブとか。
次回も楽しみにしてます。
ぅゎょぅι゛ょっょぃ(挨拶
某理想郷の最高の幼女が出てくるSSの挨拶ですw
クロノが今後どう動くのか……。プレシアもどうするのか……。
そこらへんはまだ秘密ですよ?
どうかまた次回をお楽しみに~^^
>ソプラノさん
最初はちょこちょこネタを入れて……っていうSSにするつもりだったのに、気づけばネタだらけに^^;
ミリオネアはきっとこっちの地球でもやってると思うんだ。なのはもきっと見ているに違いないんだよ!(ぇ
>ハイパーボリア・ゼロドライブ
それなんてリベル・レギス?
でもいいかも。滅殺攻撃っていうところがw
まあ実際に出したら大変なことになりそうですがw
次回もどうぞよろしくです!
転移魔法の光に包まれる。身体が艦橋から消える瞬間、俺は決意と共に呟いた。
「ジャンプ」
ボソンジャンプ!?
予想できていたのに吹いたシーン
「少し、頭冷やそうか……」
「そ、それは何だかどことなくまずい気がするのですが――!?」
フライングしすぎ!!!!!!
というか人のセリフー!!!
いやぁ、なんだかああいうシーンでは言わないとダメかなぁ、と思って^^
ついやっちゃいましたw
StSでのあのセリフは、まあ狙い通りです。
逆になのは(しかも九歳時の)に聞かせるという裏技ですw
COMPLETE→Start Up!→ギューン3・2・1TimeOut→Reformation
ってくると思ったら魔法先生のほうだったw
あっちは外付けシステムで強くなるライダーなんで知らなかったら参考になるかと。
…でも足からドリル出せるようにしたら似たようなキック撃てますか?
あれ?
「少し、頭冷やそうか……」
あれれ?
これだと、未来においてあの少女が白い悪魔とか魔王とか冥王とか呼ばれる様になってしまうのは”クロノの責任”とか言われるのではw
”なのはは、ワシが育てた”ですね、わかります。
しまった、ファイズの発想はなかった!
そういえばそんな機能もあったなぁ。
とりあえずファイズのライダーキックはかっこいいですよね^^
あのドリルっぽい円錐で敵を貫くキックは最高でした。
まあ、さすがにこっちではやらないかもですけど^^;
>aoさん
実はクロノこそが魔王の裏の黒幕だったんだよ!!
な、なんd(ry
実際、未来であのときのセリフを覚えていて使うこともあり得そうですよねw
そうするとクロノが原因になるわけか。ティアナスマソ
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