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日々のことを徒然と。あと、絵や二次小説も掲載しています。主にリリカルなのは中心です。
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きょう×なの その8




 ――朝。

 眩しい日差しがカーテン越しに降り注ぐ一室で、菜乃葉はゆっくりと目を開けた。


「…………あれ?」

 目を開けた先に映ったのは、木造の天井。そして日本では典型的な照明であるそこからぶら下がった和照明だった。

 どう見たって見慣れた私室の装いではない。

「………………」

 無言のまま、菜乃葉はもそもそと敷かれた布団から身体を起こす。

 基本的に朝に弱い菜乃葉は、まだ少しぼうっとしたまま思考を働かせる。

 半覚醒した状態のまま、十秒ほどたった後。菜乃葉は、ああ……、と得心がいったとばかりに声を洩らした。

「……そういえば、来ちゃったんだっけ」

 主語を抜かして呟くと、菜乃葉はおもむろに立ち上がって窓に近づいていく。

 そして、シャッと勢いよくカーテンを開け放つと、太陽の光が菜乃葉の目に飛び込んでくる。

 反射的に目をつむり、温かい陽光を全身で浴びて、んー……と伸びをする。

 それで目が覚めたのか、菜乃葉はぱっちりと深い藍色の瞳を開いた。

「よしっ!」

 今日という一日の始まりに備えるかのように自身に活を入れる。

 そうしてこれからの新生活に思いを馳せながら、菜乃葉は昨夜に桃子から渡されたパジャマを脱ぎ始めた。





 本来なら菜乃葉は朝早くに起きて昔からの習慣になっている簡単な自己鍛錬をするのだが、さすがに今日はそんな余裕はなかった。

 やはり昨日、色々あったことが響いていたのだろう。目を覚ましてリビングに顔を出すことができたのは九時になってからだった。


「あら、おはよう菜乃葉ちゃん」

「あ、おはようございます」

 リビングにいた桃子に挨拶を返し、菜乃葉は桃子の傍に寄って行く。

「すみません、泊めてもらってるのにこんなに遅くて……」

 ためらいがちに言う菜乃葉に、桃子は少しむっとした顔を作る。

「菜乃葉ちゃん、昨日言ったでしょう。ここはもうあなたの家でもあるの。だから、遠慮なんてしない。いくらでも寝てていいんだから」

 最後にはにっこり笑って言う桃子に、菜乃葉はさすがにそれはちょっと……と言って笑う。

 ひとしきり笑ったあと、ふと桃子は今の菜乃葉の格好に目をとめる。

 白いスーツに、青いタイトスカート。赤いタイがアクセントとなっているそれは、昨日も見た同じ姿。時空管理局航空戦技教導隊の正装であった。

「んー……、菜乃葉ちゃん。服ってそれしか持ってないの?」

 突然の言葉に、菜乃葉はきょとんと目を瞬くが、すぐにええまあと曖昧に答えて苦笑いを浮かべた。

「ふーん……」

 あごに手をあてて、鑑定するかのように菜乃葉の服装を眺める。

 桃子の視線にさらされて菜乃葉はちょっと居心地が悪そうにしている。

「うーん……サイズは美由希と同じぐらいかな。あとイメージ的に暖色系が似合いそうよね……。でも白と青のほうがイメージしやすいかも……」

「あ、あの……?」

 ぶつぶつと呟く桃子に、ようやく菜乃葉が言葉をかけるが桃子はまったく聞く耳を持たない。

 唐突によしっ! と声をあげると、桃子は一目散にリビングを出ていく。

 菜乃葉はどうすることも出来ず見送るが、すぐに桃子は戻ってきた。その手にいくつかの衣類を持って。

「これ、とこれとこれ。こういうの菜乃葉ちゃんは似合うと思うのよねー。あ、美由希のだからサイズとかはたぶん合うとは思うわ。ちょっと違ってても、我慢してね?」

「へ? あ、あの――」

「ほらほら、早く着替えて着替えて。私はその間に電話しておくから」

「え、あの、電話って何のことで……」

「いいから、いいから。出来るだけ早く着替えて来てね~」

「あの、ちょっ」

 バタン。

 何とか菜乃葉をリビングから出した桃子は、一仕事終えたと言いたげな爽やかな表情で額の汗をぬぐう。

 そしてスカートのポケットから携帯電話を取り出し、すぐさま目的の所に電話をかける。

「………………」

 いくつかのコール音のあと、すぐに相手は出た。

『はい、こちら喫茶翠屋でございます』

「あ、松っちゃん? 私。桃子なんだけど」

『桃子さん? どうしたんですか?』

「いやー……ちょっと、今日はお店のほうしばらく頼みたいんだけど……お願いできない?」

 さすがに申し訳なさそうな顔をしながら桃子が言うと、電話の向こうの声はいささか戸惑ったようだ。

 だが、それもすぐに消えて桃子のお願いに答える。

『はぁ……まあ今日は大きな予約も入っていませんし、私と皆で持つとは思いますけど……。午後はちょっと無理ですよ?』

「ああ、大丈夫よ。それまでには戻るから」

 桃子が言うと、松っちゃんこと松尾はまあそれなら、と了解を示した。

 桃子がありがとぉ~! と感極まって電話越しに頭を下げると、松尾は苦笑してはい、どういたしましてと返す。

 長年のあいだ店を切り盛りしてきた間柄の二人だ。お互い、会話のリズムというものを心得ていた。

『……でも、急にどうしたんですか? 昨日は特に変わった様子はなかったですけど……』

「あーっと、そうねぇ……」

 どう説明したものかと桃子は頭をひねるが、まあ後でしっかり説明すればいいだろうと結論を下し、きわめて簡潔な内容だけを伝えることにした。

「ちょっと、うちに新しい娘ができてね~。その子にちょっと付き合いたいのよ」

『………………は?』

「そういうわけで、よろしくね。ちゃんと午後には戻るから~」

『あ、桃子さん!? ちょっと、ま――』

 ピッ。

 松尾の言葉はしっかりと伝えられぬままに電話は切られる。言いたいことだけ言ってすぐさま電話を切った桃子の顔は晴れやかであった。

 とりあえず、これで準備はオーケー。

 あとはさっき渡した服を身につけた菜乃葉が来るのを待つだけだが――。

「あのー……桃子さん?」

 そろそろとリビングの扉から顔を出したのはまさしく件の少女であった。

「あら、待ってたわよ菜乃葉ちゃん。ほら、おいでおいで」

 言葉通りに手で招くと、菜乃葉はどこか戸惑いながらも言われたとおりに桃子の前に姿を見せる。

 ぴしっとした管理局のスーツではなく、菜乃葉は桃子に渡された服をしっかり着ていた。

 黒いアンダーシャツの上に白いカッターを身につけ、下はデニムのミニスカートというごくシンプルな服装だ。

 カラーリングも黒・白・青のトリコロールでまとめられており、さっきまで着ていた制服のカラーとも似た配色であったので、菜乃葉には違和感なく似合っていた。

 その姿を見て桃子は満足げに微笑む。

「やっぱり似合うわね~。白って菜乃葉ちゃんのイメージカラーみたいだし。サイズはどう? 美由希のだから、ぴったりじゃないとは思うけど」

「あ、えと……大丈夫です。ちょっと、胸が、緩いですけど……」

 言って落ち込んだのか、菜乃葉はちょっと影を背負った。

 そのあまりにも少女らしい様子に桃子は苦笑する。

 美由希はあれで結構スタイルがいい。本人は運動には邪魔だと言い張っていたが、密かに自信を持っていることを桃子は知っていた。

 とはいえ、美由希は十七だし、菜乃葉は昨日聞いた限りでは十五だ。この年頃の二年は大きい。だというのに、“ちょっと”緩いぐらいなら十分将来有望だと桃子は思う。

 あんまり落ち込ませるのも可哀想なので、桃子はしっかりフォローをした。

「大丈夫よ、菜乃葉ちゃんもすぐに大きくなるわ。それに、恭也は別に巨乳好きってわけでもないから」

「――ッ!? ……な、な……!」

 空気を求める魚のように口をパクパクとさせて顔を真っ赤にさせた菜乃葉は、顔から火が出るような思いで桃子から視線を外して目を泳がせた。

 そんな菜乃葉を桃子は生暖かく見つめていた。ああ、もう可愛いなぁ、抱きしめたいなぁと正直な感想を抱きながら。

 菜乃葉はそんな桃子の様子には気付かず、ただ火照った顔を冷まさせようと手のひらで両頬を押さえていた。

 楽しそうに見ていた桃子だが、さすがにずっとそうしているわけにもいかない。赤くなって慌てる菜乃葉をそれなりに堪能すると、桃子は話題を変えた。

「まあ、それは置いておいて。菜乃葉ちゃん、お出かけしましょう!」

「え、はい…………はい?」

 反射で思わず返事をした菜乃葉は、よくよくいま言われた言葉を吟味して今度は疑問の声をあげた。

 桃子は笑顔で疑問に答える。

「だから、お出かけよ。荷物とか全部なくなっちゃったんでしょ? だから、今からお洋服とか生活必需品を買いに行きましょう!」

「ええ!? そんな、悪いですよ!」

 桃子の声高々な宣言に菜乃葉は慌てた様子で遠慮する。

 泊めさせてもらっている身である菜乃葉としては、そこまでお世話になるのは心苦しい。もともと自分より他人を優先する菜乃葉である。こういったことに遠慮するのは癖のようなものだった。

 対して桃子はそんな菜乃葉の様子に心痛めたかのように悲しげな顔になる。

「そう……やっぱり、お節介だったかしら……」

「あ、いえ。そんなことは……」

 突然の桃子の変化に菜乃葉は今度は違う意味で慌てた。

 おろおろと桃子の様子を窺う菜乃葉は、何とかしなきゃと声をかけ続ける。

「その、お気づかいは嬉しいんですが、お世話になっている身ですし……。いえ、本当に嬉しいんですよ? 見ず知らずのわたしのためにこんなによくしてくれて……」

「……嬉しい?」

「は、はい! それはもちろん……」

 桃子の問いかけに菜乃葉は勢い込んで肯定する。

 もしここに恭也がいれば、菜乃葉が答える前にその口を封じていただろう。

 だが、恭也がいない今、菜乃葉はなんの障害もなくごく普通に答えてしまった。

 きらり、と桃子の目に力がこもる。

「そう! じゃあ早速お買い物に行きましょう!」

「え、えええー! ち、ちょ……」

「ほらほら、もうお財布は持ってるから大丈夫よ。菜乃葉ちゃんも嬉しいみたいだし、今日は桃子さんがしっかりコーディネートしてあげるわね~」

「も、桃子さん! ま、待って――」

 目にも留らぬ早業で菜乃葉の手を取り桃子はリビングを後にした。




 戸惑いながらも、結局どこかしょうがないという様子で桃子に手をひかれるままになっている菜乃葉をちらりと見やって、桃子は思う。

(やっぱり、なのはと似てるわねーこの子。遠慮がちで、押しに弱いところとか。他人様に気を使うところとか……)

 なのはも似たようなところがある。

 自分に何かをしてくれると言う人には凄く遠慮するくせに、人から頼まれれば嫌な顔せずに引き受ける。

 強く押しつけるように頼みこめば、仕方がないなぁと苦笑して結局なのはは付き合ってくれる。

 決して、嫌な顔はせずに。

(ちょっと、強引すぎたかもしれないけど……)

 昨日からどことなくそんな雰囲気を感じ取っていた桃子は、いささか強引ながらも菜乃葉になのはならこうするだろうと思われることを試してみた。

 結果は思ったとおり。菜乃葉は、桃子の知るなのはと同じく他人を自分より優先させるような面があるようだった。

(恭也といい、なのはと菜乃葉ちゃんといい……。もう少し楽にできないものかしらねー)

 苦笑しながらもついてきてくれる菜乃葉に、内心で申し訳ないことをしたと思うが、同時に菜乃葉を含めた彼女らに危惧を覚える。

 いつか、張りつめた風船が割れるような事態にならなければいいが……。

(菜乃葉ちゃんが影響して、二人がもっと自分を大切にしてくれるといいんだけど)

 恭也は菜乃葉のことをどこか特別に思っているだろうことは桃子にはお見通しである。菜乃葉を通じて、自分のことを考えるようになってくれればと思う。

 なのはについても同じことが言える。自分と似た人を見て、今の自分を省みてほしい。なのはの性格をそのようにしてしまったのは、他ならぬ自分自身だということはわかっていたが、それでも願わずにはいられない。

 そこまで考えて、桃子は菜乃葉に気取られぬように内心で溜め息をついた。

 まるで打算で菜乃葉のことを利用しているだけのような自分に嫌気がさしたのだ。

 だが、こうも思う。菜乃葉こそ、うちの二人を通じて何か思うところがあれば、と。

 もちろん、恭也に対して思うことはありそうだが。

 そこらへんも実に頑張ってほしいと思う。

 しかし……。

(会って間もないのに、菜乃葉ちゃんが二人に似てるなんて……。なんでそんなこと思ったのかしらねー)

 人を見る目は有ると自負する桃子だが、初対面で人の内面まで見えることなど今までなかった。

 やはり、なのはと似ていることがそうさせたのかもしれないが。

 不思議なこともあるものだが、まあいいか、と桃子は早々に結論付けた。

 別に何がどうだろうと関係はない。とりあえず、それよりも今は菜乃葉のことだ。

 どこかなのはに似ているこの子を、桃子は娘のように扱おうと決めていた。

 というか、そうしたほうが違和感がないように思えたのだ。何となく、自分と彼女の関係がお客様というほうが似合わない気がする。

 と、いうわけで。

 まずはその第一歩ということでお買い物を思いついたというわけだ。

 まあ、もちろん生活必需品の買い物というのも嘘ではないが。

 娘だろうと、お客様だろうとまずは仲良くなること。

 なら、やはりショッピングが一番だ。女の子のお買いもの=仲良し。うん、これがいい。

 ごく簡単な思考で今後の行動を決定した桃子は、速攻で服を用意し、店に電話をして準備を整えた。

 そうして今こうして菜乃葉の手を引いているわけだが。

(まあ、打算うんぬんは置いておいて。……仲良くなりたいなー、って思うのは本当だものね)

 難しいことは頭の隅に追いやって、桃子はこれからどうやって菜乃葉と遊ぼうかと考えを巡らせる。

 お買いもの=遊び回ること。これもまた、簡単な思考の帰結である。

 桃子のそんな考えに気づかない菜乃葉は、手を引きながらどこから行こうかと悩み始めた桃子を見つめて、相変わらず小さな微笑みを浮かべたまま桃子に手をひかれていくのだった。

 

 

 

 









 ――そうして手をひかれながら、菜乃葉は己の相棒に心のうちで話しかける。

 念話である以上聞かれることはないが、内容が内容だけに気持ち声をひそめるように。

(……そうだ、レイジングハート。昨夜話したこと、今夜から行くよ)

≪All right my master.≫






To Be Continued...

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Comment
桃子さん、強し。
相変わらずの強さですねw
これぐらいのを何本かに分けてもらえると読み易いですね、やっぱり。
かーな 2007/12/04(Tue)00:20:10 編集
さすが桃子さん
管理局の白い悪魔も、桃子さんの前では
形無しですな。

ν 2007/12/04(Tue)00:41:23 編集
桃子さんのターン
どうもはじめまして。
意外と作品の少ない恭也×なのはですが、ここにあるものは、凄く楽しく読ませていただいてますw

今回も押し強しですね、桃子さんw
内面いろいろと心配しているのは、やっぱり母親ということですかね。
zizi 2007/12/04(Tue)17:45:39 編集
感想
更新お疲れ様です。
最後の方で菜乃葉が何かを決意していたみたいですが何の事か気になりますね。
次回の更新楽しみにしています。
i.d 2007/12/04(Tue)19:37:45 編集
この桃子さん凄いよ!
流石なのはさんのお母さん!(笑)

世界は違えど実の母娘、なのはさんが敵う相手じゃありませんね。
それにしても思考が若すぎやしませんか推定年齢(略)のお母さん(笑)

そしてやられっぱなしのなのはさんは、何を始めるのやら……。
素直に考えれば帰還のための努力ですが、或いは大胆に夜這いの計画でも練っているのか(笑)

続きも楽しみにしております。
たのじ 2007/12/04(Tue)23:32:02 編集
RES
>かーなさん
桃子さんは私の中で最強なのですよ^^
長編はある程度の長さで区切って書くように心がけていますが…読み易かったならよかったです
また次回もよろしくです

>νさん
悪魔<<<越えられない壁<<<桃子さん
という図式が頭の中にある雪乃こうですw
母は強し、なのですよ

>ziziさん
リリカルが出来たことで、こうして平行世界ネタもできるようになりましたし…これから増えるといいですよね~^^
楽しく読んで頂いてるということで、ありがとうございます!
桃子さんの最強母っぷりをご堪能ください!(ぇ

>i.dさん
最後の菜乃葉のアレは、まぁあからさまな伏線ですね
どうかお楽しみに~^^

>たのじさん
桃子さんは魔王の母親なんですから、やはり最強でないと!!(力説)
桃子さんは永遠の○○歳ですから、問題ないですw
なのはさんが何をするのか…それはこれからのきょう×なのに期待してください!
それでは、次回もまたよろしくお願いします~
雪乃こう 2007/12/05(Wed)00:02:30 編集
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