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日々のことを徒然と。あと、絵や二次小説も掲載しています。主にリリカルなのは中心です。
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きょう×なの その11



――夜。

 太陽はすでに影もなく沈み込み、空に浮かぶのは青白い光を放つ銀色の月。

 その光に照らされる街並みは、人工の光をもって月光に対抗するかのように輝いている。
 


 とはいえ、今は深夜。家々の光も多くが消え、ビルの明かりも限りなく少ない。コンビニや中心街の明かりがぼうっと夜の闇の中に浮かび上がっていた。
 



「――……レイジングハート」

『All right.』
 



 そんな暗闇が支配する空間の中、ひときわ目立つ白が数多くあるビルの一つの屋上に降り立つ。

 右手には赤い宝玉を起点とした桜色の杖を持ち、その長く艶やかな茶色の髪を左右両側から風に流す。

 菜乃葉は、ビルの上から海鳴の町を見下ろしていた。

「……やっぱり、思ったとおり」

 ぽつり、と菜乃葉は呟く。

 その声には、疑問や怪訝の色が濃く見えた。
 



「この世界は、どこかおかしい」
 



 光のあふれる中心街。そこを見つめながら、菜乃葉はまるで全く違うところを見ているように遠い声で夜にささやいた。

「レイジングハート。昨日飛ばしたアレ、回収できる?」

『Please wait a minute…』

 レイジングハートがそう答えると、その数秒のちにこれまた桜色に輝く球体が四つ、空の向こうから飛来してくる。

 それら四つすべてが高速で迫ってくるが、菜乃葉はじっとしたまま動かない。

 やがてそれらの球体は菜乃葉の傍まで飛来して、ぴたっとそこにとどまる。菜乃葉を中心にして四つの球体はしばしそのまま静止していたが、ふっとレイジングハートの宝玉部分に吸収されてかき消えた。

『Complete. W.A.S. successful.(完了。ワイド・エリア・サーチ成功しました)』

 街の光に反射して、キラリと宝玉が赤く輝く。

「……どう、レイジングハート?」

『Please wait…… master?』

「結果は?」

『A result is as expected.(予想通りです)』

「……そう」

 レイジングハートの報告を聞いて、菜乃葉はわずかに眉根を寄せる。

 この世界の異常が、これではっきりしたからだった。

 菜乃葉の目に映っている、海鳴の町に似たこの地。

 これは、本当に平行世界なのだろう。この世界の風景自体には何ら異常な点はない。

 それよりも、異常が発見されたのは、この世界に住む人々の方だった。
 



「……ありえないよ。魔法という技術が過去一度も存在したことのない世界なのに、誰もが魔力資質を持っている世界なんて――」
 


 菜乃葉の世界にだって、魔法技術なんてなかった。この世界にも魔法技術はない。だというのに、魔力資質は持っているというこの矛盾。

 それこそが、この世界の異常性だった。

 本来、魔法という技術がない世界は総じて大気中の魔力素濃度も値が低く、リンカーコア自体も、小さいことが多い。あるいは、リンカーコアが存在しない世界だってありえるのだ。

 だというのに、この世界は恭也のように鍛錬を積み、武術の心得がある者も。

 高町家に住む家族のみんな全員も。

 道を歩いている子供たちやお婆さんも。

 コンビニの前で煙草を吸っている、ちょっとガラの悪い青年たちも。

 携帯片手にどこかに電話をかけているサラリーマンのおじさんたちも。

 その誰も彼もが、小さいながらもある程度は発達したリンカーコアを持っているのだ。

 これは、かなり異常な――少なくとも、前例にない発展をした世界だった。

「………………」

 昨夜のことを思い出す。

 この世界に来て、高町家の人々と触れ、菜乃葉はふと違和感を感じた。

 夜、布団の中に入っている時にそれは一番強く感じた。あるいは、静かな夜だったからこそ神経が鋭敏になって気がついたのかもしれない。

 ――家中、そこかしこから微弱ながらも魔力反応を感じたのだ。

 気になってレイジングハートにその確認をしてもらったところ、それを発していたのは高町家の住人だったのだ。

 この事実に菜乃葉は驚愕した。

 慌てて家の周囲にまで範囲を広げて探査したが、結果は同じ。魔力反応が確認されたのだ。

 これは何かおかしい。

 そう考えた菜乃葉は、レイジングハートにワイド・エリア・サーチの魔法を頼み、地球上に魔力球を飛ばして探査を開始したのだ。

 隅から隅までとはいわないが、一日中飛ばしていたそれらは多くのデータを持ち帰ってくれた。

 それが今夜のことである。

「……ひょっとしたらこの街だけのことかと思ったけど、W.A.S.の結果を見る限り……」

 当初の予定通り、やはりこの世界の住人はおそらく全員がリンカーコアを持っている。

 エリアサーチの結果えられたのは、各地で確認された魔力反応。エリアサーチで探査した範囲内にいた人間全員から出る魔力反応だった。

 昨夜、レイジングハートと話していた予想は正しかったらしい。


“この世界の人間は、もしかしたら全員に魔力資質があるのかもしれない”


 昨日の夜の段階ではまだ単なる予想の域を出ないものだったが、こうしてデータとして結果が出れば話は別だ。

 その予想は正しかったと見るのが妥当だろう。

「――でも、だとしたらどうして? 魔法なんて、誰も知らないはず……」

 自分の世界がまさにそうだった。

 魔法なんてお伽話の産物で、空想の中だけに存在するファンタジーにすぎなかった。

 平行世界である此処も、そうあってしかるべきだ。

 実際、昨日と今日のみんなの様子を見ても魔法に慣れ親しんでいるとは思えなかった。

 リンカーコア自体はそれなりに魔力を発していたが。

 それでも、知識として知っている人間はいないはず。


 では、なぜ?
 

 なぜこうもおかしな現実がある?
 


「――……考えても仕方ない、かな」

 思考を切り上げる。

 これ以上の推測をするには手元に情報が少なすぎる。

 もっと推論を作り上げるための材料を手にしなくては、何も始まらない。

「ただ、わかってることもある」

 あのロストロギア。

 自分をこの世界へと誘った、転移専門の古代遺産。

 なぜ、あのロストロギアの行き先はこの世界だったのか。

 そして飛ばされてきた先の、この世界で見つけたこの異常。

 あるいは、この世界でなければならない必然性でもあったのか――。

「……なんにせよ、あのロストロギアが関わってることは間違いなさそうだね」

『I think so, too.』

 菜乃葉の言葉にレイジングハートも同意を示す。

 あのロストロギア。

 あれについて調べることが、この世界の謎を解く鍵になる。

 それはもはや確信だった。

 だが――、

「……手元にないんだから、調べられるわけないんだよねぇ」

 わかっていることだが、声に出してみると途端に身体の力が抜ける菜乃葉だった。

 ため息をついて肩を落とすが、状況が変わることはない。

 あのロストロギアが鍵になっているのはわかっているのだ。だというのに手を出せる場所にそれはない。

 そのことが、菜乃葉には歯がゆかった。

「……しばらくは、こっちの図書館で調べてみるかな」

 過去の歴史。

 世界に起こった出来事。

 オカルト分野に関する解釈。

 自分の知るものと何か相違点があれば、それが足がかりになるかもしれない。

 ……果てしなく、気の滅入る作業だが。

「早く来ないかなぁ、フェイトちゃんたち……」

 そうすれば、きっとこの状況も進展するだろう。

 それに、こっちに来たということはソレの解析が進んだということの実証でもあるはずだ。

 そのデータがあれば、ぐっとこの不可思議の解決のスピードは速くなる。

「そうすれば、わたしもあっちに戻って……、――あ」

 そこまで考えて、菜乃葉ははっとした。

 そうすれば、自分は確かに元の生活に戻れるだろう。

 だが、恭也のことは?

 それ以後もまた会えるという確証は、どこにもなかった。

 むしろ、もう二度と会えない。そんな気さえしてくる。

(せっかく、もう一度会えたのに……)

 まだ、離れたくない。

 それが、いま菜乃葉の中にある一番素直な気持ちだった。

「……うん。やっぱり、もう少しあとでもいいかも」

 みんなには悪いけど。

 もう少し。もう少しだけ、今の状況のまま過ごしてみたい。

 彼の近くで、彼の隣で。

 彼と同じものを見て、同じ時を過ごしてみたい。

 あの時、たった一日で終わってしまった夢の時間を、今度こそはもっと長く感じていたい。

 だから。

「ごめんね、フェイトちゃんにはやてちゃん。ヴィータちゃんに、みんなも……」

 特に、ヴィータには申し訳ない。

 どうにもヴィータは自分があの大けがを負った時から様子がおかしい。

 何事も、菜乃葉のことを優先し、自分がより前線に出ようとすることが多くなった。

 菜乃葉の盾になるかのように。

(……ヴィータちゃんには、悪いことしちゃったな……)

 今頃、きっと責任を感じているだろう友人のことを思う。

 これをきっかけに、わたし以外にももっと気を使ってくれれば、とも思うが……それは今は酷というものなのかもしれない。

 けれど、できればいい方向に今回の件が影響してくれればと思う。

 ヴィータをああした責任と、親しい友人としての心配からそう思うのだった。

「――……まあ、今は悩んでも仕方ないかな」

 この世界の異常にしろ、ヴィータのほうの懸念にしろ、今の状況では両方共に全く手が出せる状態ではない。

 それよりも、今は現状の把握と、せめて今の維持が精いっぱいだろう。

「と、いうことで。明日からは、図書館通いだなぁ」

 心の中で、ユーノくんがいればすぐに終わるのにな、と考える。

 何しろ彼は無限書庫の管理司書を任されているのだ。いち町の図書館なんて彼の手にかかれば一日もかからずに掌握してしまいそうだ。

 とはいえ、ここにユーノはいない。

 つまり、自力で地道に調べるしかないわけで。

「……はぁ、やるしかないよね」

『Let’s do its best.(頑張りましょう)』

 レイジングハートの励ましを受け、菜乃葉はふっと微笑んだ。

 自分の相棒は相変わらず、優しい。

 それだけで、随分と救われる。どこでだって、何にだって、立ち向かっていけるような自信がわきあがる。

 さしあたっては、図書館にある多種多様で数多くあるであろう本に対してだろうか。

 


 さあ、というわけで帰ろう。

 彼の居る家に。

 家族の居る、みんなの家に。

 

 まずは明日。図書館へ。

 今は少しずつ足を踏み出していく。

 この世界の異常性。ロストロギアの謎。とりあえず、それらについて調べる。

 そこに何があるのか。まだ見ぬその先は、夜の闇のように暗く闇が広がっている。

 不安だらけのスタートだ。しかし、そんなことはいつものこと。

 菜乃葉は、たんっと軽快に屋上から空に飛び上がると、闇の中でもなお輝く月の下で、自身が帰るべき場所へと向かっていった。

 

 











(そういえば……)

 夜の街。

 その上空を駆けながら、菜乃葉はこの町で感じた違和感に思いを馳せる。

(この町……リンカーコアの反応が強いところが結構あったけど……)

 たとえば高町家の一部。

 たとえば山に建てられた神社。

 たとえば海鳴中央病院のあたり。

 たとえば菜乃葉の記憶の中にある月村すずかの家の方角。

(……何もないといいけど)

 気にはなるが、今はまだ様子見に徹するべきだろう。

 だが、優先的に調べたい。

 これからの予定を頭の中で細かく組み立てながら、菜乃葉は白い防護服をなびかせて高町家へと帰っていくのだった。


 


To Be Continued...

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Comment
そうきましたか
一つの次元世界に住む人物全員がリンカーコア保有者だとは。そりゃなのはも驚くわな。ついでにその反応が高いところはと言えば、恭也スキーに係わりがあるところばかり。ライバルは手強いが、頑張れ、なのは!
ν 2007/12/23(Sun)04:13:26 編集
感想
確かに世界の住人全員魔法資質ありなら
驚きだけど原作を知っていると幽霊や妖怪や
剣に憑依した魂や夜の一族や退魔士やHGSが
いる世界ですからむしろ納得ですね。
それはそうととらはのなのははクロノに
会うんでしょうか?
そしてリリなののなのはは帰ったら恭也に
逢えなくなるとしたらどちらを
選ぶんでしょうか?
絶対に帰るまでにリリなのの恭也と忍や
士郎と桃子に近い状態になりそうだし。
部下S 2007/12/23(Sun)08:56:21 編集
納得
確かにあの海鳴世界ならば、全員が資質保有者と言われても凄く納得できます(笑)

ガチで魔導師とやり合って、勝てそうな人材がごろごろしてるし……。

それでいて魔法文明が無いことなど、なのはさんが疑問に思うことももっとも。
海鳴辺りの住人の、真の戦闘能力(笑)を知れば、また変わるかもしれませんが。
その手の文明が無い理由も、幾つか想像できないことは無いですが、まずはこれからの展開を期待します。
たのじ 2007/12/23(Sun)14:29:07 編集
感想
更新お疲れ様です。
全員が魔力資質を持っているというのは以外でしたが、あまり違和感は感じなかったですね。まあ、何名かの戦闘能力を知っていればこそでしたが。
まだまだいろいろな謎が残っていてこれからが楽しみです。
次回の更新楽しみにしています。
i.d 2007/12/23(Sun)20:58:39 編集
人外の宝庫、それがとらハ世界
リリカルの世界から見たら、魔法に匹敵する力がいくつもあるこの世界のほうが異常にうつるのかも。
その根底にあるかもしれない魔法素質、ついてはロストロギアの存在も、大いに気になります。(あとリリチャ箱の設定も)

恭也となのはの間には、色々な障害がありそうですが、是非お二人の幸せにむけて頑張ってもらいたいです。
zizi 2007/12/24(Mon)00:57:45 編集
RES
>νさん
この設定はわりと早いうちに思いつきましたね
だって、リンカーコアがあるって言われても違和感なさそうですし?w
なのはさんの今後に乞うご期待!

>部下sさん
全員魔力資質持ち、と言われても違和感がないとらはメンバーに乾杯( ̄ー ̄)
そして今後の展開はまたこれからを読んでやってくださいw
細かいところはまだ決めていませんし、書いてる身としても楽しいですね^^

>たのじさん
うちの「ソードダンサー」など見てもらってもわかるように、私は魔法なくてもやりようによっちゃあ勝てると思ってますからねー
海鳴住人の真の戦闘力(笑)にも注目してくださいねw
それ以外のことは…まあ今後の展開をお楽しみにです!

>i.dさん
海鳴ってそう考えると相当変わった所ですよねぇ…^^;
いや、物語なんだからって言っちゃえばそれまでなんですけどね
謎についてはお楽しみに!
大した考えがあるわけではないですけどね…;;

>ziziさん
リリちゃ箱とかとリンクさせるかどうかは悩みどころなんですよね…
最悪、クロノあたりは出ないかも…
ああ、でも出したら面白そうだなぁと思うんですけどねぇ
恭也となのは、二人の今後楽しみにしてやってください
ではまた次話をお楽しみに~^^
雪乃こう 2007/12/27(Thu)18:45:55 編集
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