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日々のことを徒然と。あと、絵や二次小説も掲載しています。主にリリカルなのは中心です。
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 SIDE-Kyoya



「夢、か……」

 のそりと布団から起きた恭也は、珍しくはっきりとしない思考のままに小さく呟いた。

 あれは確か、八歳……九歳のころだったかと今見た夢に思いを馳せる。


 まだ父と二人で日本中を回っていた頃。最後に訪れたここ海鳴市で、父である士郎は心から愛する女性と出会った。そして最終的には結婚することになるのだが、それは今は置いておこう。

その日は現在の母である桃子と、デートするんだ! と言って張り切って出て行った士郎に呆れながら、恭也は夜の散歩を楽しんでいた。

 すると突然、通りかかった霊園のほうから妙な気配が現れたのだ。怪しいということではなく、何もなかったところにいきなり現れたような気配だったから、妙なとつけたのだが。

 気になり、注意をはらいつつも近づいてみると、そこには半身を起こして呆然とした表情であたりを見回している小さな女の子がいた。

 あの子が気配の原因か……?

 そう思って観察を続けていると、呆然としたままだった表情が見る見るうちに曇っていき、ついには泣き出しそうな顔になっていった。

 それには恭也のほうが焦った。いくらなんでも目の前で泣かれるのを黙って見ていられない。それに、相手は自分よりもいくらか小さな女の子なのだ。まるでその子の兄になったかのような保護意欲も湧いてきて、無視することはできなかった。

 仕方ない、と判断して恭也は草むらから音をたてて姿を現した。

 それにびっくりした顔でこちらを凝視する女の子。

 ……とりあえず、こちらから話しかけてみるか。

 そう考えた恭也は、早速目の前の少女に声をかけた。

「……こんな時間にどうしたんですか?」

 話しかけられたことに悪ければ怯えるかもしれないと恭也は考えていたが、逆にその少女はほっとした表情を見せた。

 良くも悪くも、人を疑うということを知らない女の子なのかもしれない。

 そう思うが、恭也はそんな人間を嫌いではなかった。

「えっと……、わたしにもちょっと……」

「はあ……そうですか」

 やはりこの少女は現状を把握していないらしい。

 一目見た時から、明らかに今の状況に戸惑っているようだったから、その答えは予想できていた。

 とはいえ、だとすればなぜこんな時間にこんなところにいるのだろうか。

 誘拐、には見えない。家出ということもなさそうである。寝転んでいたことから病気なのかとも思ったが、見る限りはいたって健康そうだ。存外、症状が目には見えない類の病気なのかもしれないが。

 恭也が己の思考の中で唸っていると、その少女はにっこりと笑顔を浮かべて恭也の手をとった。

 その笑顔と仕草に、恭也は思わずどきりとした。

 今まで感じたことのない感情だった。


「わたし、なのは。高町なのはっていうの。あなたは?」


 これは自己紹介ということらしい。

 とりあえず恭也はうるさい心臓を無理やり押さえつけて、その声に答えた。


「俺は、恭也。不破恭也です。よろしく」


「うん! よろしく、恭也くん!」


 本当に嬉しそうに裏表のない笑みを浮かべるなのはに、恭也の心臓はやはりひときわ高く跳ねた。







(思えば、あれが俺の初恋だったのか……)

 その後縁日を回り、敬語もそのうちなくなってずっと遊び歩いた懐かしい記憶。

 別れ際に渡したリングの正しい意味を知った時には、父さんをボコボコにしてやるために真剣でもって斬りかかったっけ……。

 実に懐かしい記憶だ。

 結局士郎は倒せなかったが、士郎はその後桃子によって叱られていたので恭也の溜飲はいくらか下がったが。

 しかし、出会って別れるまで実質一日しかなく、しかもその後九年ものあいだ会ってもいないというのに、いまだにこれだけ鮮明に覚えていることに恭也は内心で驚いていた。

 もうあの時の少女の正体は気付いている。彼女はもうあの時には気がついていたんだろうが。

 恭也は妹が生まれた時に、その事実を知ったのだ。

「信じられんが……話に聞く、平行世界とやらなのか」


 高町なのは。


 その名前はまぎれもなく、その一年ほどあとに生まれた自らの妹の名前に他ならなかった。

 それにこの九年の間に成長したなのはの姿は、まさしくあの時の高町なのはの姿とそっくりだったのだ。

 なのはが当時のあの少女と同じ年である六歳になった時、まさかと思っていた恭也の予想は確信に変わったのだ。

 最初はタイムスリップかもしれないとも考えたが、六歳となったなのははその一年の間一日いなくなったりすることはなかったし、何か様子が変わったこともない。

 そのことからタイムスリップ説は却下したのだった。

「……九年か……。もうそんなに経つんだな」

 しみじみと呟いてみると、その過ぎた月日の分だけ思い出が蘇るから不思議なものだ。

 その長い記憶の中でも、決して色あせることなく残っているあの一日の思い出。

 いまだにこの胸にくすぶっている、忘れられない少女の姿。

 ……何てことはない。

 高町恭也は、いまだにあの日の高町なのはのことを引きずっているのだ。

 初めて恋をした、好きな女の子として。

「ガラではない、が……こればかりはな」

 ふっと自嘲気味に苦笑して、恭也は黒一色の服を着込んでいく。

 もう会うこともあるまい、という気はしていた。

 なにせ平行世界だ。そうぽんぽんと行き来できるはずもない。

 もし出来るとすれば、あの快活で真っ直ぐななのはだったら次の日にでも会いに来そうだ。しかし、もう九年もたっているのだ。来れないか……あるいはもう忘れてしまったのかもしれない。

「……それでも残るものはある、か」

 余計な装飾のない部屋の片隅にある小さな机の引き出しを、すっと開く。

 そして、大切に保管されている薄い桜色のリボンにそっと触れる。

「………………」

 しばらくそうしていたが、恭也はおもむろにそのリボンを取り出すと丁寧に畳む。

 そしてそれをポケットにしまうと、静かに障子を開いて家族の待つリビングへと足を向けた。

 なぜ、今日に限って身につけようと思ったのだろうか、恭也にはわからなかった。

 だが、恐らくはあの日の夢を見たからだろうと結論付けて、恭也はそのリボンをポケットの上から軽くなでるのだった。








 恭也がリビングに入ると、そこにはもう既に全員がそろって各々の席についている光景があった。

「おそいよー、恭ちゃん」

「めずらしいですな、お師匠がこんな遅れるなんて」

「確かに師匠にしては珍しいな」

「おはよう恭也。あんたの場合は、まあたまには寝坊するぐらいがちょうどいいのかしらね」

「おはよう、お兄ちゃん!」

 それぞれがそれぞれの言葉を恭也に投げかける。

 まあ確かに普段は歳に似合わず早起きな恭也にしては珍しいことと言える。だがしかし、今日は美由希にも事前に鍛錬を休む旨を伝えてあったし、問題ないだろうと恭也は思う。

「ほら、とりあえず早く座りなさい。それと、朝に言うことは?」

「……おはよう、母さん。みんなも」

「はい。よくできました~」

 満面の笑みを浮かべて、桃子は食事前の音頭を取る。

「ではみんな揃ったことだし。手を合わせて~」

「「「「いただきまーす」」」」

 言葉と同時に青い風と緑の風が食卓の上で吹き荒れる。

 かちーん、という甲高い音と共に二人のお箸がとあるおかずの上で見事にかち合った。

「……おい、これは俺のだぜ。どきなドン亀」

「……そっちこそや。これはうちが目を付けたもんや。遠慮せんかいお猿」

 んだと? やるんかい、お? という一昔前のヤンキーのようなやり取りを視線だけでかわす二人。

 目と目で通じあってる時点で仲がいいんじゃ、という無粋なことは誰も言わない。言っても否定されるのは目に見えているし、桃子曰く「だって面白くないじゃない」ということだからである。

 そうしてとりあえず拮抗していた二人に、突然事態を動かす伏兵が現れる。メガネに黒い三つ編みの少女――美由希だ。

 美由希はすっとごく自然に箸を伸ばすと、これまたごくごく自然に牽制し合っているお箸の下をくぐって目当てのおかずをかすめ取る。

 ちなみにそのおかず、なぜか最初から一品しか作られていなかった。

 そしてなぜか桃子はそんな美由希の行動を見て、隠れてつまらなそうに舌打ちをした。

 付け加えると、今日の朝食は桃子が腕を振るったものである。

「あー! 美由希ちゃん、それは~」

「うちが食べよう思ってたのに……」

 美由希はそのまま口に持って行ったそれを美味しく頂いてから、二人に諭すように口を開く。

「だって、二人ともいつまでも食べないから。またいがみ合ってるとなのはが怒るよ」

「「うっ」」

 言葉を詰まらせた二人がなのはを見ると、なのはは可愛く頬をふくらませて私怒ってます、というポーズをとっていた。

「もうっ、二人とも! なんでご飯の時ぐらい仲良く食べれないんですか!」

「だってこいつが……」

「せやかてこいつが……」

「言い訳をしないの!」

「「はい……」」

 桃子はそんないつも通りの朝の風景を見て、楽しそうにくすくすと笑う。

 いくらか趣味の悪い楽しみ方をする時もある桃子だが、それも元をただせば家族としての楽しい時間をもっと感じたいからだった。

 家族で和気あいあいと食事をとる風景……。ああ、なんて楽しいのかしら!

 ……やはり、ちょっと方向性は間違っているのかもしれない。

「ホントあの二人も懲りないわねー、恭也」

「………………」

「……恭也?」

 普段から他人の気配やら何やらと反応するくせに、呼びかけても反応がないなんて、と訝しんで桃子は恭也の様子を盗み見る。

 すると、目に飛び込んできたのは恭也が憂いのある目で三人のやり取りを眺めている姿だった。

(……いえ、これは……なのはを見ているのかしら?)

 恭也の視線を詳しく辿ってみると、やはりいつもの説教劇を眺めているというよりは、なのはのことを見つめているように見える。

 しかし、あんな翳のある目でなのはを見るなんていったいどうしたというのだろうか。

 憂いを浮かべたセンチメンタルな目というか……なんだろう。なのはに何かあるんだろうか。

 気になった桃子はひとまず恭也に尋ねてみることにした。

「恭也、どうしたの?」

「……ん、ああ、母さん? どうしたんだ」

 いや、それはわたしが今言ったんだけど……。

「なんか、なのはのことじーっと見てなかった?」

「なのはを? ……気のせいだろう」

 桃子の言葉に、恭也はそっけなくそう返した。

 はて、気のせいではないと思うのだが……。

 桃子はそう思うが、恭也が違うと言う以上それ以外の回答は得られないだろう。本当に三人の様子を見ていただけかもしれないのだ。

 まあとにかく一応は納得して、桃子は朝の食事を再開する。

 かちゃかちゃと食器が合わさる音と、騒々しいながらも楽しげな喧噪。誰の顔にも笑みの絶えない食卓。それはいつもの高町家の風景だった。

「――…………」

 しかしそんな中において恭也の表情は相変わらず冴えず、泰然として落ち着き払った普段の彼の様子は食事を終えてもまだ見られることはなかった。









To Be Continued...?



カッとなってやったシリーズ第二弾。
当然、反省はしていない。そして、これ以上続くかどうかも未定です。



以下、拍手レス


>新作SSキターーーー!! 続き期待してますよ~~^^/
新作っていえるかはわかりませんけどねー。続き書くかはまだ未定です。これ以上やるかはどうかは・・・まあ、神のみぞ知ることです^^

>ふおぉぉ!?恭×なのぉぉぉ!!?ありがとうございます!!さあ、永久保存だぁぁ!! 
>すいません取り乱しました。雪乃さんはてっきりユー×なの派だと思ってましたが恭×なのが見れるとは
 
なぜかあまり見かけない恭也×なのは。需要はあると思うんですけどねぇ・・・。ユー×なのも好きですが、私はきょう×なのも好きなのですw だから問題ないのですよ~

>きょう×なの「A Past Day」続くんですよね?
一応、ひとつ続きは書きましたが・・・続くかどうかはまだ未定ですね~


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