まつろわぬ日々(リリカルなのは・クロノ転生)
4-3.5 「休暇前の兄妹模様」
※このお話は第三十六話内に表記した9月19日から9月末の間の話です。
「あ……クロノ!」
「ん?」
休暇申請を終え、今日の分の仕事も終わり、あとは自室に戻って休むだけだと本局の廊下を歩いていたそんな時。
不意に後ろから呼び止められたので振り返る。
すると、そこに立っていたのは、いつの間にやら俺の妹的立ち位置に収まることとなっていた少女。つまるところ、フェイトがそこにいた。
「どうした、フェイト。アルフは?」
「えっと……なんか、エイミィと話が盛り上がってるみたいで」
「ああ……」
俺はフェイトが立っている位置から少し離れた場所にあるエイミィの自室に目を向ける。
あいつは何を思ったのか、本局に部屋をとる際に俺の部屋からそう離れていない場所を取りやがったからな。もし俺の隣の部屋が空いていればそこに入るつもりだったに違いない。
まぁ、仕事上のパートナーという理由もあるのかもしれないが、あれは俺を弄りたいだけだろう。たまに料理を作りに来てくれるのには、正直助かっているけど。
ちなみに本局で俺が休める場所は三つある。一つは執務官ごとに割り振られる俺用の執務室。正確にはその中にあるプライベートスペース。二つ目は母さんが市街部に取ったマンションの一室。ここは専ら私的に人が集まる際によく使う。
で、最後の一つが本局内の局員寮とも言える居住空間である。基本的に俺が休む時はここを使う。
というか、エイミィも母さんも仕事を抱えている時に使うのは、ほとんど局員寮の一室だ。仕事が片付かない時は執務室のプライベートスペースで休む。
局員寮は寮と言いつつ男女別棟などの区分けがない。これは局員に年少の者も多いために、その生活のサポートをする人間がいる場合があるからだ。
しかし、これを利用して同棲を始めたり通い妻を地で行く真似をする輩が出たりもしているため、最近ではこれを見直そうかという動きもあったりしていた。
おっと、それは置いておいて。つまり、俺の自室の近くに女性士官であるエイミィが暮らしているのはごく当たり前のことなのだ。普通、寮っていうのはそういうことに気を遣うもののはずなんだが、低年齢就業の弊害が変なところに出ているもんである。
ちなみにフェイトとアルフにはそれぞれ局指定の部屋が割り振られている。まあ、さすがにそこまでの自由を許すほど管理局も緩くはないということだ。
で、フェイトとアルフはエイミィのところに遊びに来ていたようである。まあ、そのこと自体はよくあることだ。そして、そのまま俺の部屋に顔を出すのもよくあること。……やっぱり緩いのかもしれない、管理局。
まぁ、今回もきっと二人が話していて暇になったからこっちに来たとか、そんな感じなのだろう。
管理局の管理体制云々に関しては気にしないことにしよう。
いま考えるべきは、時間を持て余しているらしいフェイトへの対応なのだから。
そして俺が取った対応は、いつも通りのものであった。
「じゃあ、俺の部屋に来るか?」
「うん、お邪魔します」
というわけで、フェイトを伴って俺の部屋へ。
もはや俺やエイミィの部屋に来るのに何の遠慮もなくなったフェイトである。勝手知ったるとはよく言ったもので、俺が寝室に入って着替えている間に、フェイトはちゃっかりお茶を淹れるとソファに身を沈めて和んでいた。
慣れれば慣れるものだ。とても最初に来た時に所在なさげにおろおろしていた子とは思えない。お茶を淹れることもできずただ見ているだけだった子が、今では自分でお茶もコーヒーも淹れられるようになったのだ。エイミィたちの指導は確実にフェイトを成長させたようである。
遠慮するなと最初に言っておいたのがよかったのか、こうして何の気負いもなく自分の部屋のように楽にしてくれている。これだけ気を抜いてくれるようになったというのなら、これは喜ぶべきことだろう。
「あ、クロノはコーヒーだったよね? はい」
「おう、サンキュー」
フェイトからコーヒーを受け取り、フェイトの隣に腰を下ろしてコーヒーを一口含む。
……うむ。砂糖の量といいミルクの割合といい、まさに俺好みの味である。
美味いものを味わえば、おのずと気持ちも安らぐというもの。思わず表情を緩めた俺から美味しく出来たことを察したのか、フェイトも控えめながら微笑みを見せた。
「うん、やっぱり淹れるの上手くなったなぁフェイト」
「ありがとう、クロノ」
そう言って、自分もお茶に口をつけるフェイト。それを見ながら、もう一度コーヒーを飲む俺。そうして二人並んでソファに身体を預けて、ほうと息をつく。まるで今日の疲れが呼気とともに抜けていくようだ。
実に優雅で心安らぐ癒しのひと時である。
<……夫婦ですか、あなたたちは>
<兄妹だよ、悪かったな>
胸元で点滅するイデアの言に、もはや周囲にも定着しつつある認識を返す。
より正確には言えば兄妹のような関係となるのだが、もういちいち言うのが面倒くさくなってきた。いまさら照れなんてものもなくなってきたし、もう兄妹でいいや。
とはいえ、いま俺の隣にいるフェイトはプレシアのことをトラウマとはしていないので、母さんによる養子勧誘は行われていない。やったところで、フェイトは絶対に首を横に振るだろう。
つまり、俺とフェイトが戸籍上も兄妹になることはない。フェイトがテスタロッサ以外の姓を名乗るようになることは、これからもありえないだろう。
「あ、そういえばクロノ」
「……ああ、なに?」
思考にはまっていたせいでフェイトの呼びかけに応えるのが遅れてしまう。
しかし、フェイトは気にしていないようで、そのことについて何かを言うこともなく話を続ける。
「えっと、昨日地球に行ってたんだよね。なのはの様子とか、その、どうだった?」
改めて聞くのは少しまだ慣れないのか、フェイトは少しだけ気恥ずかしさのようなものを見せた。
もともと人見知りの嫌いがあったフェイトだが、今では俺やエイミィたちだけじゃなく、基本的に誰とでも接することが出来るようになってきている。しかし、初めての友達というものはやはり特別なのだろう。
実に初々しい様子を見せる妹分に微笑ましく視線を向けつつ、問われたことに答える。
「とりあえず、変わらず元気そうだったな。ああ、あとはなのはの訓練メニューに俺が手を加えることになったりした」
「え、クロノが?」
びっくりしたのか目を丸くしたフェイトに、曖昧に頷く。
「まぁ……ちょっと、これは見ておかないとマズイかなと思えたからな。あやうく本人すら気づかないうちに身体に負担をかけるところだった」
≪その点に気づいた私たちが、少し手を貸すことになったというわけです≫
なのはが空気中の魔力素を積極的に利用している件のことである。
集束に特化したなのはの才能は、はっきり言ってミッドの常識からすればありえないレベルの才能だ。まさに天才と言っていい。
それは本来リンカーコアから生み出される魔力を利用するだけが基本の魔導師にあって、なのはは空気中に存在するまだリンカーコアを介していない魔力すら利用していることからもわかる。
そのあまりの希少性ゆえに、容易に喋るわけにもいかないほどだ。
自然、その件については詳しいことは言えなくなる。今のようにぼかして話したのはそのためだった。
「そうなんだ……。大丈夫、なんだよね?」
さすがに身体に悪いことをしていると聞いて、心配になったらしい。
しかし、そんな不安げに眉を下げたフェイトに向かって、俺は大丈夫だと返した。
「今はまだ全然問題なかったから、心配するな。これから無理をするようなことがなければ、何の問題もない。それに、成長して身体のほうが成熟すれば、そんな懸念自体しなくてよくなるしな」
≪安心してお任せください≫
俺たちがそう言うと、フェイトはほっとしたのか溜め込んでいた空気を一気に吐き出した。
「そっか……よかった」
まるで我がことのように安堵感を見せるフェイト。
やはりこの子は優しい子である。プレシアという原作では彼女の消せない後悔となっていたものが無いだけに、その優しさは明るさとなって表に出ていた。
それは人見知りしなくなった性格から見ても明らかだった。
これまで一つのことに精一杯で視野狭窄だったせいか、今では多くのことに興味を持って首を突っ込んでいるみたいである。エイミィに管制の仕事について聞いたり、母さんに管理局について聞いたり。
嘱託魔導師試験を受けたのも、なのはの助けとなることや贖罪という意味合いに加えて、単純に働くということに興味があるみたいだった。
そういう積極的なところは、わずかな差異ではあるが俺が知るフェイトとの確かな違いだろう。
そういう自分の興味を押し隠すことなく見せられるようになったからこそ、こうして自分の感情もそのまま出すことが出来る。
もともと優しい性格だったのだろう。そういった優しさを素直に見せるフェイトを、彼女を知る誰もが可愛く思っていた。
そしてそれには俺ももちろん当てはまる。特に俺なんかは会う機会も多いだけに、実はかなり可愛がっている。それこそ妹だと公言してもいいぐらいに。まあ、してないけど。
口に出してはいないが、フェイトはもう完全に身内という認識だ。まさに妹。こんなに可愛い妹を持てる俺は、きっと特別な存在なのだろう。
ちなみに後年。俺のフェイトに対する猫可愛がりっぷりは口に出すまでも無く周知のことだったと知り、俺が激しく悶絶することになるのは余談である。
「クロノ、なのはのことよろしくね」
お茶の入ったマグカップを手に持ったままこちらを見るフェイトは、なのはに会いにいけない自分を歯がゆく思っているようだった。
マグカップを持った指先が、ゆらゆらと揺れている。落ち着きが無いその様子は、フェイトのそんな内心を映し出すかのようだ。
だから、俺はそんな妹分の頭に手を置き、いつものように笑顔を見せた。特に意識することもない、いつもどおりの顔を。
「任せとけ」
そう一言告げると、フェイトはまた安心したように、うんと短く頷くのだった。
それから暫く二人でだらだらと過ごした後、俺は長い休暇を取って他世界に出かけることをフェイトに明かした。
それを聞いたフェイトは驚いたようだが、それでも休暇と聞いて「クロノは働きすぎみたいだから、ちょうどいいのかも」と笑ってくれた。
そして、ゆっくり休んで楽しんできてね、と言ってくれたのだった。
その言葉を恐らくは守れないだろうことに心は痛んだが、それでも俺はフェイトに、頷きを返すことしか出来なかったのである。
==========
あとがき
最近フェイトの出番がないのでフェイトを出したかっただけです。
ついカッとなって書いたが、後悔はしていない。
最近、真面目な話ばかりでネタがあまり出ないのが寂しい……。
ここは逆を突いてシリアスばかりの本編にネタを盛り込もうかな。
もし本当にそうなっていたら、指を指して「シリアル(笑)」と笑ってやってください。
それはシリアスじゃなくて、シリアル(笑)でしょうから。
今回はミニSSですので、本当にちょっとしたお話です。
独自設定とかには突っ込まないでいてくれると助かります。
フェイト可愛いよフェイト。
それでは、また次回もどうかよろしくお願いします。
久しぶりのフェイト登場。でも彼女が本格的に出てくるのはまだ先になりそうだなあ……残念。
テスタロッサ性が変わることはない……そんなことはない!クロノとくっついちゃえば立派にフェイト・ハラオウンになるんだぜ!
フェイトかわいいよフェイト。同感です。
これからも更新期待して待ってます。
とりあえずノリの赴くままに書きましたw
フェイトは本編ではもう少し先に本格的に出てくることになるでしょうねー。
クロノとくっつけば確かに姓は変わりますね。
まあ、くっつくかどうかはわかりませんがw
未だにヒロインをどうするかで迷っている今日この頃。
そのうち決めないといけませんよね…。
>mashitoさん
なぜなら彼女もまた特別な存在だからです(妹的な意味で)。
フェイトが可愛いです、可愛いんです。
きっとクロノも同意してくれるよね!W
いまのとこお互いの好感度が一番高いのはやっぱりエイミィな気がする。
ただ原作よりもお姉ちゃんしてるエイミィお姉ちゃん。
…あれ?
フェイト:妹
エイミィ:姉
クロノに超シスコン疑惑がW
劇場版、休みが無い…orz
フェイト繋がりにて、今年の東京オートサロン行ってきました。コラボ車として、マツダFD3Sフェイト仕様の痛車を写真に納めてきましたww
フェイトかわいいよフェイトw
こんな妹が居たら、そりゃあ可愛がるでしょうねー、きっと^^
今回はノリで突っ走ったので、次は遅れるかもですけどねー;
>織さん
勢いでやっちゃいましたw
でももう書けない……。休憩しないと;
クロノはシスコンではない!
ただ姉と妹を大事にしているだけだ……!(ぇ
ちなみに現在の好感度をランキングにするとこんな感じ↓
1.エイミィ
2.チンク
3.フェイト・なのは
何気にフェイトとなのはは同じぐらいだったり。
ヒロイン、本当にどうしようかなぁ。
>是或さん
劇場版、ホント何度行ってることやら^^;
おお、その痛車は見たい!
誰かフェラーリのテスタロッサでやってくれたりしないかなぁ。
>フツノさん
けど、たぶんこんな勢いの更新はここまでです^^;
とりあえずお待たせしていた分、たくさん頑張ってみましたので。
なのポのアレ……? アホの子のことか……アホの子(雷刃の襲撃者)のことかーー!
>俊さん
ハーレム……個人的には嫌いなんですけど、それもアリなんですかねぇ?
選択肢としては
1開き直ってハーレム
2選びきれず二人
3一途に一人
ってところですか。
うーん、どうでしょう。悩みます。
ハーレムエンドを望む声が多いなら、という条件つきですけどねw
以前どこかで書きましたが、私はハーレムは苦手で二人までなら何とか…という感じですので。
ちなみに他の三人を相手に選んだとしても、ロリコンじゃないですよ^^
なのはとフェイトなら、当然ある程度の年齢になってからですね、そういう話は。
チンクに関しては……合法ロrうわなにをするやめ(ry
「誰とくっ付くんだろう?」と思うのは楽しいですが、「どうせくっ付くんだろ」になってしまうと、ドキドキ感が絶望的に足りない。
ルートが決まっていては、作中でどれだけ本人が葛藤してても見てて冷めちゃいますしね。
それは兎も角フェイトが可愛かった。
うーん、考えてみればその通りですね。
カップリングについては、自分で色々考えてみようと思います。
ご意見ありがとうございます。
というわけで、カップリングについては、楽しみにしていてください^^
そしてフェイトかわいいよフェイトw
いやぁ、この連続更新嬉しいなぁ。
そして、フェイト可愛いなぁ…ああ、映画見に行きたかったなぁ…@在住地の問題です。
上でも結構色んな方が言われてますね、ハーレムw
なったら嬉しいっちゃ嬉しいけど…みんな、ユーノとか忘れないで!w
そうそう、ソードダンスと言えば、あんなノリで恭也さんも参戦しないのかなぁ?
こう、こっちのクロノ君は接近戦型だし、学べる者があるなぁ面白いかなぁって…いえ、自分が刀好きーなだけですが。
のんびり、楽しみにまってまーす
私も最近、久しぶりに読もうと思って訪れたサイトが閉鎖していて落ち込みました…。
連続更新、楽しんでもらえたようでよかったです。
映画は上映された映画館が近くにないときついですよね。私も近くにないですが、大学に通う際の定期のおかげで行くことができました^^
そしてカップリングは悩みますね。無印・A'sはヒロインズの年齢的に無理があるので、もう少ししたら恋愛も絡めていきたいですね。
ユーノ……ん、だれ?(ぇ
ちなみに恭也はほぼ間違いなく参戦しませんねー。
クロノも接近とはいえ拳を使う超近接ですから、剣術を習うことはたぶんありません。すみません。
続きが書けたら、ぜひまた読んでやってください。よろしくお願いします^^
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