幕間5 無印~A's
その日、俺はフェイトとアルフと一緒になのはから送られてきたビデオメールを見ていた。
「なのはは相変わらず元気そうだな」
「うん。それに、アリサとすずかの二人も楽しそうだね」
画面の中で三人が仲良く近況を話しているのを見ながら、俺達は雑談を交わす。
笑顔や困り顔、少し怒ったような顔も交えて、実に見ていても楽しい。フェイトもつられて表情が崩れているぐらいだ。
「あのアリサって子には、いつかお礼を言わなきゃならないねぇ」
なかなか成績が伸びなくてー、と言って笑うなのはの頬を、理数なら私より上のくせに! と何故かキレたアリサが引っ張る姿を見ながら、アルフが言う。
アルフは以前に一度アリサに拾われ、傷の手当を受けたことがある。そのことを言っているのだろう。アリサが活発に話す姿を見て、目元を下げていた。
そうして画面を見ていると、フェイトが顔だけくるりと動かして俺を見た。二つにまとめられた長い金髪が宙を舞う。
「ね、クロノ。あのお話は、大丈夫だった?」
「ああ。ちゃんと通しておいたよ。AAAランクで実戦経験済みの使い魔持ちの魔導師って言ったら、むしろ喜んでだってさ」
「よかった……。それに通ったら、早くなのはに会えるんだよね?」
「ああ。管理局――ひいては社会への積極的な奉仕とみなされるし、何より異世界での行動もかなり自由になるからな」
「そっかぁ……ありがとう、クロノ」
本当に嬉しそうに笑って、フェイトは礼を述べる。プレシアの本心を知ったからか、フェイトは随分と明るくなった。今みたいに満面の笑みを浮かべる姿も珍しくない。
俺やエイミィなんかと遊び、なのはと連絡を取り合い、フェイトは本当に楽しそうだ。アルフなんかはそんなフェイトを見て最初は涙ぐんでいたぐらいなのだ。実に良い傾向だと俺達も温かい気持ちで今のフェイトの状態を歓迎していた。
そして今フェイトが嬉しそうに話していたのは、嘱託魔導師試験の話だ。
なのはに会いたいというフェイトの願いと、出来るだけ早くそれもフェイトに罪が行かないようにして裁判を終わらせるという俺たちの考え。その両方を考慮してとられた手段が、フェイトの嘱託魔導師としての入局であった。
管理局に入ることで、社会への強い貢献意志をアピールできるし、万年人材不足の局としても若くて優秀な魔導師は喉から手が出るほど欲しいのだ。社会貢献意志ありというのは裁判で非常に有利になるし、なにより好印象に繋がるのは間違いなかった。
それはつまり裁判がより迅速に進むことになるし、嘱託魔導師として管理局預かりとなれば異世界での行動制限がだいぶ緩くなる。つまり、地球に行く時間が速くなると同時に現地での行動を束縛されなくなるのだ。これほど都合のいいものを利用しない手はない。
というわけで、母さんやレティさんといった人脈を駆使してフェイトの嘱託試験をセッティングしているというわけなのだ。実際に試験が実現するのは恐らく九月頃。約一ヶ月後になるだろう。
「ま、お礼なら俺よりも母さんに言ってやれ。色々やってくれたのは、俺よりも母さんだから」
実際のところ俺はフェイトからの要望を母さんに伝えただけで、嘱託試験は母さんが言い出したことだ。そしてそれをレティさんに伝えたのも母さん。俺はほとんど何もやっていないと言っていい。
しかし、そんな俺の心情に反してフェイトは首を横に振った。
「ううん、クロノが仕事の合間を見つけては私にわざわざ付き合ってくれてたの、私はよく知ってる。私が過ごしやすいようにってすごく気を使ってくれてたの、知ってるから。……だから、私の話を聞いてそれを叶えようとしてくれたこともだけど……これまでのことも、全部。ありがとう、クロノ」
だから、そういう率直な言葉には弱いんだって俺は……!
「……ま、まあ……俺はお前の兄貴みたいなもんだしな」
自分の頬が赤くなるのを自覚しつつ、俺は苦し紛れにそう返す。そんな俺を見て、フェイトは笑った。
「うん、そうだね。クロノは……本当に、お兄ちゃんみたい」
言って、フェイトは照れたように頬を染めた。
……だから、そういう態度でこられると本当に俺は弱いんだって。
お互いがお互いに赤くなった奇妙な空気が室内を包む。気まずいような、むずがゆいような慣れない感覚。兄妹なんていなかったから、どう接していいのかなんてわからんって!
と、そんな俺達を離れて見ているアルフと、その手に握られたイデアは。
「……なんだかねぇ。もうとっくに兄妹みたいなもんだったじゃないか」
≪無自覚なままと自覚するのは違うということでしょう。まあ、マスターの場合はとっくに妹認定していたけど改めて言われて恥ずいってところでしょうが≫
おいうるさいぞそこ!
何やら勝手なことを言いあう二人を睨め付ける。
しょうがないじゃないか! だって義理の妹だぞ! フェイトが養子になったわけじゃないけど、義理の妹ってフレーズに反応してしまうのはごく自然なことなんだよ!
わかるだろう、イデア!
≪エロゲ脳ですね、わかります≫
ちょ、激しく待てイデア。俺は義理とはいえ妹に手を出すような男じゃない! フェイトは俺にとって本当に妹なのだ。そこを間違えるなよ!
テンパりつつも内心でイデアに猛抗議を繰り広げる俺。まだ照れているフェイト。呆れ気味のアルフ。そもそも表情がないイデア。そんなぐだぐだな感じになって来た室内に、ビデオメールから流れる音声だけが空しく響き渡っていた。
『あ、そうそう。クロノくん、そのうちでいいからまた家に来て欲しいの。忙しくない時でいいから、よろしくねー』
なぬ?
■
と、いうわけで。
ビデオメールをもらってから少々間は開いたが、呼ばれたのでやって来ました高町家。
いったい何の用なのかは知らないが、まあ特にやることもなかった休日なので時間を潰せるなら何だって気にしない。
そんなわけで、特に気負うこともなく高町家の前で呼び鈴を押す。
ピンポーン。
変わり映えのしない音のあと、ドアの向こうからはーいと応えるなのはの声。
少ししてドアが開かれると、そこには予想通り俺を迎えに出てきたなのはがいた。
「おひさー。呼ばれたから来たけど、どうかしたのか?」
俺が片手をあげて親しげに話しかければ、なのははにっこりと最高の笑顔を見せてくれる。
「クロノくんはいい友達だったけど……クロノくんの持っているものがいけないんだよ」
は?
突然どこぞの大佐のようなことを言い出したなのはに困惑する俺だが、それに構わず、なのはは大きく息を吸い込んだ。
「お兄ちゃーん! クロノくんがいじめたのー!」
「な、なんだとぅ!?」
このお子様はいったい何をいきなり!?
というか、いま凄くヤバイものを召喚する呪文を唱えなかったか!?
「ほう……俺の妹に手を出すとは、君のことを見誤っていたようだな」
「ひっ……!」
い、いつの間に後ろに……!?
さっきまでは確実に後ろになかった人の気配に、自然身体がこわばる。なにしろ、冗談ではないほどの圧力が俺へと注がれているのだから。
「道場に行こうか。君のその性根、鍛錬を通して矯正してみせる」
「ちょ、き、恭也さん!?」
淡々としゃべるのが逆に凄く怖いんですけど!
ああ、っていうか襟引っ張らないで! おい、マジで恭也さんと鍛錬という名の拷問を受けなければならないのかよッ!?
ずるずる引きずられていく俺を見つめる、一対の幼い瞳。ただただ笑顔でこっちを見ているなのはに、俺は心底悔しげに恨みの声を投げつけた。
「は、はかったな、なのはぁッ!」
なのははひらひらと手を振るだけだった。
悪魔め……!
「いつつ……さすが恭也さんだ……」
痛む身体をさすりながら、俺はソファの上で苦笑する。
さすがに恭也さんも本気ではなかったのか、身体に大きな傷はついていないが、俺が必要以上に対抗できてしまったせいで(もちろん魔法は使わずに)、恭也さんの気が乗ってしまったらしい。以降は本格的な鍛錬になって、頼んでもいないのに鍛えられてしまった。
そのせいで軽くお灸をすえるだけのつもりが、かなり俺を痛めつけることになってしまったようだ。いやまあ、俺も御神流を目の前で見れて色々役得だったからいいんだけど。
ただ、恭也さんは鍛錬が終わってからしきりに申し訳なさそうにしていた。むしろ得だったと思っている俺としては、心苦しいものがあったりしたんだが。
「いててて!」
それでも、身体の痛みは別物だ。こればかりはどうしようもないが、立ち上がるだけで腕や腹が痛むのは考えものだった。
「あ、動いちゃダメだよ。いま湿布とか持ってきたから」
ぱたぱたとスリッパの音を鳴らしながら、なのはが救急箱を抱えてやって来る。
ほら座って、と言われて俺は素直にソファに腰をおろした。その際にまた痛みが走ったが、慣れてきたのかさっきほどではない。声に出すことぐらいは我慢できた。
なのははそんな俺の前に立って、救急箱から湿布や軟膏を取り出す。そしてこっちに向き直った。
「クロノくん……えっと、服脱いでくれる?」
「いや、それはちょっと……。というか、やっぱり恭也さんに頼んだ方が良かったんじゃないか?」
さすがに女の子の前で喜んで肌を晒すほど常識知らずではない。
さっき恭也さんも自分が傷つけたのだから自分が治療すると言っていたのだが、なぜかなのはが強硬に自分がすると主張してこうなってしまったが、自分としては同性の方が気軽でいい。
そう言っているのだが、なのはは譲らない。
「ううん、私がやるよ。だって、クロノくんをこんなに傷つけたの、私のせいだし……」
しゅんとなって落ち込んだ。その姿を見ては、俺もやめろとは言いにくい。
「わかったよ。それじゃあ、よろしく頼む」
「う、うんっ!」
上の服を脱いで、待機する。なのはは特に頬を赤くすることもなく、いたって普通に軟膏を手に乗せて俺の身体に塗り始めた。ひんやりとした感覚が気持ちいい。
なのはは、どうやら恭也さんをけしかけてしまったことに責任を感じているらしかった。
なのはは恭也さんや美由希さんが剣においては達人級であることを知っている。また、本人に手加減を上手く出来るかどうかも事前に確認して今日に臨んでいたらしい。俺にお仕置きをしたいがために、というところが実にアレだが。
だが、俺がそれなりに強かったために恭也さんはつい力が入って、本当に鍛錬が始まってしまった。その結果、俺はこうして怪我をしたわけだ。
俺自身は気にしていないが、なのははそうはいかなかったらしい。自分がけしかけただけに、恭也さんを怒るわけにもいかず、結局自分のせいということで落ち着いたようだ。
で、責任を感じて自分が治療すると言い出した、と。
9歳児のくせに、難儀な性格である。
ちなみに上半身だけとはいえ男の裸を見ても平気なのは、恭也さんや士郎さんが鍛錬のあとなどに普通に上を脱いでいるからだそうだ。恥ずかしがらせたかったわけではないが、ちょっとだけ残念だった。
「……ごめんね、クロノくん」
軟膏を塗り終わり、湿布の透明な保護膜をはがしながらなのはが言う。
俺はそれに、やれやれとばかりに肩をすくめて見せた。
「別に気にしてないって。恭也さんとの鍛錬は俺にも得るものがあったし、むしろ感謝したいぐらいだ」
俯きがちに湿布を貼っていくなのはの頭に手をやって、ぐしゃぐしゃにしてやる。
「ぅにゃ、にゃっ! く、クロノくん?」
一時湿布から手を離し、なのはは乱れまくった髪のままで俺と目を合わせた。
「だから、気にするなって。俺も前のビデオでからかったし、これでイーブンだ。オーケー?」
なのはは一瞬、何を言われたのかわからないと言った表情を見せたが、すぐに小さく噴き出して控えめな笑みを浮かべた。
それに応えるように俺も笑顔を見せると、重苦しい雰囲気は消え去って和やかな空気がリビングに戻った。
「うん、ありがとうクロノくん」
「気にすんな」
俺がもう一度同じことを言う。
それになのはは笑顔でうんと頷いて、新しい湿布をぺたりと俺の身体に貼り始めるのだった。
さて。なのはによる治療が終わり、俺はいま再びなのはの部屋に来ている。
何故かというと、どうやら俺に自分の魔法の術式やら何やらを見てほしいということらしい。ユーノに習っていた頃から、ユーノは他人の意見は大事だとなのはに教えてきたらしく、なのはは人の意見をずっと聞いてみたかったのだという。
ユーノはなのはの魔法に最初の頃から関わっていて、他人とは言い難い。正確には他人だが、深くかかわってきたために客観的かつ忌憚のない意見が聞けるかというと、怪しくなる。本人も出来れば全く関係ない人がいいと言っていたようだし。それに今ユーノは本局のほうにいて、傍にいないしな。
となると、なのはにとって魔法に関わりのある人物と言えば、あとは俺・フェイト・母さんあたりしかいない。その中で、フェイトは裁判の為自由に動けないので却下。母さんは立場上俺よりも忙しいし軽々しく管理外世界まで行くことはできない。
その点で俺は執務官という立場もあって、異世界での活動に関する制限は少なく、忙しいことにかわりはないが、母さんよりも休みは取りやすい。
そんなわけで、俺に自分の魔法を見てもらうことがなのはの本来の要件だったらしい。
「……てっきり、俺を仕留めるためだけに呼んだのかと……」
「うう、謝るけど、仕留めるってひどいの……。本当に、そんなつもりじゃなかったんだからね?」
「はいはい、わかってるよ」
その件についてはさっき解決済みなので深くは聞くまい。
なのはからクッションを受け取り、それを敷いて床に座る。なのはも同じようにして座り、ユーノがいない以外は前回と同じ図式が出来上がった。
「それで、術式の勉強がしたいんだっけ?」
「う、うん。えっと、レイジングハート? 魔法の術式とか出せるかな?」
≪All right, my master≫
なのはの手の上でレイハさんが明滅し、空中にデータを映し出す。ちゃんとわかりやすく魔法ごとにウインドゥを分けてあるのは、レイハさんの気遣いだろうか?
「ふむふむ……」
≪私も見てみますね≫
イデアと一緒になって表示されたなのはの魔法の術式を見てみる。
登録されている魔法は、プロテクションのような基本魔法類を除けば「ディバインシューター」「ディバインバスター」「レストリクトロック」「スターライトブレイカー」の四つだけ。
そういえば他に色々出てくるのは、カートリッジ積んでからだっけ。今の時点ではオリジナル魔法はこれだけということらしい。
そしてそれらのデータに目を通した結果、俺から言えることは一つしかないということがわかった。……よくもまぁ、こんなふうに魔法が組めるものだと。
ウインドゥに寄せていた顔を離し、ふぅ、と一つ息をついた。
「ね、クロノくん。どうかな?」
何を言われるのか、ワクワクしたような表情を隠さずに聞いてくるなのは。自分がこれまで一生懸命に取り込んできたことなのだ。その評価を聞くのが楽しみなのだろう。
だがなのは……俺がお前に言えることは一つだけだ。
「なんという力任せ。幼女とは思えない力技に全俺が泣いた」
≪例えるなら野良のポケモン痛めつけて、モンスターボールで無理やり従わせてるようなものですね≫
「ぇ、ええええ!?」
俺たちの言葉を聞いて、なのははおおげさに驚いてみせてくれた。明らかにショックを受けてますって顔をしているのは、少しはいいこと言われるかもって期待していたんだろうか。
だが、甘いな。甘すぎるよ。
「要するに魔力を無理やり集めて、強引に形にして、それをぶっ放してるってのが今の感じかな。唯一理論的な魔法はレストリクトロックだな。けど、これにしたってレイハさんが持ってるデータとユーノのアドバイスの賜物だろ?」
≪ディバインシューターのような魔法は、他の魔導師にとっても「数揃えて撃てればいいや」というある程度力技の魔法ですからいいですが、それ以外の二つはかなり強引ですね≫
「特にこれ……訓練履歴の体内魔力量とか見てみると凄いな。バスターは三割、ブレイカーは七割が外部の魔力に頼るのが前提って。本当にリリカル世界の住人かよ。足りない分は外から持ってくるとか……型月の魔術師じゃね?」
≪なのはさんが集束に長けているのは知ってましたが、ここまでの才能だったんですね……。ユーノさんが入れ込むはずです。自然魔力をここまで効率的に利用できるなんて、もしこれを普遍技術として確立させられれば、魔法文化に革命が起こりますよ≫
「こっちの魔法は完全に個人の資質だのみだからなぁ。オドだけじゃなくマナも使えるとなったら、今の高ランク魔導師主義がだいぶ薄れるな。……っと、まあそれはいいや。とにかく、お前の魔法は相当に力任せだってことだな」
≪しかもそれが効率的なものですから、困りものです。ある意味で理に適っているから、ユーノさんも何も言わなかったのかもしれませんね≫
気づいてなかったっていうのは、たぶんないな。合理的に判断した結果、このままでいいと思ったのだろう。
実際、俺だってレイハさんからデータ見せてもらうまでは気づかなかったし。確か原作ではなのはは入局して武装隊入り、その後教導隊に行く、だったか。どこかで研究者に魔法の術式とか見られてたら危なかったかも。これ、研究対象にするには十分すぎる。
管理局で義務付けられる診断とかって、リンカーコアを中心に見るだけで、魔法の構成までは見られないからな。そこは個人の自由になっている。なのはのリンカーコアは見た目普通だから、原作でも表に出ることはなかったのだろう。
まあ、事実を知った周囲が隠したって線もなくはないが……たぶん、知らなかったんだろうなぁ。人に自作魔法の構成見せる機会なんて絶対ないし。教導でだって見せねえよ。教導官の魔法は自分に合わせたものばかりなので、ピーキーすぎて参考にならないからだ。
それならまだ見よう見まねで自分で組んだ方が、よほど自分に合った効率的な魔法が組める。俺だって、教導官の魔法を真似しようとは思わなかったし。
そう考えると、原作のなのはって運が良かったんじゃないだろうか。スカさんにバレてたら、確実に仮面ライダーコースだろこれ。改造的な意味で。
「さすがは主人公。補正がマジパネエっす」
「え?」
俺の呟きになのはがきょとんとした顔をする。それに何でもないと返して、俺はなのはの真ん前に陣取った。
「さて。結論として、お前の魔法は今のままでは相当危なっかしいことがわかった。よって、これから俺とイデアが考えた訓練を課そうと思う。異論は認めない」
「ええ!? な、なんで!?」
突然の修行フラグになのはが慌てだした。基本、運動苦手だからなこの子。でも、放ってはおけんでしょこれは。
今気づいたけど、なのはが落ちたのってこれも一因だよ絶対。他の魔導師は慣れ親しんだ自分の魔力を用いるから負担は少ないが、なのはは違う。外部魔力の集束に特化し、それを前提に組んだ魔法を使い続ければ、当然身体は慣れていない外部の魔力を受け入れなければならない。それは普通に魔法を使うよりも負担になるはずだ。
そこに過労が重なれば、油断していなくてもそりゃ落ちる。ここで何とかしとけば、あの事件が起こらない確率が高くなる。ここは是が非でも頑張ってもらおう。
「理由はだな……要するに、お前は自然の中に含まれる魔力を自分の魔法に組み込んで使っているんだ。ここまではわかるな?」
「う、うん……」
なのはが頷くのを見て、俺は言葉を続ける。
「本来、魔導師はリンカーコアが生成する魔力を元にして魔法を使う。つまりは才能頼みだ。だからこそ高ランク魔導師が優遇されるんだが……まあ、それは置いておこう。それに対して、お前は全部ではないにしろ外の魔力を無理やり集めて使っている。これが、実は危ない」
「危ないって……?」
「今言ったように、本来魔導師は自分の身体が作り出す魔力を使っているんだ。自分の身体で作ったものだから、自分に一番合った魔力をいつも使っていることになる。けど、お前はそれ以外にも外部からの魔力を積極的に使っている。それは、本来の魔導師よりも大きな負担になる」
例えるなら、魔導師がリンカーコアで生成する魔力を「体内菌」、外部の魔力を「体外菌」あるいは「病原菌」とすればわかりやすいだろう。
人間の体内には細菌が棲んでる。しかし、その小さな生物はよっぽどのことがなければ、宿主に害をなすことはない。それは人間が生きるうえで欠かすことのできない存在でもあるのだ。
しかし、身体の外から外部の細菌が入って来ると、途端に体は変調をきたす。人間の身体に合わないものを取り込めば、同じ微生物といえど、人間にとっては害なのだ。
魔力にも同じことが言える。そりゃあ自然魔力はウイルスのように毒性を持っているわけではないが、自分の身体に違うものを取り込んでいるという事実は一緒だ。負担になるのは間違いない。
原作でそれ以降も気にせず魔法を使い続けているところを見ると、リンカーコアが成熟すればそういった耐性も付くのだろう。特になのははそういった魔力を普段から使っているのだから、いずれ耐性がつくのは間違いない。
問題は、それまでに無理をすればあの事件が起こるということだ。
とまあ、事件云々のことは抜いてそれらの話を聞かせると、なのはには結構衝撃的だったのか、白い顔をしていた。
む、ちと脅しすぎたか。
「まあ、要するに身体が成熟するまではバカスカ撃つなってことだ。普通に使う分には影響はない。というか、耐性をつけるためには使ってもらわなきゃな。けど、無理をしたら意味がない。そこらへんを考慮したメニューをイデアと作るから、それに沿ってやってくれってことだ」
≪幸いレイジングハートがいますので、体調管理などは任せても大丈夫でしょう。なのはさんはそのことを意識の片隅に置いて、今まで通りに訓練してくれれば大丈夫ですよ≫
≪Please leave it(任せてください)≫
イデアとレイハさんも後に続く。
それらの話を聞いて、なのはは少し安心したのか、ほっと息をついていた。
「えっと……大丈夫、なんだよね?」
それでも恐る恐る聞いてくるのは、まだ少し不安があるからか。
俺はそれを見て、ちょっと尻込みしている様子のなのはの両肩に勢いよく手を置いた。びくっと肩を震わせるなのはの目を真っ直ぐに見て、俺は安心させるように口を開く。
「大丈夫だ! 何を隠そう、俺は訓練(を受けさせる)の達人だ!」
≪私も何を隠そう、教導プログラム作成の達人です!≫
≪――Don’t worry, master(安心してください、マスター)≫
俺たちが揃ってそう言えば、なのははポカンとするも、次第に可笑しそうに笑いだした。
そんなに某核鉄を命に代えた男の真似は可笑しかっただろうか。もしくは元ネタを知っているとか? 9歳児が見るにはちょっと厳しい表現とかキャラが出てくると思うんだけどなぁアレ。蝶人的な意味で。
大口開けて、というわけではないがひとしきり笑った後、なのははレイジングハートを手に持ち、イデアと俺に向かって小さく頭を下げた。
「うん。これからよろしくお願いします」
それからは大凡の内容を詰めたり、話を聞いたりして時間を過ごした。
あと、ユーノがそういったことに気付けなかったのは、仕方がなかったということも理由をつけてフォローしておいた。実際それ以外のユーノの指導は正しいものばかりだ。なのはの魔法の腕は確実に上がっているし、なのはの身体に負担をかけない方法をところどころで試していた節もある。
ユーノ自身も何とかしようと試行錯誤していたのがわかって、あいつの真面目さを垣間見た気分だった。メニュー作りの時にはユーノにも協力を頼むつもりだし、頼りにさせてもらうとしよう。
それらの話もだいぶ落ち着き、俺達は気分を変えようと一階に降りてリビングでくつろいでいた。
お茶を飲み、お菓子を食べ、だらりと過ごす。人様の家なので、そこまでぐだーっとはしないが、やはり気を抜ける時間というのは得難いものである。
そんなふうに緩やかな時を楽しんでいると、玄関からガラガラと扉が開かれる音が聞こえてきた。
まだ翠屋はやっているはずだから、美由希さんが帰って来たのだろう。
その予想は違わず、少々の時間を置いて美由希さんがリビングに姿を現した。
「ただいまー。いやぁ、今日は新しい本が入っていたみたいでちょっと長居しちゃった」
図書館に行ってきたらしく、バーコードつきの本を数冊掲げてみせる。そういえば、読書少女だったな、美由希さん。
「おかえりなさい、お姉ちゃん。ほら、早くドアの前からこっちに来て。お客さんが入れないよ?」
「あ、そっか。ごめんね」
お客さん?
俺は疑問を覚えつつ、誰だろうととらはの登場人物を頭に浮かべながらお茶を飲む。
「なのはちゃん、またお邪魔するで~」
「こんにちは、なのはちゃん」
「ぶふゥウ――――ッ!!」
俺は盛大にお茶を吹いた。
「うにゃぁ!? く、クロノくんどうしたの!?」
ティッシュティッシュ、と慌てて箱ティッシュを取りに行ったなのはだが、俺はそれを気にする余裕がまるでなかった。
目の前にいる車椅子に乗った関西弁幼女と、金髪で温和な面持ちのママさん的女性。この二人の存在のせいで、頭の中が完全に混乱してしまっているからだ。
な、なんではやてとシャマルが高町家に来るんだよ!?
続
==========
あとがき
200万HITありがとうございまーす!
記念というわけではないですが、色々更新してみました! 本当はきょうなの更新する予定だったんですが……ネタが浮かばず、あえなく断念。拍手の方の短編で勘弁してください。
さて、今回のお話もまさにTHE幕間という感じのお話です。
けど、はやて出しちゃいました☆
考えなしに出してしまったが、これからどうしよう…。ゆっくり考えていこうと思います^^;
ちなみにNovelのほうでオリジナルの短編公開しました。先日言っていた某所で別PNで公開済みのやつです。
そちらもあわせて楽しんでもらえれば幸いです。
それでは、これからもどうか当サイトともどもよろしくお願いします^^
「言って、フェイトは自分も照れたように頬を染めた。」だと思うのですが・・・
>目の前でにいる車椅子に乗った関西弁幼女と、
「目の前にいる車椅子に乗った関西弁幼女と、」だと思うのですが・・・
感想
・・・まさか高町家ではやてとシャマルに遭うとは流石に思いませんよね。
でも、この時点で会えたんですから、ギル・グレアムの事を聞いたり、闇の書の正式名称をはやてに伝えれば色々変わるんじゃないですかね?
と言うか、なのはは何時からはやてと友達に成ったんですかね?其処の所を次回知りたいですね。
訓練(を受けさせる)は伊達や酔狂でコートを着てる人のセリフだぜい!!
そうか・・・・・、図書館つながりではこの人も有効だったか・・・。
というか、ママさんwwwww
…おかしい。
理想郷に投稿したって言ってたからIDの方でググったのに出なかった。いや、感想版じゃなきゃググッて出ないんだから仕方ないけど。
にしても、『ゆきいわ』ってそこからもじってるんですか?今が『雪』であっちが『岩』だから。そういった意味では、ヒントが出てたんですねぇ。
で、なぜにはやて嬢とシャ○がいらっしゃるんでしょう?あるぇ~?
こ、これは!!!
はやてヒロインフラグか!?(nainai
飲み物こそ含んでなかったけどクロノと同じように素で噴出しちまったwwww
しかし……どうなるんだ?
はやてどころかヴォルケンズ(少なくともシャマル)とはこの時点で面識あり……
闇の書事件の状況がずいぶん変わる気がwwww
というか蒐集はじめたらすぐはやてに行き着いちまうだろこれwww
誤字ありがとうございます。
はやてとシャマルに「遭う」って、二人が災害扱いですね^^ クロノからしたらそんなものかもしれませんけどw
さてさて、なのははいつ彼女らと知り合ったのか?
おっしゃるように、次回明らかにしたいですね。
>タピさん
まさに予想GUYだったでしょうねw
ここから物語がそう進んでいくのか。ぜひ楽しみにしていてください^^
>フツノさん
なん…だと……?
そういえば確かにw 武装錬金であることをわかりやすくするためにカズキのことを書きましたが……受けさせるのはブラボーですよねぇ。
でも、カズキも何でも達人にしちゃう奴だから、気にしないでやってください^^;
シャマルゥはヤンママにしか見えない件。
>Astatosさん
「ゆきいわ」の由来はほぼそうですね。名前の頭文字の合わせです。
はやてとシャマルが出てきちゃいましたw
これからどうなるのか……。ノリで出したとはとても言えないぜ……。
>蛇さん
なんでなのはとはやてが面識があるのか?
そこらへんは次回明らかにします。
闇の書事件はだいぶ変わるでしょうねw
いまさらどうしようとか考えている雪乃こうでした(ぉ
オイラが覗き始めたのがたしか50HITくらいだった記憶があるので、ホントあっという間ですね。
ちなみにサーバー容量は残り600GBほどあるので、500GBほど小説で使っていただいて問題ないですよ^-^
オイラが覗き始めたのがたしか50HITくらいだった記憶があるので、ホントあっという間ですね。
ちなみにサーバー容量は残り600GBほどあるので、500GBほど小説で使っていただいて問題ないですよ^-^
ありがとうございます^^
のべ200万もの方に訪れていただけるなんて、嬉しい限りですよ。
これからも頑張っていきます!
…が、さすがに500GBも使えませんてw 遠慮ではなく物理的にw
でもありがとうございます。これからもお世話になります^^
改めて読み直して、妙なことに気が付きました。指摘しなくても良いかと思ったのですが……。
> ウイルスという外部の細菌が入って来る
と言う部分ですが、ウィルスと細菌は生き物としてまったく異なり、同列に論ずるのは不適切かと思います。
と言うか、ウィルスは果たして生き物として良いかどうかも怪しいところです。
ウィルスと細菌の違い
http://www.iph.pref.hokkaido.jp/Tokushu/Tokushu-Komoku/Influenza/what%27s%20virus.htm
せっかく「体内菌」と言う表現を使ったのですから「体外菌」または「病原菌」と言う表現を使うべきなのではないかと思います。
それこそ重箱の隅になってしまって申し訳ないのですが、どうしても気になってしまいまして。
……そう言えば、以前、PDAについて指摘したことがあったような気が……。
私はこんな事ばかり指摘しているのか……。
返信が大幅に遅れてすみません!
ご指摘本当にありがとうございます。
修正してみましたが、あれでいいのか不安です^^; とりあえずは大丈夫だと思いますが、指摘に感謝します。
これからも明らかにおかしいだろjkということがあれば、ご指摘くださいm(_ _)m
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