2-6
「――これで、終わりかな。こちらクロノ。目標の破壊を確認。どうぞ」
『了解。こちらエイミィ。確認しました。これにて状況を終了します。お疲れ様、クロノくん』
「おう」
もう何度目になるかわからない合同訓練の日。俺とエイミィはいつも通りにコンビを組んでことに当たっていた。一番最初に決めた組で基本的にはずっとやっている。確かにせっかくコンビを組んだんだから、ずっとそのままでやらせてくれるのは俺たちとしてもやりやすいし願ってもないことだった。
『よーし。ハラオウン、リミエッタ両名の任務終了を認める。速やかにミーティングルームまで移動。そこからはいつも通り互いに意見交換しつつ待機。いいな?』
「りょーかい」
『了解です』
俺が気だるげに、エイミィがはきはきと答えると、今日の教官であるブレイド教官は男くさい笑みを楽しげに浮かべて、じゃーな、と映像を切った。……たぶん、いつも通りの俺たちの態度を見て面白がったんだろうと思う。あの人は体育会系な外見に似合って、どこかわんぱくな子供っぽいところがあるから。まあ、気にいられてる分には構わないんだけどな。
……さて、言われたとおりに移動しますか。俺は手に持っていたS2Uを待機状態であるカードに戻すと、懐にしまう。ちなみにG-1は使っていない。
もちろんそれには理由がある。新しいデバイスを授業で使おうと思うと、手続きが面倒臭いのだ。そのデバイスの種類、特性、入手経路などなど。デバイスの宝石部分に似たロストロギアが多いためか、途中から手に入れたデバイスには面倒な手続きがついて回る。G-1はこれ以上ないほどの量産型だが、それでも手続きは一緒だ。それゆえ、いつも持ってはいるものの授業で使うことはしていない。
当分はS2Uにお世話になったままだろうなぁ。新しいデバイスを手に入れたというのに結局は変わらない。俺は少々それを残念に思いつつ出口へと向かっていった。
そんなこんなで訓練終了後。今日は合同であったために、授業後でもエイミィが一緒にいる。いつもはロッサと二人きりだから、ちょっと新鮮だ。とはいえ、合同訓練は一週間に一回はあるんだが。
ってなわけで、いま俺たちは授業が終わり、昼飯に向かうために人が行き交う通路を歩いているわけである。
「もう、クロノくんもう少し真面目に出来ないの?」
「真面目にってもなぁ。一応、訓練中は真剣そのものでやってるぞ」
「そうじゃなくて、終わってからいっつも気が抜けたような反応してるじゃない。ブレイド教官だからいいけど、他の人だったら注意されてるよ?」
エイミィは何やらぷりぷりと怒っている。
まあ、ブレイド教官やロウラン教官が特別だというのは俺にもわかっている。実際、他の教官が担当している講義や訓練では俺の授業態度は見咎められていた。さすがにそれらの授業中は真面目に取り組むようになったが、その分の反動がきているのかもしれない。
まあ、これが素っていう理由が一番有力ではあるけど。
「エイミィ、いまさらクロノにそういうことを要求しても無駄だと思うよ。僕の遅刻みたいにね」
「笑いながら言うことじゃないよ、それ……。はぁ、ロッサくんもこれだからなぁ。お姉さんは二人の将来が心配だよ……」
よよよ、と演技くさく嘘泣きを始めたエイミィを見つつ、俺とロッサはやれやれと肩をすくめる。
もともと姐御肌なのか世話焼きなのか、エイミィはよく俺たちにお姉さん風を吹かせて色々と気を遣ってくれる。それ自体は嬉しいのだが、どうにもエイミィのそれは悪ふざけも含まれているようで素直に受け取れない。
俺はふぅ、とひとつ息を吐くとエイミィに声をかけた。
「まぁ、これでも執務官を目指してるんだ。いざとなったらそれなりにしっかりするさ。それに、そういう厳しい奴を補佐につければいいだろ」
とは言っても、正直そこまで厳しい奴をつけるつもりはない。エイミィみたいにいちいち口を出されては、俺が遊ぶ余裕がなくなってしまう。
……って、待てよ。確かクロノの補佐官ってエイミィが担当してたんじゃ……。
不用意な発言に俺がはっとして口を押さえる。そしてエイミィのほうに視線を向けると、エイミィは輝かしい笑顔で何度も頷いていた。
「なるほどぉ~。つまり、私がクロノくんの補佐官になればいいんだよね。そうすればクロノくんの矯正もできるし、うん。ブレイド教官にもコンビネーション抜群だって褒められてるぐらいだから、そういう点でも問題ないよね!」
まさに名案だとばかりに言うエイミィに、俺は思いっきりさっきの言葉を後悔していた。これでは俺の自由気ままな執務官ライフは夢のまた夢となってしまうじゃないか。
だがしかし、エイミィはやるといったらやる。俺とのコンビも優秀であり、情報の扱いや講義の成績もエイミィはかなりいい。それでいて人格的にも問題はなく、本人は今のところ至ってやる気だ。……原作通りにいったことを喜ぶべきなのか、俺の自由が狭まったことを嘆くべきなのか。判断に迷うところだ。
がっくりと沈む俺の肩に、ロッサが慰めるように片手を置く。
「……エイミィはあれで結構頑固だからね。たぶん、実行するよ」
「……言われなくても判ってる。俺の自由は今ここについえた……」
俺と同じく気ままな生活を送るロッサには、俺の悲しみがわかってもらえたようだ。まあ頑張れ、とありがたい言葉を掛けられました。……はぁ。まあ、気心の知れない奴よりはエイミィのほうがずっといいか。俺はとりあえずそれで納得しておくことにした。
だが、一応……、
「あー……エイミィさん。本気、ですか?」
「もっちろん!」
にっこり笑って言うエイミィ。俺はもう言っても聞かないだろうと諦めることにした。実際エイミィの情報能力、管制技術は情報士官コースの連中の中でもひとつ抜きんでているぐらいなのだ。むしろこれは俺にとって幸運だと考えることにしよう。
はぁ……。これで原作通りか。今回は狙ったわけじゃなかったんだけどなぁ。まあ、原作を外れすぎるのも問題だし、これでよかったのか?
自分の中でなんとか納得しかかっていたそんな時。ふと見ると、通路前方からロウラン教官の姿が。短い紫の髪と精悍な顔つきが少しずつこっちに近づいてくる。向こうも俺が見ていることに気がついたのか、ロウラン教官は俺に向かって片手を上げた。
「おお、いたいた。ハラオウン、ちょっと来い」
「はい?」
俺が思わず疑問の声を出すと、その間に教官は俺の近くまで早歩きで移動してきていた。
「探していたんだ。ちょっとお前に聞きたいことがあってな。お前にもいい話だと思うんだが……まあそれは後だな。とりあえず少し時間をくれ」
「えっと……俺ら、これから昼メシ食うんですけど……」
「俺が用意してやる。……悪いなアコース、リミエッタ。少しハラオウンを借りるぞ」
「はぁ」
「は、はい」
二人の気の抜けた返事を聞くと、教官はひとつ頷いて俺の腕をとって断りもなく歩きだした。ひきずられるように教官の隣で歩く俺。背後に見える二人の姿がどんどん遠ざかっていくぜ。
しかし教官も何なんだろう急に。俺にもいい話、とか言っていたが。教官のことだから嘘は言わないだろうし、本当に俺のためになることだと思っているからこそこれだけ熱心に俺を連れていこうとしているのだろう。個人的には強制と紙一重で俺は連れられているように思うが。
教官が歩いていく先はついに教官たちの職務室のほうへ。どうやら教官のオフィスに向かっているらしい。
――はてさて一体どんな話をされるのか。俺はほんの少し期待感を交えながら、教官の後についていった。
で、俺は今ロウラン教官の部屋にて接待用のソファに座らされている。教官はというと、部屋に併設されているキッチンでお茶を入れてくれている最中だ。ついでに昼飯は店屋物――というか、食堂のデリバリーサービスだ。あの食堂、そんなサービスしてたのか。なんというか、変な食堂だと思う。
もちろん俺は塩ラーメンを希望。珍しいな、なんて言いつつ自分のメニューとともにそれを注文してくれた教官。しかも奢ってくれるらしい。さすがは教官。イケメンすぎる。
そしてロウラン教官がお茶入れるためにキッチンに向かった直後、頼んでいた商品が到着した。
……早い、早すぎる。どこぞの兄貴とタメ張れるぐらいに速さが足りている。いったいどんな手を使ったのだろう。料理を持ってきたウェイトレスさんを思いっきり凝視するが、彼女はゼロ円のスマイルを披露してくれるだけで何も答えてはくれなかった。そのスマイルでちょっと幸せな気分になってしまったのは秘密だ。
そんなこんなで、今は教官のお茶待ちである。俺も手伝うと言ったんだが、客なんだから大人しくしてろと一言。俺は素直に従って目の前のラーメンを見つめている。塩だけにスープの色が薄い。具はオーソドックスにネギ、もやし、コーン、わかめ、メンマ、チャーシュー、ナルト。ホントこれ、一体どこから伝わったんだろう。グレアム提督がいるんだから地球の出身者が他にいたって不思議ではないけどさ。ナカジマ家だって先祖はそうらしいし。
ラーメンはどうやってこの地に伝わったのかを俺がじっくり考えている間に、教官はお茶を淹れ終わったらしい。俺と自分の前にカップを置き、対面に腰を下ろした。俺は置かれたカップを見て少し憂鬱になった。ラーメンに紅茶は合わないと思うからだ。だが、カップの中を覗いてちょっと驚いた。中身は緑茶だったのだ。
どうやら俺のメニューを聞いて気を利かせてくれたらしい。……とはいえ、緑茶もラーメンに合うかといわれれば微妙なんだが。
しかも、だ。
俺はカップに口をつけて緑茶を一口すする。
(ぬるい……)
そりゃ、紅茶用のカップに入れられてるんだから熱々でないのは当然だ。湯のみほどの厚みがないのだから。緑茶を持っているのに、湯のみはないのだろうか。これは教官のうっかりなのかそれとも本当に持っていないのか。疑問は尽きないが、とりあえずは飯を食おう。話はそれからだ。
そんなわけで、箸を割ってずるずると一口。……うまい。やはりラーメンがあるからこそ俺は日々頑張れているんだと思うね。故郷の味はやはり懐かしく嬉しいものなのだ。
「……むぐむぐ、そうひや教官。話ってなんすか?」
「む……んっ、とりあえず食い終わってからにするか」
「賛成っす」
そんなわけで再びラーメンを一口、ずるずる。ああ、美味い。
食事が終わり、お茶も頂いた一服の時。空になった食器類を脇にどけて、俺と教官はソファに背を預けて満腹感と共にまったりとしていた。
あー……気だるい。どちらかというと心地よい気だるさ。このまま寝れたらどんなに幸せだろうと思う類の奴だ。接客用のためかこのソファも柔らかくて気持ちいいし。いいなぁ、これ。俺の部屋に置いてそこで寝起きしたいぐらいだ。
ふかふかのソファの上でだらけきっている俺たち二人。そんななか、教官はおもむろに立ち上がるとデスクの上に置いてあった書類をひとつ手にとって、テーブルの上に置いた。
つられるように俺は前のめりになってその書類を覗き込む。なになに……『地上本部隊主催実地演習訓練概要』? なんだこれ。
「これは毎年うちの学生が実地演習という名目で地上本部に派遣される、という企画だ。学校では学べない経験、実戦の空気、魔導師の仕事について知ることができるという点で毎年成果を出している恒例行事だ」
俺が内心で思ったことを敏感に感じ取った教官が、書類を指でなぞりながら説明してくれる。俺はそれを大人しく聞いていた。
「基本的に行くのは陸海空クラスの連中ばかりだが……別にクラスやコースに制限はない。ただ、地上部隊の前線だから陸海空――特に陸士官志望者ばかりだっただけだ。……まあ、前線と言っても戦闘はほぼない。調査任務などが回されるように手配してあるからな」
「へぇ……」
戦闘がないのはまぁ、学生にいきなりというのは酷だから当たり前だろうな。しかし、なかなか面白い企画だと思う。感じとしてはインターンシップみたいなものだろう。ちょっとした職業体験ってことだな。
「ただ……この企画、五日間で予定されているんだがな」
教官はそこで一度言葉を切った。俺が思わず教官の顔を見ると、教官はにっと笑った。
「最初に一日が説明とか施設の見学案内。二日目と三日目が回されてくる任務に従事。四日目と五日目は地上本部の人間相手に対人戦闘。いうなれば模擬戦だ。それをみっちりやらされる。相当きついらしいが……相手は近接のスペシャリストである陸戦魔導師のエースを用意してくれるらしい。……ハラオウン、お前これに行く気はないか?」
「行きます!!」
即答した。
これを見逃す手はないだろう。なにしろ、近接魔導師としては最高の強さを持っている陸戦のエースと対戦させてもらえるのだ。戦いの中から学ぶことなどそれこそ星の数ほどあるだろうし、実際に話を聞いてもらったり俺のスタイルを見てもらうのもいい。それがどれだけ俺にとって良い経験となるか……想像するに余りある。
空戦と陸戦の違いはあるので当然目指す型は異なるが、近接戦闘をする上での基本概念が異なるわけではない。接近するための技術や接近してからの有効な攻撃方法。遠距離にいる相手への対応。学ぶことはいくらでもある。実戦で磨かれた技を持つエースが繰り出す攻撃は、受けるだけでもいい勉強になりそうだ。
それに任務や施設などを見せてくれるのもいい勉強になる。俺は陸士官になるつもりはないが、執務官試験の学習範囲の中には陸海空の様々な項目も存在する。実際に目で見てそれらの項目の確認を行うのも非常に有意義なものになりそうだ。
行きたいか行きたくないかといわれれば、行きたいに決まっている。だからこその即答だ。そして教官はそんな俺の反応は想定済みだったのか、満足げな表情を浮かべている。
「お前ならそう言うと思っていた。希望者の中に早速お前の名前を加えておこう。お前はわりと珍しいタイプの魔導師だから、こうして色々な経験を積むことは大事だし必要だろう。珍しいということは前例が少ないということだ。これから進む道は自分で模索していかなければいかん。そのための選択肢を多くするに越したことはないからな。そのためにもいい勉強になるだろう」
「教官……」
思いのほかジーンと心に響いた。まさか俺のことをそこまで考えてこの話を持って来てくれたのだろうか。
後から知った話だが、例年陸海空クラスの人間しか参加しないので、いつしか特殊士官や情報・技術士官のクラスには話自体もって行かなくなったそうだ。ということは、わざわざ教官は俺のためにこれを教えてくれたということだ。そこまでしてもらったことを思うと、ありがたさに感謝の言葉もない。
俺が感動していると、教官は照れ臭そうに頬を掻いた。
「……まあ、これが俺の仕事だ。それに、お前は知らないでもない関係の奴だからな。これぐらいのことはしてやりたくもなる。別に規則を違反しているわけでもないんだから問題はない」
確かに、こういったものがあると勧めただけだから違反はしていない。だが、教官に言われなければ俺はきっとこの企画に気づかなかったことだろう。そう思うと改めて感謝である。
「それに、お前は格段に成長が早い。入って来た時にはBだったのに、わりとすぐにAまでいった。このままなら卒業時にはAAにいくかもしれん。一年の間で二つもランクが上がる奴はそうはいない。だから、お前がどこまでやるのか俺も興味があるんだ。教官として、教え子の成長を願う気持ちもあるがな」
そう言う教官の顔は充実したものだった。本心から自分の仕事とそれによって育っていく生徒たちに誇りを持っていることが窺えて、俺は何となく口を閉ざした。
そして教官は過去を思い出すように遠い目をすると、何かに促されるように口を開いた。
「……以前、首都防衛隊にいた頃の俺はこれほどのやりがいを感じたことはなかった。もちろん首都防衛隊は大事な仕事だ。それなりに成果も出したし、危険と隣り合わせで後ろを守っている達成感もあった。だが……どうにも俺は任務で出ている時より、平時で後輩たちに指導している時のほうが楽しくてな。隊長にまでなったってのに一念発起してこっちに転職したのさ。
それからは首都防衛してた時みたいなスリリングな毎日ではなくなったが……その分、お前たちのように若い奴を育てるようになった。俺の指導一つでお前らが戦場で生き残る確率が変わる。そう思うと、こっちのほうが俺には怖い。なにしろ俺が安全な所にいる間に、お前らが死ぬかもしれないんだ。これは正直今でも慣れなくてな。だからこそこうしてお前が死ぬ確率を少しでも下げようとしてるんだが」
教官はそう言って苦笑する。
以前、教官は部隊指揮官をして負けなしだったらしいという噂を聞いたことがあった。負けなしだったかどうかは分からないが、本当に教官は以前指揮官だったようだ。それも、首都防衛隊というエリート中のエリート。実力も学歴も全てが揃っていなければ配属することを許されない、首都を守る絶対防衛戦。その隊を率いる立場であったという。そんな立場にいるからには、権力もそれなりにあっただろうし、収入も比例して莫大なものだっただろう。とてもいち教官とは比べ物にならないほどに。
それでも、教官はこっちに来たという。人に教える方が性に合っているからという理由で。普通に考えればとんでもない理由だが、教官はその選択に後悔はないようだ。今こうして笑って話していることがその証拠である。
「少々関係ない話になったが、俺はそれだけお前にも期待しているということだ。お前は才能もあるし、努力もしている。今後、卒業した後に自分の身を――ひいてはその後ろにいる人たちを守るためにも、力をつけることは必要だ。だがしかし、力をつけることは手段であり目的ではない。お前の目的が何なのかは俺も知らん。しかし、お前がそれほどまでに必死に執務官試験の勉強をするからには、相当な目標なのだろう。故にだからこそ、今此処で力をつけ、演習ではあるが管理局の仕事を学んで来い。それはもし執務官となれなかったとしても、お前の目標を支える力になるはずだ」
「教官……――ありがとうございます」
俺はそれ以上言葉を発することが出来なかった。ただ一言だけ述べて、立ち上がると頭を下げた。
これだけ生徒のことを考えてくれる教官がいるだろうか。恐らくいたとしても少数で、出会えない可能性のほうが高いだろう。その点、俺は幸福だと言える。これだけ俺たちのことを考えてくれる教官に担当してもらえたのだから。
俺が頭を下げると、教官は気にするなと一言言って立ち上がった。そして、今までテーブルの上に置かれていた書類を持って俺に差し出す。
「これはこの企画に関する資料だ。過去にどういうことをしたのかも書かれているから読んでみるといいだろう。まあ、過去のものに比べれば今年の任務は退屈かもしれんな」
渡された書類を受け取った俺は、いい任務を回してもらえなかったことが残念だったのか少し無念さを感じさせる顔を見せる教官を見て、その任務内容に興味をひかれた。
「どんな任務なんですか?」
単刀直入にそう聞くと、教官は押し黙った。しかし、すぐにそれぐらいはいいと思い直したのか口を開いた。
「詳細は言えんぞ。さわりだけだ」
「もちろん、それでいいです」
仕方のない奴だ、と言わんばかりに教官は小さく笑みを見せてその任務がどういったものなのか教えてくれた。
「まずは危険度Eランクの魔法生物の確保・保護だな。場所はクラナガンからはヘリで移動するほどの遠くだ。危険度Eだから、ほぼノーリスクだろう。他にもクラナガン郊外でここ最近頻発している地震の調査。危険は正直ないだろうな。震度もそれほどのものではない。ただ、空気中の魔力素が少し乱れていたから管理局が介入するだけだ。その乱れ自体は自然に起こり得る範囲内でもある。他にも様々な任務があり、それぞれに参加者を数人に分けて割り振る予定だ。これらの任務は基本的に市民からの報告や苦情によって発覚した物を中心としている。
……つまるところ、管理局が市民生活にどれだけ貢献しているかのデモンストレーションといった意味合いが強いだろう。お前たち学生を受け入れたのも、懐の深いところをアピールするためだろうな」
「……教官、それ言ったら身も蓋もないじゃないですか」
「だが、恐らくはそれが事実だ」
そうなのかもしれないが、もう少しオブラートに包んでもいいんじゃないだろうか。あまりにも飾らずに言う教官の言葉に俺は呆れまじりにそう言うが、教官は全く堪えていないようだった。さすがは元首都防衛隊隊長。多少のことでは小揺るぎもしないらしい。……激しく間違っている気がするが。
「……まあ、どちらかというと俺の目的は陸のエースとの模擬戦にありますから。任務はそこまで重視してないですよ」
「だろうな。だが、退屈だからと侮るなよ。受けた任務はすべて真剣に取り組め。それでこその経験だからな」
「了解です」
教官の言葉に敬礼で返し、教官も敬礼で返す。悪ふざけみたいなものだったのだが、教官までやってくれるとは。生徒思いな人だ。
「さて昼休みももう終わる。時間を取らせてすまなかったな」
「いえ、有意義でしたから。ありがとうございました」
「いや。頑張れよ」
教官の言葉を受けて、俺は威勢良くはいと答えると教官の部屋を後にした。空気音とともに背後で扉が閉まり、俺は教官の部屋の前で手の中の書類に目を落とす。
そこに記された日時は今から約一ヶ月後。一ヶ月ならばすぐにくる。俺はどうしても笑みを抑えられず、その場を移動しながら口の中で笑みをこらえていた。陸のエースクラスとの戦闘ならシャッハさんとの模擬戦(最初の時以降、たまに稽古をつけてもらっている)でも経験しているが、やはり多くのタイプの人間と戦うことは戦術に幅を持たせることにつながる。なにより、俺が面白い。やはりロッテの影響が強いのかもしれないな俺は。バトルは好きだ。否定はしない。
そのままニヤニヤしつつ通路を突き進んでいく。思わず押し殺した笑い声もこぼれてきてしまうほどだ。くっく、となんとか笑みをこらえようと試みながら歩いていると、いつの間にか目の前にはエイミィとロッサの姿。どうやら昼食を終えて教官の部屋に俺を迎えに行くつもりだったらしい。
俺が顔を上げて笑顔を見せると、ロッサとエイミィは少し引いたようだった。いったい何だというのだろう。エイミィはその俺の笑顔をびしっと指さすと、まこと失礼極まりない暴言を吐いてきた。
「気持ち悪い!」
さすがの俺もそれだけストレートに言われては傷つきますよ?
……ひどいやアスカ。
あれやこれやと言っている間に、一ヶ月が経過し。
そしてまさに今日この日が、俺が五日間の地上部隊研修に旅立つ日であったりする。そんなわけで、いま俺はクラナガンの地上本部へと向かうヘリが待機している学校の屋上に来ているわけだ。
見送りの友人たちと共に。
「大丈夫クロノくん。忘れ物は? ハンカチとティッシュは持った?」
「ええい、鬱陶しいなお前は! お前は俺のお袋か! 俺のお袋はお前とは似ても似つかない超美人だぞコノヤロー!」
「え、なに。何て言ったの、クロノくん」
「いや、ごめん。ほんとごめん。嘘です、ホント。心配してくれてありがとう、相棒」
「うん、よろしい」
にっこり微笑むエイミィに安心してしまう俺は、もう完全に尻にしかれたダメ亭主そのものだった。ちくしょう、古き良き日本の亭主関白はどこへ行ってしまったんだろう。俺より先に寝てはいけない、とか言ってみたい。言った瞬間、笑顔で「嫌」、だろうけど。
だが勘違いするなよ。亭主関白だとか言っても別に俺とエイミィがつき合ってるとかそういうわけではない。ただ、もうホントにこの半年間ぐらいですっかりエイミィの中で俺のお姉さんというポジションが定着したらしく、家族のようなと言っても差支えないぐらいに気を許しているだけのことだ。つまり、いつの間にやら俺もまたエイミィに何となく姉のようなそんな印象を持っている。だからこそ、これだけ砕けて話せるのだろうけど。
そして俺が言った“相棒”とは、これまたそのままだ。いつもコンビを組んでいることと、今言ったようにエイミィが俺のことを弟だと思っているせいか、俺が執務官となったらその補佐をやると言い出したからだ。俺は最初はちょっと渋っていたのだが、しばらくすればそれもいいかと思うようになった。せっかく仲良くなったのだし、卒業したらはいさよならでは寂しすぎる。だからこそ、もし俺が受かったら絶対にエイミィに頼むと約束したのだ。
だから、俺はたまに相棒と呼んでやっている。そうするとエイミィは喜ぶからだ。俺もエイミィのことはそれなりに大事に思っている。それぐらいはしてやってもいいかな、と思うぐらいには。
さて、エイミィが少し下がると、今度はロッサが前に出てくる。いつもどおり小さく笑みを浮かべながらロッサは口を開く。
「君のことだから心配はいらないと思うけど、怪我と病気とやりすぎには気をつけてね」
「お前も別の意味で鬱陶しいなおい」
さりげなく失礼なことをほざいた親友に、軽く拳を向けてやる。ロッサは苦笑して自分の拳を俺のそれに合わせた。
「ま、五日間だけとはいえ貴重な経験だからね。帰ってきたら色々聞かせてくれよ」
「おう。楽しみに待ってろ」
そんな俺らのやり取りを見て、エイミィは男の子だね~、なんて言っている。……別に普通だと思うんだが。
「よーし、時間だ! 地上部隊出向班は全員搭乗! 五分後に出るぞ!」
引率を受け持つブレイド教官の声が、火を付けられたヘリのエンジン音に張り合うようにして響き渡る。それを聞いて、俺と同じように仲間と何やら話していた連中は次々とヘリに乗りこんでいった。
俺もまた同じようにヘリに向かう。
「それじゃ、五日後にな!」
「頑張ってきなよ、クロノ」
「無理はしないようにね~!」
大きく手を振る二人に手を振り返し、俺はヘリに乗り込む。そして中でシートベルトやヘリに乗っている際の簡単な注意を聞いた後、身体が浮くような感覚と共にヘリは地上から離れていった。
向かう先はクラナガン地上本部。そこで俺はこれから五日間を過ごすことになる。
……はず、だったんだが。まさか最終的には一ヶ月ほども滞在することになってしまうとは露にも思っていない、この時点での俺なのだった。
※どこぞの兄貴とタメ張れるぐらいに速さが足りている。
もちろん「スクライド」のクーガー兄貴。世界三大兄貴の一人として数えられる男の中の男。もし会えたら早口言葉を聞いてみたいと私は思う。
※気持ち悪い、ひどいやアスカ
当然「エヴァ」。劇場版最後でアスカがシンジを見て気持ち悪いとつぶやいたことから。結局、あれどんな意味があったんだろう。
あとがき
現実(レポート)逃避の結果、今週中にあげられました。やった、僕はやったよ父さん!
orz
とりあえず、オリジナル展開キタコレ。まあ、もともとオリジナル展開だろ、というのは置いておいて。
とりあえず、クロノが学校を離れて地上本部に赴きます。とはいっても、実習企画で行くので、任務やらといったスケジュールの行動をとることになるのですが。
その中でクロノはどうなってしまうのか。
とりあえず、待て、次回!
>これからの進み道は自分で模索していかなければいかん
「これからの進む道は自分で模索していかなければいかん」だと思うのですが・・
感想
更新待ってました~俊です。
エイミイとのコンビネーションが一段と良くなったようですね。此れなら何時でも夫婦漫才が出来るんじゃないですか?
地上本部への出向研修で陸戦魔導師のエースとの模擬戦との事ですが、その対戦相手ってもしかして、槍を使うベルカの騎士か両腕にデバイスを装着した人妻陸戦魔導師ですか?もしそうならクロノの人脈が更に凄い事に成りそうですね。
地上での任務で地震の調査と有りますが、もしかして以前張った伏線の回収ですか?それなら物凄く楽しみですね。
此れからも頑張って下さい。
アスカの最後のアレは気にしたら負けですよ
一番気になるシーンでしたけど
オリジナル展開は二次創作の醍醐味ですからどーんと逝っちゃってください
更新お疲れ様でした
順調にエイミィとの絆が深まっているクロノ氏。
この絆、相棒として深まるのか、男女の仲として深まるのか興味は尽きないところです。
そして始まる新展開! 何やら想定外の事が起こりそうで非常に楽しみです。
では、次話も楽しみにお待ちしますね
PS
エヴァは電波アニメなので大した意味は無いと思う。
あの作品からでしょ? 出鱈目なアニメが増えたの。
あはぁ~……エイミィに外堀がガジガジ削られているなぁ……某TRPGのSAN値のごとく
それに、微妙に死亡フラグが立っているような?
世界三大兄貴に浩二が入っていますが……なにか?
徹夜で読み直していますが、何か?
SS introduce は、
ss introduction にした方がいいですよ。
ss introduce では、「ssが紹介する」になっちゃいます。「何をだよ」と突っ込まれます。
誤字報告ありがとうございます。すぐに直させていただきました。
地上部隊のエース…誰が出るのか。また、任務体験は何をしてどうなるのか。どうかお待ちください。
ただひとつ言うと、次回の次回…ぐらいかな? 「この人、この時期にここにいんの?」という人が出てきます。
時系列的にはいてもおかしくはないと思うんですけどね…。
>レネスさん
いまだに気になるアスカのシーン。新劇場版でそこらへんのモヤモヤが払しょくされることを願いますよ^^;
これからのオリジナル展開、どうか生暖かい目で見てやってくださいw
>紫さん
エイミィとの関係もすっかり板に付いてきました。これからどんな関係になるのかは置いておきましょう。
まあ、私の中でヒロインを誰にするかは確定しつつあるんですが。
新展開では、意外なキャラが登場予定。もし出てきても、石とか投げないでほしいです。どうかお楽しみに^^
エヴァは第三次アニメ革命とも言われてますね。ちなみに第一次はヤマトで、二次はガンダムだそうです。
>犬吉さん
これからどう展開していくのか。拙い文ではありますが、どうかよろしく!
三大兄貴にロムが入りましたか。
公式ではカミナ、クーガー、ディオっぽいんですが…結構三人目はバラバラですよねー。
>フェイクさん
ようやく更新しました~^^;
まあ、まだレポート地獄は続いているので、更新はしばらくないと思いますけど。
エイミィとの関係は…保留でw はてさて、いったいクロノのお相手はだれになるんでしょうか。死亡フラグは気のせいですよ、うん。
……三大兄貴、浩二もありだ。
>U-39さん
直しておきましたー。ありがとうございます^^
最初は私も「introduction」にしようと思ってたんですが、どうもintroductionは「説明」という意味がイメージとして強くて。
今回指摘されましたので、直しておきました。
アスカのあれは、最終回の場面を当てる番組の時におまけとして話に出てましたが、監督がしっくりくるセリフを思い付かず、声優に自分のプライベートスペース(心の中)に勝手に入られたらどう感じるかを聞いてこれだ、ときたらしい。本当かは知りませんが。
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